スキル編
木の棒を手に入れたものの、早速回復アイテムを失ってしまったシラユキ。
本当にこの先生き残る事はできるのだろうか……
「さあ姫様、恐らく姫様が一番楽しみにしていらっしゃると思われる時間がやって参りましたよ。ふふふ。待たせたな! でございます」
「!? す、スキル関係のチュートリアルだね!? わーい、楽しm」
「利用規約、サービス利用料金、アイテム課金システム等についての詳細説明です。お時間は少なく見積もっても最短で三時間は掛かるでしょう。ご静聴ください」
「世知辛い!! 課金関連はそれだけ充実してるんだ!?」
私を膝の上から降ろし椅子に座らせ直した後、シアさんはぽんと手を一つ叩いた後に話を続ける。
「まあ、冗談はこれくらいにしておいて、姫様心待ちのスキル関連のチュートリアルに入っていきたいと思います。ここまでが基本操作のチュートリアルとなっていますね。スキルの実際の使用方法、戦闘、生産、その他の操作に関しましては、またそれぞれ対応した別の施設で行われる様です。必要になればその時また教えますよ、という事ですね」
「あ、課金じゃないんだ? 結構本気でログアウトしようかと思ってたよ」
でも実際のところ利用料金とかはどうなっているんだろう? 女神様の事だからまた変な要求をしてきたりもしそうなんだけど……。とりあえずお金という線はないだろう。
「その何かあるとすぐにログアウトしようとしてしまう姿勢はいけませんよ? お心を強く、です。では姫様、『スキル一覧』、です。どうぞ」
おっといけないいけない。分からない事を考えてたって仕方がない、今はゲームを楽しまなきゃ、ね! スキルの一覧が見たいです!
「すきるいちらん!」
インベントリと同じ様なウィンドウが表示された。パッと見違う所は升目の大きさとタブの名称くらいだろうか?
大分類は、『戦技』、『魔法』、『生産』、『その他』、『特別』の五つ。これが少ないのか多いのかはよく分からない。
試しに魔法をタッチしてみると、中分類として、『攻撃』、『回復』、『支援』、『その他』、とさらに四つに分かれていた。他もそうだとするとかなり多いのかもしれないね。
……キリッ、が無かったね。ちょっと寂しい。
ウィンドウから目を離し、シアさんの方に顔を向け直してみると……、超ニヤニヤしていた。くそう、全てはシアさんの手の内か。
「まずは何から説明致しましょうか? 基本的すぎる説明は必要ありませんよね?」
「うん。『戦技』は武器を使ったスキルで、『魔法』と『生産』はそのままだよね? 分からないのは『その他』と『特別』かな」
『特別』は多分、職業限定とか種族限定のスキルだと思うけど、『その他』? 魔法の中にも同じ『その他』があるのにね。おかしな話だよ。
「『戦技』は武器スキルのみという訳でもないのですが……、まあ、いいでしょう。それでは『その他』から説明して参りましょう。『その他』も同じく名称そのまま、他の四種に分類されないスキルが該当します。例えば、楽器を演奏する『楽器演奏』のスキル、歌を歌う『歌唱』のスキル、他にも様々ですね。恐らく『その他』のスキル数が最多となっているのではないでしょうか」
「う? え? 楽器を弾いたり歌を歌ったりするのにもスキルが要るの? 別に歌おうと思えば普通に歌えると思うんだけど」
声を出せているという事は、イコール歌う事ができると考えてもいい筈だ。ここまでリアルに拘りまくったゲームなのだから、楽器の演奏だって目の前に実物があれば音を出すくらいは誰にだって可能だろう。ミランさんとか。
「ええ、尤もなご質問です。しかしここは反対に考えてみましょう、あげちゃってもいいさ、と。『歌唱』スキルがあるから歌う事ができるのではなく、歌う事ができるのだから『歌唱』スキルがあるのだと。それを踏まえた上で実際に『その他』の項目を確認してみましょう」
シアさんの言う事は難しいね……。とりあえずその他をタッチ、と。どれどれ……、うわっ!?
「な、何か凄い数のスキルがずらーっと並んでるんだけど、これって?」
スクロールバーが付いてたのでちょっと指で下に下げてみると、もの凄い速さで表示が切り替わっていく。しかし動かした筈のスクロールバーは微動だにしていない様に見える。……なにこれこわい。
「姫様に分かりやすく一言で表すと、それは一部を除き全て『パッシブ』のスキルなのです」
パッシブ? 誰それ? 外人? お絵かき交流サイト? ほらこんなもん。
私も冗談はこれくらいにして……、なーるほどねー。
『パッシブスキル』。簡単に説明すると常時発動型のスキルか。
『歌唱』のスキルを取ると歌える様になるんじゃなくて、普通に歌う事ができるから『歌唱』のスキルが既に手に入っている、という訳だね。恐らく病気等で声の出せない人は表示されず、完治して声が出せる様になれば自動的に追加されるんだろう。リアル趣向にも程がある。
「という事は、『その他』はあまり気にしなくてもいいのかな。元から歌の上手な人はスキルが高かったりするんでしょ?」
つまりその人の才能、いや、現在の技術の高さが適応されるのか。リアルそのままの数値だとなると、それはなんだか味気ない。回数さえこなせば自然と上がっていくものでも無さそうだ。
「はい。しかし気にしなくてもいいというのはまた別のお話、少々早計ですね。ここからが面白いところなのですよ?」
「面白いところ?」
人差し指を立て、にっこり笑顔で追加説明を始めるシアさん。今日は説明が山程できるぞと大張り切りみたいだね。
「私は先程、『一部』を除き、と説明致しましたよね? その一部はどういった物になるかお分かりになりますか?」
むむむ。それはつまり、『その他』の中にも『アクティブスキル』があるという訳だ。
『アクティブスキル』とは、常時発動している『パッシブスキル』とは違い、魔法の様に自分で使用する事で初めて効果が現れるスキルの事だね。任意発動型スキル、だったかな?
「ちょ、ちょっと待ってね。真面目なお話すぎて逆に調子が出ないかも」
「ええ、まあ、一番重要で難しいところですからね。姫様がお望みでしたら適度におふざけも交えていこうと思うのですが?」
「やめて!! 後で困りそうだからもうちょっと我慢して!」
「ふふ、畏まりました」
危ない危ない、ここからが肝心なところらしいのに、本気なのかネタなのかよく分からない説明をされてしまうところだった。
「結構な時間が経ってしまっている事ですし、答えに入ってしまいましょう。ふむ、丁度いいですね、『歌唱』のスキルを例に上げて説明していくとしましょうか。『歌唱』はその名のとおり歌唱力の高さ、つまりは歌の上手さを表しています。声質の良し悪しはまた別のスキルが関係しているのですが、話が進まないので今は『歌唱』のみを取り上げます。さて、歌を歌う。これはまあ、そのままですね。しかし、その歌声に特別な効果を付与する事ができるとなれば話は変わってくるでしょう」
「そ、そんなスキルまであるの!? す、凄すぎない?」
「おや? 今ので理解されてしまいましたか……。聡明すぎるというのも考え物ですね」
まあ、私の場合はあれかな、ゲームの知識だけは大量に詰まってるからね……。だから頭脳明晰っていう訳じゃないんだよ。
「後は簡単に。そろそろ真面目にしているのも限界に近いので……。はあ、だるいだるいでございます」
「頑張って!!」
ホントはもっと説明したいくせに!
「『その他』のパッシブスキルは身体能力と考えましょう。入手方法は明かせませんが、『眠りの歌』のスキルには『歌唱』のスキルの効果が大きく影響してくる、という感じですね。恐らく『その他』分類のアクティブスキルを入手できれば、それに対応したタブも増えていく事でしょう」
うわー、これは本当に凄いぞ……。
歌が上手な人なら、『眠りの歌』も上手に歌う事ができる、っていう意味だね。反対に言えば、音痴の人が使ってもそれ程の効果は出ない訳だ。なるほどこれも把握した。
「ありがとシアさん! それじゃログアウトするね! 引退します!!」
「姫様!? どうしてそうなるのです!?」
「えー、だってさー。私ってなんにもできないよ? スキルを覚えても上手く使えないんじゃ意味ないよ……」
「な、なるほど、なんという悲観的な……、悲しい事です。ではここでも反対に考えてみましょうか。使いこなせそうにないスキルには手を出さなければいいんですよ。ゲーム内スキルは使えば使うほど鍛えられていく訳ですし。敢えて苦難の道を辿るのもありと言えばありなのですが、そうまでせずともご自分の長所となるべき部分で楽しむ事ができるのならそれでよいのではないですか? 筋力と体力が絶望的でも、動きが鈍く不器用でも……」
「それは言わないで……。でも、うん! そうだよね、魔法スキルをメインにして」
「姫様は世界一可愛らしいのですから!! 『可愛らしさ』が大きく影響するスキルを中心として……、はっ!? そうなると既に最強……!! さすがは姫様です」
「そんなスキル無いから! ……とは言い切れないけど、使わないから!! 私は魔法で頑張っていくの!」
「くっ、なんという凄まじい威力……、参りました」
「私今何かしたの!?」
「さて、姫様のあまりにも可愛らしいスキルの直撃を受け、私の体力も残り僅かとなってしまいました。もう一度回復のキスを頂戴したいのですが?」
「ポーション飲んで」
つーん。
「姫様が冷たいです、しくしく。折角これから残りの『特別』スキルについてお話しようと思っていましたのに……」
忘れてた! それがまだあった! わざとらしく嘘泣きしちゃってもうー!!
「もう……、『癒しと美肌の魔法』使う? あ、ゲームの中だから使えないよね」
私は『魔法を創る能力』で色々な魔法を創る事ができるのに、ゲームの中じゃそれも使えないのか……。そうなると本当にただの子供じゃないか私は……。
これはやはり……、諦めて引退しよう。それでは皆さん、私の次の冒険にご期待ください。
「フフフ……、メタルジェノサイd、おっと。姫様姫様? お忘れですか? このゲームは嫌になる程にリアル趣向だという事を」
そう言うとシアさんはにこにことしながら、左手に大振りのナイフを一本創り出した。
ブーメランに持ち手を付けた様な形状、あれには見覚えがある、確かククリナイフだ。クレアさんとのお勉強がこんな所で役に立つとは……。
シアさんの能力は、はっきりこれだと教えてもらった事はないが、『ナイフを創り出す能力』の筈。これはつまり……。
右手の平を上に向けて、よし、と一呼吸。
「『ライトボール』!」
私の右手の上に、見慣れた光の玉が出現した。つい詠唱付きで使ってしまって光量が凄いが。
「はい、正解です。ふふふ」
シアさんはとても嬉しそうにしている。
何よもう! にこにこしちゃって!
そう言う私も今、自分がニヤついているのがよく分かる。
逸る気持ちを抑えスキルウィンドウを呼び出し、『特別』タブをタッチ。そこに表示されているのは紛れもなく私の、私だけの能力!
[魔法を創る能力]
特別:個人技能
シラユキ・リーフエンド専用スキル
説明:
異世界転生の現実 その60を参照のこと
……ん? あれ? 今何か変な説明が書いてあったような?
スキルウィンドウから目線を外し、何度か瞬きをしてからもう一度見直してみる。
[魔法を創る能力]
特別:個人技能
シラユキ・リーフエンド専用スキル
説明:
新たな魔法を創り出す事ができる能力。
以下略。
この能力で創造された魔法はスキル一覧に表れず、ランクアップする事もない。
ああ、やっぱり気のせいだった、ちゃんと説明が書いてあるね。(震え声)
さすがに自分でスキルを量産できちゃうと能力値が上げ放題になっちゃうか。しっかりと対策は取られてるんだね。
『ライトボール』は能力で創った魔法ではないのだが、リアル世界での魔法なのでこちらも一覧に表示されていない。
能力値が上昇するスキルは『ゲーム内で得られるスキルのみ』、と考えていいだろう。
「もしかして、もしかしなくても、魔法も能力も全部そのまま使えるの!? 凄い凄ーい!!」
うおおおおお!! 私のテンションが今、有頂天になった!!!
「やったやったあ!! シアさん大好き!!」
椅子から飛び降りてシアさんに飛びつく様にして抱きつく。
この喜びをシアさんにも分けてあげたい! えーい、おっぱいも揉んでやるー!!
「ひひひ姫様可愛らしすぎます! 本気で押し倒してしまいそうなので抑え……なくとも結構です!!」
ギュッと強めに抱き返してくれるシアさん。幸せ!!
「このまま宿屋へ参りましょう!!」
「やめて!!!」
ハラスメント行為でGMさんを呼んじゃうよ!?
「お? シラユキか? こっちでもバレンシアと楽しそうに騒いでるな」
「おー、姫もコレ始めたのか。チュートリアル終わったんならパーティ組んでどっか行こうぜー」
シアさんに完全に捕まってしまっているので振り向いて確認はできないが、後ろから聞きなれた二人の声が聞こえた。
この声は……
「ルー兄様と……、ライスさん? シアさんそろそろ放してー」
「くっ、いいところで邪魔が入りましたか……。では私はまたサイズを変えまして、と」
また妖精さんサイズになり、私の左肩にちょこんと座るシアさん。可愛い。
「また無茶やってんなあアイツ……」
「まあ、バレンシアだからな……」
「ふふふ、それほどでもありません」
「なんというドヤ顔。でも今のは褒められたんじゃないと思うよ……」