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戦闘チュートリアル編 その2

 戦闘のチュートリアルをここで済ませてしまう? ここって、間逆とも言えるこの生産スキルの聖地、職人工房で? 一体何を言っているんだシアさんは。


「クレア、貴女は本当に都合よく現れてくれましたね。実はこと戦闘に関してとなると、さすがに姫様にどうお教えしたものかと少し悩んでいたんですよ」


「私はどういう意味だと聞いたんだが……、まあいい。姫様、例えここがゲームの世界であろうが無かろうが関係はありません、戦いなど私とバレンシアに全てお任せください」


 自分の胸に手を当て、力強く宣言するクレアさん。

 その立ち姿はまるで騎士、さすがは母様のメイン盾だ。


 シアさんに何を言っても無駄なのはクレアさんもよく理解しているので、とりあえず放置する事に決めたようだ。


「ありがとクレアさん。でもゲームの中くらいは過保護にしなくてもいいと思うなー。シアさんのお話を聞いてみて、私にもできそうなら頑張ってみるからね。それに、クレアさんだって折角なんだから私にばっかり構ってないで、自分もゲームを楽しまなくちゃ損だよ?」


「は、はい! 姫様はご立派に成長なさいました、ウルギス様エネフェア様もさぞやお喜びのことでしょう」


「う、うん……」


 また感動されてしまった……。クレアさんは事ある毎に感動しちゃうんだから、もう。さっきのお嫁さんの真似を少しやってみただけだなんて、絶対言えないね!






 まずはクレアさんに、シアさんはゲームマスターさんみたいな怪しい力を手に入れてしまっている事を説明しておく。このままでは話が進まなさそうだからね。かくかくしかじか。


「まったくお前はいつもいつも……。姫様にご迷惑をお掛けする事の無いようにな。姫様、ありがとうございます。お手数をおかけしてしまい申し訳ありません」


 ううむ、クレアさんはいつまで経ってもお堅いなー。まあ、リアルでは武人ナイトタイプのメイドさんだからしょうがないか、お硬いんじゃなくて真面目なだけなんだよね。


「ではあまり長居をするのもなんですので、チュートリアルをさっさと終わらせてしまいましょう。あ、姫様はお座りになられたままで結構ですよ、丁度よく例となれる者がやってきましたからね。クレアもこれさえ済ませてしまえばフィールドに出る許可が与えらますから、大人しく付き合ってくださいね」


「はーい!」「了解した」


――ん? おい、あそこ何か始まったぞ。ほれ、あのテーブルんとこ。


――どこだ? ああ、さっき部屋覗きに来てたメイド連れの可愛い子か、ってメイド一人増えてるな、しかもまた美人かよ羨ましい。んで、何やってんだ? あれ。


 少し離れた所にある販売所辺りから、少し大きめの声が聞こえてきた。目を向けると男の人が二人、こちらの様子を窺っている。


 むむ? ちょっと注目を集めちゃったかな。シアさんが派手な行動を取らなければいいんだけど……。


「戦闘システムと言いましてもここはリアルさに拘り尽くされた空間、そうなるとモンスターとの戦いはどういったものになるのか……、お分かりになりますか?」


 おっと、もう始まってた、シアさんの声に集中しないと。どうせ視線の先は美人メイドさんである二人だけに向けられているだろうから、私は普通にしてればいいや。


「ふむ……。恐らく、武器で斬りつける行為がそのまま攻撃となるんだろう。ん? そうなると相手の攻撃は全て避けてしまえば済む話なのか」


 それは何となく予想はついてたね。

 つまり、リアルで運動が得意な人ほど有利、という事になる。つまりシアさんやクレアさんなら、どんなモンスター相手でもノーダメージは約束された様なものだろう。なにそれずるい。


「ええ、基本はその考えで問題はありません、勿論必中スキル等例外は幾つもありますが……。ふむ、姫様もご理解頂けているようなので、次は簡単に実践してみるとしましょうか。少し離れてもらえますか?」


「実践だと? ああ、分かった。……これくらいでいいか?」


 実践、という言葉に少し嬉しそうにして、クレアさんは3m程度離れてからこちらを振り向く。


「はい、ありがとうございます。動かないようにお願いしますね」


 ……嫌な予感。


 シアさんは左手をスッと持ち上げ、手の平をクレアさんに向けた。


「お、おい、何をするつもりだ!」


 まさか、実際にクレアさんを攻撃して見せるつもりなんじゃ……!?


「シアさん!?」


 焦る私たちをよそに、シアさんとクレアさんの丁度真ん中の位置辺りに大きめの光の玉が出現する。直系は1mくらいあるだろうか? かなりの大きさだ。


――なんだありゃ!?


――んなもん俺が知るかよ。戦闘についての説明やってんだろ? 何かまでは分かんねえけど攻撃系のスキルじゃないのか?


――え? 何? 戦闘の説明会やってんの? 私も受けてこよっかなー。


――そういうイベントじゃないのかな、あれ。メイドさんたち綺麗過ぎるし、座ってるあの子も可愛すぎるし、運営が用意したキャラなんじゃない?


 はっ!? ギャラリーが増えてるー!!


 ちらちらとこちらを覗き見ている人は多かったが、この謎の光の玉が駄目押しになった様だ。野次馬に周りをみっしりと囲まれてしまった。


 注目されるのは好きじゃないのにぃ。まあ、お祭りとかで慣れてはいるんだけどね……。


 やれやれ私も成長したもんだ、と謎の光の玉に目を戻したその時だった。

 ポンッという、大きいが軽い、瓶の栓を抜いたような音と共に、ついに光の玉の正体が判明した。


――うお! ビックリした!! なんだあれでけえ!!!


――うっはー、でかいなありゃ……。何人分あるんだか。


――ところであれを見てくれ、こいつをどう思う?


――すごく……、大きいです……。


 た、確かにおっきいね……。でも……、なんでカブなの!?


 そう、謎の光る物体の正体は、1m級の巨大なカブだった。葉が青々としていて新鮮そう、とれたてなのかもしれない。

 驚きの的のそのカブは、落下防止機能が働いているのか空中に浮かんだまま微動だにしていない。シアさんはこれで一体何を始めようと言うのだろうか……?


「なんだただのカブか。驚かせるな、まったく。姫様も驚いてしまわれているだろうに。本当にこいつは……」


「ふふ、申し訳ありません、おふざけが過ぎましたね」


「あ、ううん、ちょっと驚いちゃっただけだから続けてもいいよー」


 そういえば、クレアさんの家の畑だとこれくらいが普通サイズなんだよね。見慣れすぎちゃってて大きさには全く驚けなかったよ……。


――あ、あっちのメイドさんが出したんだ? やっぱり運営のキャラっぽいねー。このイベント? が終わったら話しかけてみようよー?


――あはは、記念品貰えたりしてね。それじゃ終わるまで見てましょっか。


 お友達が増えそうな予感! でも記念品は特に無いと思います。



「ではこちらのカブを切ってみてください。そちらの腰の物でも、先程の自作の剣でもどちらでも構いませんよ」


――腰のモノですって?


――自重しろ。


「おお、試し斬りがまだだったんだ、ありがたい。よし、まずはカットラスからだな」


 機嫌よさ気に剣を抜き、カブを見据えるクレアさん。


 クレアさん嬉しそう……。やっぱり武器を振るう事も大好きなんだね。


――あのカブをモンスターの代わりにするのね。でもこういう場合って案山子とか巻藁を使うんじゃないかしら……。


――あは! ゲームっぽくていいじゃん! 私もやってみたいなー。


 確かに案山子なんかよりこっちの方がゲームっぽいかな? 私が火の矢の魔法の練習に使ったのも大きなカボチャだったし、リーフエンドの森ではこれが当たり前の事なのかもしれない。


――しっかし、やけに武器の構え方が様になってるよなあのメイド。って、ありゃ? どうしたんだ?


――剣しまっちまったな。俺たちが注目しすぎて集中が乱れたとかじゃないか?


 ギャラリーが疑問に思うのも当然の事、クレアさんはカブを切らずに剣を鞘に戻してしまった。


「ふん、悪くはないな」


「あれ? 切らないの?」


「え?」「え?」


 シアさんとクレアさんの二人から、お前は何を言ってるんだ? という表情を贈られてしまった。……クレアさんは無表情だが。


「いえ、あの、既に斬ったのですが……」


「ええ、綺麗に縦二つに。さすがですね」


「はい!?」


 シアさんがカブに近づき、実際に開いて断面を見せてくれた。本当に綺麗に真っ二つになっている。


――マジで!? おおお、おい、冗談だろ? お前今の見えたかよ?


――見えないって! 腕がブレて見えるとかもなかったぞオイ!


――私のログにも何も無いわ。はー、メイドさんって凄いんだー……。


――い、いやいやいや、イベントの演出でしょ? でもあっちの可愛い子も普通に驚いてたわよね。


 クレアさんの圧倒的すぎる剣の腕を見せ付けられ、沸きに沸くギャラリーさんたち。実際は誰も剣筋を捉える事はできなかったみたいだが……。


 そういえばクレアさんが剣を振るうところなんて初めて見た、いや、速すぎて見えてないんだけどそれは置いておいて、実際に見せてもらうのは初めてだったね。さすが母様の護衛メイドさんなだけはある、のかな? ううむ、怖いとは思わないけど、凄いなあ……。



 その後は私にも見える様に、少しゆっくり目に何度もカブに刃を通していく。表情は変わらないがもの凄く楽しそうだ。やっぱりクレアさんは怖い人だったわ。

 5cm角程度の乱切りされたカブが大量に出来上がり、シアさんがそれを大きなお皿に乗せてから私のいるテーブルに置く。丁寧に葉の部分は分けて置かれていた。


 ちょっと興味を引かれたのでカブの欠片を一つ手に取ってみた。



[カブ(イベント)] 40%

品質★★★★★ 生産素材:料理 取引不可


効果:

STR上昇(微)


説明:

言わずと知れた農場の王道。

とある国では100両という大編成の戦車の足を止め、侵攻を阻止する事に成功したとの噂が流れるほど。

生食も可能だが、その場合食事効果は微々たるもの。しっかりと調理しよう。


*イベントのみの限定仕様。

*このアイテムを素材として製作された品は取引ができなくなる。



 ★5! う? 40%? なんだろこの数字。

 へー、カブって戦車を止めちゃえるんだ? なにそれこわい。STRが上がるらしいし、一齧りしてみようかな。って、取引不可!?


「食事効果は一定の時間内のみですね。ふふ、とりあえずはインベントリに収納しておきましょうか」


 どうしたらいいんだー! と焦っていたら、何やら嬉しそうなシアさんに至極もっともな解決法を教えられてしまった。


「はーい。ごめんね、勝手な事しちゃって。この40%の意味は聞いてもいいの?」


「それは……、実際に姫様が何かを生産なさる時にまた説明して差し上げます。気になるとは思いますが、まずはこのチュートリアルを終わらせてしまいましょう」


「それもそうだったね。うん、続けてー」


 シアさんは、申し訳ありません、と深く頭を下げた後、クレアさんの方へ体を向け直し、また大きなカブを空中に出現させた。


 ううむ、まだまだ覚える事は沢山ありそうだね。一度に全部教えてもらっても覚えきれないだろうし、必要になった時に必要なだけ教えてもらう事にしよっと。


「またカブか、どうせなら他の物を斬らせてほしいのだが。まあいい、今度はショートソードを試すとするか」


――なんか喋りがカッコいいっつーか、男らしいメイドさんだな。


――だがそれがいい。お姉様って呼ばせてほしい! お姉様ー!!


 クレアさんは黄色い声援に冷ややかな眼差しで応え、また縦にカブを両断した、かに見えたが……?


「? 何か手応えがおかしいな……」


 何やら今の一撃に納得がいかなかった様で、一度振るっただけで後はカブと手元の剣を交互に見比べている。


「よく気付けるものですね、本当に貴女が居てくれて助かりますよ。では説明と参りますか、貴女は姫様のお近くに」


「あ、ああ」


 私の右隣に来てからも、少し考え込んでしまっているクレアさん。いったい何がそんなに気になったんだろう?

 とりあえず、カッコよかったよー、と小声で囁いてみると、顔を赤くして逸らされてしまった。ふふふ。



「はい、こちらに注目してください。今彼女が真っ二つにした、かの様に見えたこのカブですが、実はご覧の通り」


 シアさんは浮いているカブを少し強めに何度か叩く、が、さっきとは違い二つに分かれなかった。どうやら切れていないみたいだ。

 いつの間にか私とクレアさんにだけじゃなくて、周りのギャラリーさんたちも含めての説明会になってしまっているけど……、これも気にしないでおこう。


「感じた違和感はそのせいか、確かに斬った感覚はあったんだがな……」


――あのメイドさん刃物を通した感触とか分かっちゃうのかよ……。


――や、野菜だからじゃないの? メイドなんだから料理だってする筈よ。


 うん、私もそうだと思う。思いたいです。


「あちらに置いた先程のカブとこちらのカブ、何が違うかと言いますと、あちらは生産素材、アイテムとしてのカブで、こちらは今だけ特別にモンスター仕様となっているのです」


「モンスター仕様? どういう意味?」


 おっと、つい聞いちゃった。視線が集まるー!


――動かないけど敵と同じ仕様? あ、攻撃した事になるんじゃね?


――カブを切るのもモンスター斬るのも同じなんじゃないのか?


「当然の疑問ですね、ありがとうございます。まずは簡単に一言で説明させて頂きますと、破壊可能であるかどうか、の違いですね。カブならまだしも、モンスターは作り物とはいえ生物です、それが破壊可能となると……」


――グロイ事になる!


――おい。


「はい正解です。勿論部位破壊可能な大型のモンスターも存在していますが、そちらも基本的な形状を保てなくなるまでの破壊は不可能となっています。ですが、そうなると破壊不可能の部分に剣を振るった場合、そこで止められてしまいますよね? まあ、破壊可能部位でも防御力を上回る攻撃でなければ弾かれてしまうのですが」


「なるほどな。充分な威力があれば傷は付かないが刃は通るのか、合点がいった」


 うんうん、納得だね。


「これはモンスターに対してのみではなく、被ダメージ、相手から攻撃を受ける場合も適応されます。いくらゲームの中と言っても、手足や首を切り落とされるのは誰だっていい気分ではないでしょう?」


「例えが怖い!」


――その辺はしっかりゲームしてるんだなあ。


――戦うのが怖くって生産やろうと思ってたけど、もう少し考えてみてもいいかもね。


「ちなみに倒すとこうなります」


 シアさんはいつの間にか作り出していたナイフでカブの中心を突き刺した。すると、カブ全体がモノクロ写真の様に白と黒に染まり、その一瞬後に砕け散って消えてしまった。


「凄い! 白黒だけど綺麗!」


――すっげえ!! まさにVRって感じだよな? な!?


――テンションたけえな。ま、分からんでもないけどな。はは。


 私もちょっとテンション上がっちゃった! ふふふ。



 一番重要な説明は今ので終わったらしく、スキルを使って戦う事についてはやや投げやり感漂う適当なものだった。ギャラリーの相手が面倒になったのかもしれない。

 例えば『フルスイング』というスキル。これはバットを振るような大振りの攻撃スキルなのだが、使用方法は『フルスイング』と叫びながらその通りに動けばいいだけ。基本はスキルの説明文通りに体を動かし、それと同時にスキル名を声にして出す、という必殺技的な使い方となっている。

 ちなみに『フルスイング』は、手に何かを持っていればそれがどんな物だろうと、例え武器でなくとも使用が可能な全職共通の基本攻撃スキルらしい。私のスキル欄にもいつの間にか追加されていたが、使う機会は恐らくやって来ないだろう。

 スキルや魔法名を声に出すのはちょっと恥ずかしい気もするけど、ゲームだと思って割り切ろう。うん。



「はい皆様、ここまでお付き合い頂きありがとうございます、お疲れ様でした。先程どなたかが仰られた記念品、とまでは参りませんが、宜しければこちらのカブの乱切りをお一つずつお持ち帰りください。それと、申し訳ありませんが私共への質問などはご遠慮頂くようお願い申し上げておきます」


――やったあ!! 料理作ろうよ料理! 切ってあっても充分大きいしさ!


――やっぱ運営側のキャラか? フレンドになってほしかったなあ。


――お姉様ー!! また会いましょうねー!!


――こらこら。あ、ありがとうございました! 私たち生産以外も頑張ってみます!


――うぉい!! ★5だぞコレ!! 誰か料理頼むー!!


――あ、あたし酢漬けなら作れるよー?


――取引不可だぜこれ。


――マジでー? 生で食うかー。






 わいわいガヤガヤと大騒ぎになってしまったロビー、これはいけないとシアさんに抱き上げられて工房の外まで避難する事になってしまった。何がいけないんだろうか……。


 まあ、フレンドは増えなかったけど凄く楽しかったからいいや。あのノリは森のお祭りに近いものがあったね。ふふふ。

 それじゃ戦い方も教わった事だし、次は町の外、伐採所に木工スキルを買いに行くとするかな。それとも、私もやる気が沸いてきちゃったし、薬草の採取に出かけるのもありかもね。


 ここからがゲーム本番! うーん! 面白くなってきたぞー!!







読み直して何かおかしいなー、と思っていたら、メタい会話が無いんですね。

本編のノリに近かったかもしれません。が、書き直すのも面倒なのでこのままで!


これでチュートリアルは一旦終わりでしょうか。次回からはもっともっと適当に書いていきたいと思います。

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