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ニコポナデポ! ~無能者に転生した俺は最強かもしれない~  作者: AQ(三田たたみ)
第四章 英雄

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その2 意外な訪問者

 この世界へ来てから、俺は『挫折』を知らなかった。

 のどかな村で過ごしてきたし、すぐ傍には誰もが認める天才少女がいて、ソイツは劣等感なんて感じるような次元じゃなかったし。

 何より俺は、自分が特殊なスペックだってことにあぐらをかいていた。前世の記憶を盾に、諦めの良い大人を演じていた。

 だから、必死で足掻いて何かを成し遂げたくて、なのにできなくて……そんな苦しみを味わうのは初めてだった。

 入学してからちょうど一週間。

 俺とクレールの関係は、すでに校内の誰もが知るところになっていた。

 真っ先に反応したのは、噂話に敏感な女子たちだ。

 最初は俺に善意の忠告をしてきた。でも俺が「アイツはいいヤツだ」と返すと、今度は反発した。まさに可愛さ余って憎さ百倍といった感じで、俺を避けるようになった。

 そんな女子たち以上に過激なリアクションをとったのは、やはりアンドレの取り巻きだ。

 ヤツらはアンドレの“寵愛”を俺に奪われたのを酷く根に持っていて、周囲にあることないこと吹き込みまくった。

 意外と臣下への情に厚いアンドレは、三段重ねの弁当箱をチラチラさせつつも、彼らの進言に従って俺に声をかけなくなった。

 その他の生徒にとって、俺は完全に地雷キャラ。

 冷たくして女神に嫌われるのも怖いし、優しくしてリアルな級友に背かれるのも怖い。だから柳のようにゆらりとかわす。授業でグループを作ったり、何か用事があれば話すけど、それ以上は踏み込まない。

 そうして空いたスペースには、当然クレールが入り込んできた。

 昼休みは二人で屋上へ行き弁当を食べて、その先四コマ分の授業をほぼ一緒に過ごす。そして帰り道は女子寮まで送る。

 例の風紀委員とやらにも時々絡まれたけれど、そのたびに女神様の名前を出して牽制し、しつこいヤツは軽いボディタッチで懐柔した。

 そうして俺に守られるクレールは……だんだんと、弱くて可愛い普通の女の子になっていく。

 そのポジションに慣れないよう、俺は口を酸っぱくして言い続けた。

 ――世界を変えたいなら『革命』を起こせ。それは他人には無理だ、自分で動くしかないんだ。

 それでも、クレールは力無く首を振り、「これはわたしの罰だから」と俯くばかりで……。

 初めての週末も、俺はクレールに会うために学校へ出かけた。

『故郷に送る土産物を買いに行くから、一緒に付き合ってくれないか?』

 本当はそう言いたかったけれど、困らせるだけと分かっていた。だから街には一人で行き、その帰りに学校へ寄った。

「忘れ物取りに来たついでに、差し入れ持ってきたぞ。王都で評判の焼菓子だって」

 俺の嘘を信じたクレールは、小さな子どもみたいに喜んでくれた。それから薔薇園へ行って二人きりのお茶会をし、校舎の壁にもたれかかりながら夕暮れまでのんびりと過ごした。

 ……今の俺には、クレールをデートに誘うことすらできない。

 それこそが、俺にとっての『挫折』だった。


 ◆


「お帰りなさいませ、ジロー様」

「ああ、待っててくれたんですね、遅くまでありがとう」

「温かい食事とお風呂の用意はできております。では」

 ちょっと無愛想ながら腕の良いお手伝いさんを見送り、俺はリビングのソファーに落ち着いた。

 最初は学生寮に入れてもらえればいいと思っていたものの、無能者の俺は相部屋になる生徒に負担をかけることになるし、なにより貴族の端くれである学部長が学校の傍に『別宅』を持っているというので、遠慮なく借りることにした。

 二十畳ほどのリビングに六畳の寝室が二つと、一人暮らしには充分過ぎる広さだ。元々無かった井戸と窯もつけてくれたし、しかもお手伝いさんまで来てくれる。

 ……学部長も、俺のために力を尽くしてくれている。それは充分過ぎるほど分かってる。

 でも、都合の良い“勇者”として招かれたことがどうしても許せない。

 ペルルの試験のついでにたまたま知り合った無能者のガキに、こんな重たい問題を押し付けようとするなんて……。

 そんなことを悶々と考えながら浅い眠りについた、翌朝。

『コンコン』

 玄関のドアが叩かれた。

 貴重な“魔石”で動く時計を見れば、まだ六時前だ。寝ぼけ眼を擦りつつ「お手伝いさん早すぎ」と愚痴る。あと一時間は寝ていたかったのに。

「どーぞ、入ってくださーい」

『ガゴンガゴン!』

 ……なんだかドアがかち割られそうな音がする。

 家の鍵でも失くしたんだろうかと、寝癖も気にせず玄関を開けると。

「おはよう、ジロー!」

 一瞬、これは夢かと思った。

 朝靄の中に、キラキラ輝く長い銀髪の少女が、満面の笑みを浮かべて立っている。特大サイズのボストンバッグを抱えて。

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