表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニコポナデポ! ~無能者に転生した俺は最強かもしれない~  作者: AQ(三田たたみ)
第四章 英雄

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/62

その3 遅れてきたヒーロー

「えっと……ペルル、なぜここに?」

 呆けた頭のままぼんやりと問いかける俺。するとペルルは悪戯が成功した子どもみたいにクスッと笑って。

「えへへ、ビックリした? 実は最初から、魔法学校のおじさまに言われてたの。『ジローの一週間遅れで王都に来て欲しい』って」

「一週間って、なんでそんな中途半端な時期に……」

「んー、理由は良く分からないけど、ちょっとした『予言』っぽいことを言われたのよ。その頃ジローは、自分じゃどうしようもない大ピンチに陥ってるだろうから、颯爽と現れて助けてやってくれって。そうすればジローはすごく感謝して、私のこと大好きになっちゃうって……キャッ!」

 ――クソッ、あの狸オヤジ!

 マジでぶん殴る! いや、銀色狼に噛みつかせる!

 俺が心の中で「スグキテ」と南の森へ呼び出し電報を打っていると。

『ぐぎゃるるるる……』

 ペルルの腹から、銀色狼の鳴き声に良く似た音が洩れた。ものすごく切なそうな音が。

「……まあ、来ちまったもんはしょーがねーか。朝飯用意してくるから適当に寛いでてくれ」

「ジローはまだ寝起きでしょ、私やるよ?」

「んじゃ頼むわ。食材はキッチンの保冷庫に揃ってるはず。あと洗顔用の水も出してくれないか。汲み置きした水はあるけど、なるべく冷たいのが欲しいし」

「分かった、任せて!」

 そう叫ぶや、ペルルは抱えていた鞄をポイッと放り出し、迷わずキッチンの方角へ猛ダッシュ。

 置いてけぼりにされた俺が、玄関先に佇んだまま「やっぱこれは夢なんじゃないか……」なんてぼんやり考えていると。

 ――ドンガラガッシャーン!

 キッチンから落雷のごとき轟音が発生した。

 ……ヤバい、これは本物のペルルだ。ちゃんと見ててやらなきゃ、この家が崩壊する!

 慌ててキッチンへ飛んで行き、「余計なモノには触らないように」と教育的指導するも、焼け石に水。

 長い髪をひとくくりに結わえ、自前のフリル付きエプロンをつけてほっかむりをする『お手伝いさんスタイル』にチェンジしたペルルは、いつもの三割増しで張り切って作業し、三枚に一枚の割合で順調に皿を割っていく。

 そいつの片づけを手伝っていると、少しずつ夜が明けてきた。

 眩い朝日を受けて輝きを増すペルルの銀髪を見ていると、麗しい母君の姿が浮かぶ。

「つーか、今回お母さんは一緒じゃないのか? お父さんの方は仕事だろうけど」

「お母さんは来たがってたんだけど、やっぱり畑の収穫で忙しいからって。ジローによろしくって言ってたよ。ジローに作ってもらった肥料のおかげで、今年も豊作みたい」

「そうか……でも一人旅なんて良く許してもらえたなぁ。一応お前も見た目だけはか弱い女の子なのに。乗合馬車でヘンな奴に絡まれたりしなかったか?」

「平気よ。馬車じゃなくて、自分で作った大鷲に乗ってきたから」

「へッ?」

「馬車より全然楽だったよー。お金もかからないし、二日で着いちゃうし。今度ジローも乗せてあげるね!」

「そうか、そりゃ良かったな」

「本当は昨日の夜に着くはずだったの。でもちょうど凶雲が出たから雨宿りしてて、そしたら魔獣に襲われてる人がいて、助けてたら遅れちゃったの」

「そうか、そりゃイイことしたな」

「んー、微妙? なんかそのとき助けた人が“王族”だったみたいで、なんかメンドクサイから逃げて来ちゃった」

「……相変わらずお前のやることはメチャクチャだな」

「えへへ。だって一秒でも早くジローに逢いたかったんだもん!」

 そう叫ぶや、ペルルは手にしていた包丁をポイッと放り出し、俺の腹にギュッとしがみついた。

 ぷにっとした腕や身体は柔らかく温かく、さらりとした髪からはふんわりと石鹸の香りが漂う。

 ここは村じゃなく、一人暮らしな俺の家。

 普通ならドキドキしてしまうシチュエーションなはずが……久々に受ける肋骨ミシミシ攻撃は、俺のヒットポイントをガリッと削った。やっぱり俺は、コイツと甘い関係になんてなれねぇ……。

「痛いっつーの、離せ!」

「やーん、ジローのいじわるッ」

 それでもペルルは嬉しくて仕方がないといった顔をして、隙あらば俺に抱きついたり、着替えを覗こうとしたり。

 村でのんきに暮らしていた頃とまるっきり同じやりとりだった。

 一ヶ月近く離れていたというのに、何も変わらないペルルを見ているだけで、心の中の澱みがすうっと消えていく。

 ……俺は本当に『大ピンチ』だったのかもしれない。

 どっちを向いても敵だらけのあの場所で、傷ついた女の子を背中に庇いながら、毎日気を張って暮らしていた。

 それは前世も含めて初めての経験で、凡人な俺には抱え込めないくらいしんどくて。

 でもきっと、ペルルなら。

 本物の天才なら、この世界を変えてくれる気が――

「いや、そうじゃねーだろ」

 ここでペルルに甘えてどうする? 全部丸投げするなら、あのおっさんと同じことだ。

 俺の世界は、俺の力で変えなきゃいけないんだ……。

「ジロー、お待たせ! 朝ごはんできたよー」

「おう……」

「ふふっ、そういえば、ジローと二人きりでご飯食べるのって初めてかもね。いつもは神父様とか村の女の子たちが邪魔しに来たし」

「おう……」

「このジャムね、うちのお母さんがお土産にって持たせてくれたの。赤すぐりのジャムなんだけど、私も作るの手伝ったんだ。気に入ったらまた作ってあげるね」

「おう……」

「どーしたの、ジロー。食べないの? パンにジャムつけるの嫌だった?」

 目の前でひらひらと振られる、ペルルの小さな手。

 気づけば二人掛けの小ぶりなダイニングテーブルには、パンと牛乳とサラダというシンプルな朝食セットが出揃っていた。俺はたっぷりとジャムの乗ったトーストを一かじりした後、腕組みしたままぶつぶつ言い続ける。

「美味いなこのジャム、甘さと酸っぱさのバランスが絶妙で……って、そうじゃねー。俺はこれからどうすりゃいいか考えてて……うーん……あのハンドパワーはなるべく使いたくないし、あとは鳥と小動物か……」

「ペットでも飼うの? だったら私も鳥さんがいいなぁ。あと猫でもいい。私がちゃんと世話するから飼っちゃおう?」

「ちょっと待て、何で同居前提になってんだよ、お前は女子寮入れって」

「えー、だって寮じゃペット飼えないし」

「そんなの、お前の魔法でなんとかすりゃ……ん、待てよ?」

 その瞬間、頭の中にピカッと豆電球が光った。

 俺は正面に腰かけたペルルをジッと見つめた。口元に赤いジャムをくっつけたまま、幸せそうにトーストをもぐもぐしている。

 指を伸ばしてジャムを拭い取ってやると、喉を撫でられた仔猫のように目を細める。その表情は、普通の男なら魂を抜かれるレベルの可愛らしさだ。

 ……まあ、コイツと同居ってのも意外と悪くないかもしれん。

「あのさ、ペルル。鳥一匹飼いたいんだけど、しばらく『世話係』してくんねーか?」

「それって、私はここに住んでもいいってこと?」

「もちろん。ペルルにはそのペットをきっちり“調教”して欲しいんだ。いつも俺の傍に居て、俺が呼んだらすぐ飛んできてくれるように」

「分かった、私頑張る! なるべくジローの傍にいて、呼ばれなくてもすぐ飛んでいけるようになるね!」

 ……なんか話がズレた気がしたけれど、まあいつものことだしと俺はスルーした。

※ペルルの台詞・誤字を一部修正しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ