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ニコポナデポ! ~無能者に転生した俺は最強かもしれない~  作者: AQ(三田たたみ)
第五章 皇子

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その4 ランチタイムの攻防

「おお、今日も良い天気だな!」

 青空の下に飛び出したクレールが、猫のようにうーんと伸びをする。

 この一週間で何度も目にした光景だというのに、その表情はあきらかに違った。

 今のクレールは本当に楽しそうだ。

 一人ぼっちでパンの欠片をかじる食事から、俺と知り合って多少のおかずと会話が加わって。

 そして今日、人数は五人になった。アンドレは『監視役』という名目だけど、実質全員が友達だ。

 まるでピクニックに来たような感覚だった。固い石の床に絨毯を敷き、革靴を脱いで、ツヤツヤした黒塗りのお重を中心に着席する。

 お重の蓋が開かれた瞬間、俺の両脇に陣取ったペルルとクレールが、わぁっと歓声をあげた。肉、魚、野菜とバランスの整った、フレンチのフルコースを思わせる豪華なおかずを前に、俺もゴクンと唾を呑みこむ。

 そんな俺たちを見て、ニコニコしながらアンジュが告げた。

「我がミストラル家の料理長が、腕によりをかけて作ったものです。遠慮なく召し上がってくださいね」

「いただきまーす!」

 本当に遠慮の欠片もないペルルが、さっそく分厚いステーキを取り皿に乗せた。

 小心者な俺は念のため再確認。

「本当にご馳走になっていいのか?」

「はい、どうぞ。皆さんがお好きなものを召し上がられましたら、わたくしも箸をつけさせていただきますので。あ、お兄様は今のうちにお茶をお願いしますね」

 天使の笑みを浮かべながら、しっかりと兄をこき使うアンジュ。俺が「何という大和撫子!」と感動しつつ温野菜に箸を伸ばすと。

 クレールが、黒目がちなその瞳をすっと細めた。

 そして右手に掲げた黒塗りの箸を、膨大な魔力で煌めかせ――

「二人とも待て、先に食べるのはわたしだ!」

 そう叫ぶや、取り皿におかずをガガガッと乗せ始める。全てのおかずを一口ずつ綺麗に切り分け終わると、今度は端からザザザッとかきこむ。

 それほどまでに腹が減ってたのか……。

 いや、今までずっと腹いっぱい食べたいのを我慢してきたんだもんな、可哀想に……。

 と、若干しんみりした気分になりかけたものの。

「ふぅ……どうやら毒は入っていないようだ。皆安心して口にするが良い」

 ――毒見ッ?

 摘まんでいたニンジンが箸からポロリと落ちる。対面ではアンドレがガチャンと食器を落とす。

「く、クレール様……別にわたくしは、そのようなつもりでは」

「大丈夫、心配するな。わたしはある程度毒には慣れているからな。こういうときくらい友のために役立ちたい」

 キリッ。

 と語尾にくっつきそうなドヤ顔で告げるクレール。

 困り顔のアンジュがチラッとこっちを見てきたので、俺は軽く頷いてみせた。「クレールの友情ごっこに付き合ってやってくれ」とテレパシーを送りながら。

 聡明なアンジュは、すぐさま俺に頷き返して。

「ありがとうございます。クレール様のおかげで、わたくしも安心して食事がとれますわ」

 女優モードになったアンジュが笑顔でねぎらうと、クレールは頬をぽわんと赤らめる。脚本家である俺も、二人の友情が着々と築かれていくことに満足。

 俺たちがそんな小芝居をしている間にも、ペルルは巨大な肉塊を平らげていた。そのタイミングで、アンドレからそっとお茶が差し出される。

 高級そうな陶器のカップに注がれたそのお茶は、今まで飲んだことがないくらい香り高く美味しかった。ちょっとびっくりした俺は、思わず本音をポロリと。

「なんかお前って、あんまり貴族らしくないよな。働き者だし、かなり庶民的っつーか」

「うむ、我がミストラル家の家訓だからな。『いつ何時この地を追われても生き延びていけるよう、やれることは全て自分でやれ』と、父からは口を酸っぱくして言われている」

「へー、そうなんだ。なんとなく取り巻きが動いて、お前は奥でふんぞり返ってるイメージだったけど」

「それは……家臣を育てるためだ。自分で動く方がよほど楽だが、それでは人は育たない。まずは手本を見せて、やらせてみて、誉めてやらねばな」

 ……やっぱ貴族すげー。

 こんなこと言う高一男子、日本じゃありえねー。

 俺が感嘆の息を漏らすと、すかさずアンジュがニコニコしながらツッコミを。

「でもお兄様は、人の使い方があまり得意ではないのです。いえ、ハッキリ言って『人を見る目がない』のですわ」

 グサリ。

 言葉のナイフを刺されたアンドレが、摘まんでいた鳥のからあげをポロリと落とすも、妹の攻撃は止まらない。

「ロドルフとやらの件もそうです。いくら父親が忠臣だからといって、息子もそうなるとは限りません。そもそも“跡取り息子”というものは、たいていが親の威光を借り、甘やかされて育つもので――」

 もぐもぐもぐもぐ。

 アンジュの説法が続く中、俺とクレールはひたすら箸を進める。ペルルは巨大なクロマグロと格闘中。

「……ということで、お兄様はジロー様に謝ってください」

「す、すまなかった」

「いや、謝られる意味がわかんねーし」

 俺が冷静にツッコむと、アンドレはややバツが悪そうに斜め上を向いて。

「最初は僕も、ジローのことを警戒していたからな。ロドルフたちの進言を信じかけてしまった」

「まあ、お兄様は特別鈍感ですからね。だから『あの方』のことも我が家へ入り浸らせて……」

 あの方。

 皆まで言わずとも、それが誰かは良く分かった。

「ジロー、アイツうざい! 魔法使わず爽やかに出てってもらう方法考えて!」

 美味しいご飯を食べたおかげか、ようやく人間の言葉を取り戻したペルルが、ぷうっと頬を膨らませる。

 俺はそのほっぺにくっついた米粒を取ってやりながら、内心深いため息を落とした。

 今までペルルは『村のお姫様』であり、何かを強要できるのは麗しい母君しかいなかった。

 俺や神父様の話だって、ちょっとでも説教臭くなれば――大人の建前を説こうとすれば、ポイッと放り出してしまう。この性格はきっと変わらないだろう。

 じゃあ、皇子の側に変わってもらうことはできるのか?

 彼だってきっと同じだ。王族の次男坊として思うがままに生きてきた皇子の瞳は、欲しい物は必ず手に入れるという自信に満ち溢れている。

 彼がペルルを「欲しい」と思う限り、外野が騒いだってどうしようもない。むしろ話をややこしくするだけだ。

 ……まあ、ぶっちゃけあの皇子、本気でペルルを『花嫁』にしたがっているとは思えない。

 ああやってフレンドリーに接しつつ、何か裏で企んでる気がする。

 その案件が片付けば、皇子も王宮へ帰るんだろうけど……今の俺にはさっぱり不明だ。たぶん政治がらみの話だろうし、それこそ考えたって仕方ない。

 それより目下の課題は、ペルルの機嫌を直すことだ。

 なるべく皇子と絡まないようにフォローしてやることはできるけど、向こうに『視察』という建前がある以上、授業を見学するなとは言えない。それに皇子だってペルルに『悪さ』をしているわけじゃないし。

 しばし悩んだ末に、俺は無難な意見を述べた。

「分かった、俺から一言いってやるよ。『ペルルも自力で考えれば問題は解けるから、あまり口出さないでくれ』って」

「うー……でも、近くにいるだけでヤなのッ。もっと良い方法ないの?」

「そんなのすぐには思いつかねーって。ここは付き合いの長いアンドレに考えてもらった方が」

 とバトンを回すと、アンドレはあからさまにキョドって。

「ぼ、僕にも無理だ。すっかり騙されて我が家に入り浸らせたくらいだからな。ここは我が妹に」

「わたくしにも無理ですわ。あの方のしつこさといったら我が父を上回るほどです。ペルル様のお気持ちは良く分かりますが……」

 目をつけられたのが運の尽きですご愁傷様、とエメラルドの瞳で語るアンジュ。

 そこにしゃしゃり出たのがクレールだ。

「ではわたしが戦おう。わたしには失うものなど何もない」

「クレール、アイツの子ども作る?」

「クレール様、女の子の大事なものを失ってしまいますわよ?」

「う……」

 クレールの矜持は、二人の説得によりポキッと折れた。凛とした背中がみるみるうちに猫背になり、地面に頭がめり込みそうなほど凹んでしまう。

 するとペルルが、みずみずしい黄金桃にがぶりとかじりついて。

「まあいいわ、最後はヒーローである私がやっつける」

「おいペルル、めったなこと言うなよ? あの護衛がどこに潜んでるか分かんないんだ。不敬罪で逮捕されたら洒落にならん」

 例のニンジャたちは『石ころ魔法』を極めている。学部長のおっさんに盗み聞きされるくらいならまだしも、彼らにこのぶっちゃけトークを聞かれたらマズイ。

 クレールへの態度からするに、ヤツらは目的のためなら手段は選ばない……ある意味皇子本人より危険な相手だ。

 そわそわと周囲を見渡す俺に、ペルルはビシッと一言。

「大丈夫、ヤツらは皇子の傍を離れないわ。もしこっちに来たとしても、全員返り討ちにしてやるし」

「アホか。そんなことしたら、翌日には全国に指名手配だぞ」

「じゃあ、ジローを連れて外国に逃げる」

「残された人たちに被害が及ぶだろ。ヘタすりゃ村の皆とか」

「だったらこの国ごと潰すわ。そしたら賢くて優しいジローが新しい王様になるでしょ? 私は王妃様になる。それでジローが考えた『やきゅう』を国技にして世界に広めるのよ!」

「……話飛びすぎだって。つーか俺、王様の仕事なんて絶対できねーし」

「そんなの“宰相”あたりにやらせればいいでしょ」

 チラッ。

 サッ。

 ペルルの視線を華麗にかわしたアンドレが、あさっての方向を見たまま呟く。

「そ、そうだ。午後からの選択授業だが、我が妹アンジュを任せて良いだろうか? 僕はアレクの方を引き受けよう。なるべく女子に近づけないよう善処する」

「おう、分かった」

 願ったり叶ったりな提案に俺はうんうんと頷く。

 話が落ち着いたついでに、そろそろ撤収をと腰を上げると、アンジュが有無を言わせぬ天使スマイルで告げた。

「ジロー様、午後の授業ですが……わたくしと一緒に『神官学校』へ行きましょう!」

※主人公のモノローグを一部加筆&誤字修正しました。

※モノローグを一部修正しました。

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