第一話 第九部 家に帰っても
私は部活を終えた後、家までたどり着いたがいまだドアを開けられずにいた。外で五分間もたったままだった。入れない雰囲気が漂う気がしたからだ。今日の出来事のことを考えるとどんなことを話せばよいのか、家の中にはいって怒られるのではないのだろうか。はたまた今日のことを反省してくれてやさしく接してくれるのだろうか。私は覚悟を決めてドアに手をかけた。
ガチャ。
ドアの開ける音だけが部屋の中にこだました。ベランダの電気はついているけれどもそちらのドアも開いている。
佐奈「……ただいま。」
私は姉に聞こえないぐらいの声を出した。やはり反応は返ってこない。私は玄関に一度荷物を置いてベランダへの扉にも手をかけた。無音でドアが開いてく。開いた先にはご飯の準備を整えて自分の椅子に座ろうとした姉の姿がいた。
佐奈「…ただいま…。」
真菜「…おかえり。」
私のかすれ声にも反応してくれた。私は何も喋らずに椅子に座った。姉からは威圧感を感じない。圧迫するような眼光もない。ただ、静かに座っている姉の姿がそこにあった。
真菜「…手洗いうがいをしなさい。」
佐奈「…あ、ごめん。」
私はゆっくりと立ち上がり、台所の水道の前に移動してうがいと手洗いをした。
真菜「……本気で私に勝とうと思っている?」
私はその言葉に手がとまった。蛇口から通っていく水が手に当たり、下にボタボタと落ちていく音だけがリビングに響きわたる。
佐奈「当たり前だよ。」
私は自分でこの言葉を吐いて恐れをなした。
真菜「そう……でもあなたたちの練習に対する態度、それと技術も含めて考えても。地区大会優勝までが限界だとおもうけどね。」
私はタオルで自分の手を力強く拭きながら聞いていった。怒りをまだおさえていた。
佐奈「じゃあなんであの時、あんな言葉を吐き捨てたの。」
真菜「あなたたちに激を入れるためよ。」
私の質問に姉は即答した。なんにも感じられない、そんな言葉に聞こえた私はガツガツと姉の座っている席の前にたった。
真菜「本当よ。私の言っていることは本気。」
佐奈「どこがそう見えるの! 私は一生懸命やっている! 堀近さんも! ほかの選手だって!」
真菜「私にはそう見えなかったわよ。佐奈と堀近がいくら頑張っていようとも、他の選手たちに覇気が見えなかったわ。」
佐奈「!!」
ガダッ
その言葉に私の怒りは抑えきれず、姉の胸倉を掴んだ。私は涙目になりながらも姉のことをにらみつけた。
佐奈「どうしてそんなことが簡単に言えるの!? あの人たちは皆頑張っているよ!」
真菜「それじゃあもう一度練習風景を見渡してみなさい。全体をしっかりとみればわかることもあるはずだわ。気づくのが遅ければ試合で知るのが一番わね。」