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ニコポナデポ! ~無能者に転生した俺は最強かもしれない~  作者: AQ(三田たたみ)
第七章 神官

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その5 暗闇の中へ

「くれぐれも無理はしないようにな、ジロー君」

「先生の方こそ、お気をつけて」

 柔らかな木漏れ日が降り注ぐ菩提樹の下で、俺はビザール先生と固い握手を交わして別れた。まるで戦友にでもなったような気分で。

 そうして一人になった後で、俺は真の作戦――『ガンガンいこうぜ』を発動。

 最大の武器は、俺の手のひらだ。

 このハンドパワーを使えば、リスクは大幅に軽減できる。研究員だろうと魔獣だろうと触わりまくって懐柔して、可能な限り証拠を集めまくってやる。

 これは『悪用』じゃない。皆を守るために必要なことで、女神の意志にも背いてないはず……。

 と自分に言い聞かせつつ、俺はネズミのナビゲーションに従い、光に満ちた中庭を足早に抜けて行く。

 しかし、隠密行動なんて前世も含めて初めての体験だ。ローブ姿の俺が歩いていたところで、誰かに見とがめられることはないというのに、人とすれ違うときはついドキドキしてしまう。

 なるべく顔を伏せ、己の気配を消しながら、ニンジャにでもなった気分で進んで行くと。

『ココデス』

 ネズミに案内された場所は、裏門の近くにある石造りの建物だった。

 一見すると地味なガレージといった外観だが、実は魔石工場の搬入口になっているのだと、昨日アンジュが教えてくれた。

「なんだか“嫌な感じ”だな……昨日は来たときは、そうでもなかったんだけど」

 急に不安になってきた俺は、キョロキョロと周囲を見渡してみる。

 ここまで来るとさすがに学生の姿は見当たらない……というか丸っきり人気がない。

 たぶん、花や緑のない寒々とした景観が人を遠ざけているのだろう。『七不思議』が生まれるのも納得できる、いかにも陰気な場所だ。

 念のため、俺は裏門の傍まで行ってみた。

 物理的な門は固く閉ざされ、銀色狼の結界と合わせて二重のバリアが立ち塞がっている。そこには門番もいない。

 夜になればこの場所の雰囲気は一変する。門番たちは皆こちらへ移動し、運び込まれる緋水晶のチェックを行う。

 出入り業者と門番の一部は、確実に『犯人』の息がかかっている人物だろう。

 お目こぼしをされた荷馬車の中には、無垢な動物たちが紛れ込んでいるかもしれない。

 もしくは、荷物を下ろして空っぽになったはずの荷台に、恐ろしい魔獣が積みこまれているのかも……。

『デハ、イキマショウ』

『お、おう……』

 若干ビビりぎみな俺に頓着せず、ポケットから飛び出したネズミが、ちょろちょろとガレージへ向かって走り出した。俺も慌てて後を追う。

 ガレージの大きさは馬車が数台収まる程度。窓は無く、前面はシャッター代わりの頑丈な鉄扉で覆われている。当然、結界も強固だ。

 ここは地下工場へ部外者がアクセスできる唯一の入り口だし、万が一にも産業スパイに潜入されないよう、アリンコ一匹通れないような仕組みになっている。

 そんな場所にいったいどうやって入るんだろう……と思いながらネズミの姿を見守っていると。

 巨大な鉄扉の前で立ち止まったネズミは、くるんと身体を反転。尻尾の先で鉄扉をパシンと叩いて。

『ケッカイニ、アナヲアケマシタ』

『えッ、そんなことして大丈夫なのか? 結界が消えたらさすがにマズいんじゃ……』

 反射的に思い浮かべたのはアンジュの特殊能力だ。しかしネズミは尻尾をふりふりしながら否定する。

『ダイジョブデス、コノトビラダケ。ジカンガタテバ、モトドオリ』

『おお、マジかよ。お前の力すげーじゃん!』

 とベタ褒めしつつ、俺は引き戸になっているその扉をスライドさせようとしたものの。

 ……開かない。

 何度やっても開かない。

『なあ、まだ結界張られてるっぽいんだけど』

『ココカラ、トオレマス』

 語尾に「キリッ!」とつく感じでそう言うや、ネズミはさっき尻尾で叩いたあたりに首を突っ込み……そのままスルンと消えてしまった。

「えッ?」

 慌ててしゃがみ込み、その部分に指先で触れてみると、スカッと向こうへ通過した。扉はしっかりと目に見えているのに手が通ってしまうなんて、まるで手品みたいだ。

 つまり、そこには確かに穴が開いていた。

 直径約十センチの穴が。

『サア、ハヤクコチラヘ』

『――こんなん通れるかッ! 小さすぎるわッ!』

『チョ、チョットマッテクダサイ』

 再びガレージの中から現れたネズミが、ぴょんぴょんとジャンプしながらペチペチと扉を叩き続ける。

 叩くこと二十五回で、ようやく五十センチ程度の穴が開いた。俺は四つん這いになってその穴を通り抜ける。

 ネズミは、コロンと転がったまま動かなくなった。

『……魔力切れか』

『ハイ、スミマセン』

『いや、こっちこそ重労働させて悪かったな。そんで、この穴ってどれくらい持つんだ?』

『ネズミジカンデ、イチニチデス』

『ニンゲン時間だと?』

『ジュップンデス』

『――クソッ、時間がねぇ!』

 暗がりに目を慣らしている余裕はなかった。

 俺はネズミの案内に従い、壁に手をつきながら地下道へと足を踏み入れたのだが。

「しかし、扉の中と外じゃ別世界だな……向こうが天国なら、こっちは地獄だ」

 まるで時が止まったかのような静寂と、おぞましい漆黒の闇。身体にねっとりと纏わりつく湿った空気。通路はかなりの急こう配で、気を抜くと転びそうになる。

 できるなら、ポケットに忍ばせた魔石で明かりをつけたいところだけれど、万が一研究員に見つかったらマズイので控えておく。

 代わりに自分の直感をアンテナして進む。

 下り坂がなだらかになった頃、前方に微かな明かりが見えた。たぶん緋水晶の保管庫だろう。

『ソチラデハアリマセン』

 誘蛾灯に引き寄せられる羽虫のように、明かりへと向かっていた俺の身体は強制ストップ。ネズミに言われるがままに、その手前の壁を押してみると……手ごたえがなかった。

「なるほど、これが隠し通路か。なんかRPGのダンジョンみたいだな」

 名残惜しく思いながらも、薄明かりに背を向ける。そして再び凍てつく闇の中へ。

 いくつもの分かれ道をクリアし、螺旋を描くように下へ下へと降りて行き、辿りついたダンジョン最深部には、ガレージと同じ黒くて分厚い扉が一つ。

 俺は迷わずその扉に手を伸ばし……。

「――ッ?」

 指先が触れた刹那、俺は弾かれたように後方へ飛び退いていた。

 扉の奥から、何やら異様な気配がする。

 一気に鼓動が速くなり、全身の毛孔からドッと汗が吹き出す。

『なあ、ネズミ……なんかここヤバい感じするんだけど……これって“普通”なのか?』

『フツウ、デハアリマセン』

『どういうことだ?』

『ワカリマセン、スコシオマチクダサイ』

 僅かながら魔力を回復したのか、ポケットから飛び出したネズミは扉の隅をパシンと叩き、その向こうへ消えて行った。

 途端に襲い来る、不気味な静寂。

 俺は流れる汗もそのままに、ただ震えながらネズミの帰りを待った。真綿で首を締められるような恐怖感に必死で耐えながら。

 ……肝試し、なんてレベルじゃない。

 あの扉の奥にいるのは、幽霊なんかよりもっと恐ろしいものだ。確実に俺を殺せるもの。

 いや、俺だけじゃなく、地上で暮らす人々を皆殺しにするような悪魔がいるんだ。

「そーいや、神父さまはいつも言ってたよな……魔獣を甘く見るなって」

 最後の強がりで、俺は乾いた笑いを漏らした。

 正直この施設に近づくだけで嫌な感じがした。俺の直感は「やめておけ」と訴えていた。今の俺に太刀打ちできる相手じゃないと。

 まさにRPGと一緒だ。俺はレベルが低いくせに、ラスボスのいるダンジョンへ乗り込んでしまった……。

 ぼんやりとそんなことを考えていると、足元で「キキッ」という小さな声が鳴き声がした。

 ハッとして、意識をテレパシーモードへ切り替える。

『戻ってきたのか、どうだった?』

 するとネズミは、俺のブレザーのポケットへ駆け上ることもせず、尻尾をだらりと下げたまま告げた。

『シンデイマス』

『えッ……死んでるって、何が』

『ワタシノチチガ、シンデイマス』

※誤字修正しました。

※一部モノローグ(魔獣関係)を修正しました。

※一部モノローグを修正しました。

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