フレンド パーティー編
私の左肩にちょこんと座るシアさんに呆れながらも、ライスさんはじーっと私を見つめ、暫く後に首を傾げる。
「う? 私の顔に何か付いてる?」
「ええ、とても愛らしいお顔です。ふふ」
「そういうのはいいから」
さすがシアさん、お約束は小さくなっても忘れない。小さな手でほっぺつんつんしてきてくすぐったいです。
「いや、姫にパーティー申請が通らないんだよ。ルーディンからはどうだ?」
パーティー申請? うん、確かに何も来てないね。どういう風に申請が来るのかも分からないけど。
兄様もさっきまでのライスさんと同じ様に私をじっと見つめてきた。生半可なナイトでは使えないホーリで敵を掃除しながら兎待ちをしていた訳ではないのに。
「俺からも無理だな、フレンドの登録申請も通らん。シラユキはまだチュートリアルが終わってないんじゃないか?」
「え? あ、フレンドとかのチュートリアル? うん、まだ受けてないよー。ステータスを見るのと、アイテムとスキルの確認の仕方までは終わってるけど」
「えっ」「えっ」
「えっ」
お前は一体何を言っているんだ? という顔を二人から揃ってされてしまった。
まさかゲームの中でまでこんな反応をされるとは……。
「いやいや、チュートリアルはフレンドの登録の仕方のところまで終わらせないと、ここに戻って来られないだろ?」
ああなるほど、そういう事ね。
そういえばさっきから続々と人が戻って来ている。みんな丁度同じタイミングでチュートリアルを受けていたんだろう。
「ねえねえルー兄様、チュートリアルってどれくらい時間掛かった?」
とりあえず一つ確認。左肩のメイド妖精さんがビクッとしたような気もするけど、今は気にしない。
「結構長かったよな。三、四十分くらいか? 細かい事を親切丁寧に教えられたんだが、分かりきってる事とかもあってちょっとだるかったよなあ」
「ポーションの飲み方とかなー。ま、こういうゲームは初めてだから詳しすぎるくらいで丁度いいんじゃないか? んでこの後は」
「あ、ちょっと待って二人とも」
ふむ、ふむふむ。私の予想が正しければ、犯人はこの中にいる!!
さっきから無言のままのシアさんを優しく掴んで、両手の平に乗せる。
ぺたんと座り、視線をやや外しながら黙り込んでいるシアさん可愛い。でもどうせならもふもふシアさんみたいにデフォルメが掛かると、もっと可愛くなるんじゃないかな?
それはさておき……、こほん。
「シアさんシアさん」
「はい姫様、何か御用でしょうか?」
「もしかしてシアさん、フレンドとパーティーのチュートリアルを飛ばしましたか? さらにギルド員のお姉さんに嘘をつかせましたか?」
「いえいえそんな、滅相も御座いません」
「そうですかありがとう。独占欲凄いですね」
「それほどでもありません」
やはりシアさんだった!!
「パーティもフレンドも相手の方の名前をフルネームで呼ぶか思い浮かべ、『パーティ参加申請』、『フレンド登録申請』と言葉に出すか念じる事で申請する事ができます。これ以上はお教えしませんからねっ」
「ねっ、じゃないよ! ソロで遊ばせる気だったの? もう! ちゃんとサポートしてよー」
パーティの場合は多分リーダーのみ可能とかそういうのもある筈だと思うんだけど……。まあ、追々でいいかな。
ギルド員のお姉さんには、ごめんなさーい、と謝っておいた。
いえいえこちらこそー、と謝り返してくれたお姉さんいい人すぎる。修正されないで!
そこでポーンと音が鳴った、様な気がすると共に、目の前にウィンドウが表示された。文字が書いてあるところをみると何らかのメッセージの様だ。
『称号【初心者】を入手しました! おめでとうございます!!』
「シアさんこれは?」
「つーん、でございます」
「なんで拗ねてるの!?」
そんなに私を独り占めしたかったのかこの人は……。
とりあえず確認と書かれた大きめのボタンを押して、ウィンドウを閉じる。
「はは。なんかこうも小さくなって拗ねてるとさすがのバレンシアも可愛く見えるもんだよな。姫、称号は」
「称号はゲーム内での様々な行動によって得られる、まあ、おまけの勲章の様な物ですね。【初心者】は基本チュートリアルを終了しましたという証です。『称号一覧』です、どうぞ」
教えてくれようとしていたライスさんを完全に無視して称号の説明をしてくれるシアさん。ツッコミが追いつかないので見送る事にする。
「ま、まあ、もうちょい待ってるか……」
「ああ、ギルド員から話を聞いてみるか? 早速何人か増員されたみたいだし待ち時間も少ないだろ。シラユキ、勝手に外に出たりするんじゃないぞ? 大人しくそこで待ってろよ」
「あ、はーい!」
二人は増員されたギルド員のお姉さん(色違い五人)の所に行ってしまった。
やはりNPCだったのか……。それとも、五つ子?
まったく兄様は、ゲームの中でも過保護なんだから……、嬉しいね。
さてそれじゃ、と。
「しょうごういちらん! キリッは要らないからね」
「そんな!」
現れたのはスキル一覧と同じ様なウィンドウ。先ほど手に入れた【初心者】の称号が一つだけが表示されている。
あと他に変わったところは、ウィンドウ枠の左上隅に『称号』、右上隅に『1点』と書かれていることくらいか。
左上のはアイテムとかスキルにもあったからただのウィンドウの名前だろうと思うけど、右上のは何の点数なんだろう? 称号の数を点数で表してるのかな?
「詳細の確認はアイテムなどと変わりません、が、『登録』と言葉に出すか念じる事によってその称号を簡易ステータス画面上に表示させる事もできます。早速試してみましょう」
「うん。やってみるね」
とりあえず点数の事は一旦忘れ、一つ一つ確実に、まずは詳細確認から……。タッチして、説明が見たいなー、と。
【初心者】1点
基本チュートリアルを全て終了させた。
「あ、こっちにも1点って書いてある。ああ、取るのが難しい称号は高得点になるんだね。右上のはその合計かー。このゲームをどこまでやり込んでるかっていうのの目安になるんだね」
トロフィー機能とか実績とか、それに近い物だろう。うん、分かりやすい。
説明できずに超不満顔のシアさんは置いておいて、折角だから私はこの称号を選ぶぜ! タッチして、登録! さらに簡易ステータス!
「あれ? 変わってないや……」
「それはですね」
「一回は言葉に出さないといけないんだね。とうろく!」
「しくしく、でございます」
基本をマスターした私に隙は無かった。
名前:シラユキ・リーフエンド
職業:プリンセス レベル:猫級 称号:初心者
「うん、ちゃんと表示されてるね。こうやって新しい物が増える度に簡単なチュートリアル的な説明が入るのかな。私はシアさんからだったけど他の人は?」
「この程度ですと数行程度の説明文が表示されるくらいですね。もっと難しい追加要素になると別フィールドに移動しての実地訓練となります。周りに危険を及ぼす様な攻撃スキルもありますからね」
ほうほう、それは恐ろしい。でも私の『プラズマボール』以上に危険なスキルはさすがに無いと思うけどね。
元の大きさに戻ったシアさんに膝の上に乗せられ、さっきのお返しだとばかりの頬グニ攻撃を受けていたら二人が戻って来た。
「お前はもうそのままの大きさでいいんじゃないか? その方が俺たちも見てて安心だからな」
「ルー兄様は心配しすぎ! ゲームの中なんだから大丈夫だよ」
逆にゲームの中だからって言って下ネタ全開な人とかもいそうだけどね。フランさんとか。
「まあまあ、たまには姫の好きにさせてやれって、どうせ寂しくなって誰かと行動し始めるに決まってるしな。んじゃ、姫、次はどこに行くか決めたか?」
「反論できない……。うーん、次? ストーリーみたいなクエストでもあるの?」
話の大筋と言うか、メインストーリーを追っていくクエストがあるのか無いのか、それによって今後の行動も変わってくるというものだよね。
「いや、そんなのがあるのかは知らんけど、あ、これもまだ聞いてないのか。バレンシアちゃんと仕事しろよ……。大まかに分けちまうと、戦闘と生産のどっちを見に行くかって事だな」
「戦闘と生産のどっちか? シアさん、次は何があるのか知ってる?」
どうやらまだまだチュートリアルは続くみたいだね。この辺りでやめてしまうプレイヤーさんもいるのでは……? ふふ、さすがにそれはないか。
「ふう、できましたら姫様には、次の目的地など考えずにご自分で町を散策し、そしてその次の目的となるべき何かに出会って頂ければ、と思い黙っていたのですが……。ふふ、まだ姫様には早すぎましたね。簡単に言いますと、スキルの取得と使用方法を学ぶチュートリアルの事ですね。これは先にどちらを選ぶかによって、無償で得られるスキルが変わるというものでありまして……」
ちょっと説明が長かったので纏めちゃいます。
次の目的は、スキルの取得とその使用方法のチュートリアル。
戦闘系(魔法含む)か生産系(その他含む)かのどちらかを選び、先に選んだ方は基本的な物以外にも追加でスキルがいくつか貰えるというもの。
スキルの使い方はどちらもほぼ同じなので、選ばなかった方の基本スキルはその場で貰え、簡単にだが一緒に教わる事ができるらしい。
勿論もう一つの方も詳しく知りたいならチュートリアルを受けに行ってもいいが、その場合でも追加スキルは貰えない。自信があったり面倒だと思うなら、飛ばしてしまった方が時間的にお得、といった感じだね。
「大体の奴等はチュートリアルが終わった時にそのどっちかに転送してもらってるんだよ。ここに戻って来た奴等は皆一旦保留したって事だな、俺たちもそうだ」
「オレは戦闘系でいいって言ったんだけどなー。ルーディンがどっちにするか決めかねててさ、誰かいるかもしれないってんでここに戻ってきた訳だ。実際姫がいたし、いい判断だったと思うぜ」
なるほどなるほど、うん、把握しました。
「私も悩んじゃうなー。でも意外、ルー兄様が生産系に興味があるなんて思わなかった。ふふ」
「そんなに意外か? コイツめ。生産系のスキルの中には『酒造り』とかいうのがあるらしくてな、俺はそれを極めてみようと思ってるんだよ。酒が自分で作れるなんてゲームの中ならではの事だろ? でも先にある程度戦闘に慣れておいた方が素材とか楽に集められるかもしれないんだよなあ。それで一旦保留してここに戻って、誰かいたら相談しようかと思ってな」
「ふふ、ルーディン様らしいお考えですね。姫様、お時間はたっぷりと御座いますのでゆっくりとお考えくださって結構ですよ。ルーディン様とライスさんには申し訳ないのですが、姫様ご自身にお決めになられて頂きたいので……」
「おう。ルーディン、オレたちの考えを押し付けちまいそうだから先に行こうぜ。どっちに行くかなんて歩きながら決めちまってもいいし、バラけるのもありっちゃありだもんな。っと、その前にフレンドだけやっとくか」
「だな。今のところ耳打ち(ウィスパー)とメールが使えるようになるだけだが、充分便利だろ?」
「フレンドのログイン状況の確認と、遠く離れていてもパーティ参加申請を送る事もできますね。では姫様」
「うん! ふふふ、フレンドが増えると何となく嬉しくなっちゃうよね?」
「ログイン人数が日に日に減っていくのを見て、寂しくなるのもまた乙なものですよね」
「オイやめろ馬鹿」「やめて!!」
兄様とライスさんをフレンドに登録完了!
さーて、私は戦闘系か生産系か、どっちの追加スキルを狙おうかな?
それともそんなに急がずに、どんなスキルが貰えるか情報を待つのもありかもしれない。その場合はここでぼーっと待ってるのもなんだから、町をウロウロと散策するのもいいかもね。
設定は適当でいいと自分でも思っているんですけど、何故か中途半端に凝った説明になってしまっていますね。
スキルの使用方法が終わればきっと……