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チュートリアルクエスト編

始まりの町に到着したシラユキ。

ここには一体何が待ち受けているのか……!!


ネタバレ:タイトル

 やって来ました始まりの町。見た感じリーフサイドと大差ない、大きいだけの田舎町という雰囲気だね。


「RPGで新しい町に着くとワクワクするよね? 新しい装備品とか売ってたりしてさ」


 私の左肩に座っている、メイド妖精のシアさんに話しかけてみる。

 妖精のメイドさんではなく、メイドさんの妖精だ。イミフ。


「そうですね。前の町で一通りの装備を揃えいざ苦労して辿り着いてみると、その装備品はこの町では二級品以下の性能だったと思い知らされる訳ですね。世知辛い世の中です」


 やれやれとため息を一つつきながら、やさぐれた空気を醸し出しながら言い放つシアさん。


「夢が無い! あってるけど! あってるけどさ! もう、シアさんは捻くれた考えばっかりしちゃ駄目だよ」


「申し訳ありません、(姫様をからかうのが)性分なものでありまして」


「はっきり聞こえたよ……。それで、ここでは何をしたらいいのかな?」


「姫様がこの世界で何をなされたいかにもよりますが……。ここはやはり定番の、チュートリアルクエストをこなしながら装備品やスキルを手に入れる事、ではないでしょうか」


 なるほど、確かに定番だね。

 チュートリアルクエストとは、簡単なお使い程度のクエストをクリアしていくと、自然とゲームの遊び方を学べたり、初心者専用装備や回復アイテムなどが貰えたりするクエストの事だ。


 シアさんのサポート力はまさに鬼の力と言ったところかな? さすがシアさんださすが。


「どこで受けられるかは知ってる? この町は結構広そうだよねー」


 見て回るだけで何日も掛かりそうな気さえする。


「そこまでは……、すみません。どなたかに……、あの男性に聞いてみましょうか」


 シアさんの指差す先には、まさにただの村人Aという風体の男の人が立っている。


「うん、近付いてみよっか」


 あの見た目からすると間違いなくNPCだろう。男の人であっても気軽に話しかける事ができそうだね。



「こんにちわー」


「ここは始まりの町、ラストタウンです」


「始まりの町なのにラスト!? あ、チュートリアルってどこで受けられるか知りませんか?」


「ここは始まりの町、ラストタウンです」


「えっ」


 嫌な予感がする。


「あのー」


「ここは始まりの町、ラストタウンです」


「チュートリアル……」


「ここは始まりの町、ラストタウンです」


 嫌な予感的中。よく見るとこの人、目が完全に死んでいる……。


 虚空を見つめ同じ言葉を繰り返す男の人から少し距離を置いて、シアさんと相談タイム。


「どうしようシアさん、まさか最新のオンラインゲームでこんなお約束に遭遇するとは思わなかったよ……。心が折れそう」


「なんという脆いお心でしょうか、しかし姫様でしたら全てが許されます。どうやらNPCは決められた言葉しか話せない様ですね。もしかしたら質問によってはちゃんとした返答が用意されているのかもしれませんが……。とりあえず今は町の名前が判明したのでよしという事にしておきましょう。一歩前進した事には違いありません」


「うん、そうだね、前向きに行かなきゃ! あ、ありがとうございました!」


 どうせ同じ事しか言わないただのNPCだろうけど、一応お礼を言っておこうかな。


「どういたしまして。チュートリアルクエストは冒険者ギルドで受ける事ができますよ」


 にっこり笑顔で言う男の人。


「普通に話せるんじゃないですかー!!」


「ここは始まりの町、ラストタウンです」


 また死んだ目で同じ言葉を繰り返し始めた。


「ログアウトしよう……」


「ひ、姫様、お心を強くお持ちください!」




 トボトボと元気なく大通りを歩いて進む。まさかゲーム開始直後にここまで精神を削られるとは思ってもみなかった。シアさんが言うには、町の名前を教えてもらった事に対してきちんとお礼を返せば追加情報を話すんだろう、という事らしい。そんな事知るもんか、もうNPCに気軽に話しかけたりなんかしないぞ。


「剣と杖の看板……、ここが冒険者ギルドかな?」


 見えてきたのは結構大きな建物。でかでかと掲げられた、剣と杖をX状に交差させた看板が目立つ。


「掲示板の様な物もありますし、武器屋ではないでしょう。早速入ってみるとしましょうか」


 シアさんはサポート役なのだけれど、まだ情報収集が済んでいないらしい。チュートリアルが終わる頃にはシステムを掌握してご覧に入れます、と息巻いていた。なにこのメイドさんこわい。でも可愛い


「うん……、うん! よし、頭を切り替えて行こう!」


「ふふ、その調子です」


 多分シアさんが小さいから私の気持ちも小さくなっちゃってるんだね。見た目小さくてもシアさんはシアさんだし、ちゃんと一緒にいてくれてるんだからいつも通りにしてればいいんだよ。うん。


 入り口の両開きの扉を開けて中に入ると、そこは一見酒場風の広い空間、見慣れたリーフサイドの冒険者ギルドに近い作りだった。奥のカウンターには受付の人らしき女の人が見える。

 多分冒険者ギルドであってるだろうと安心はしたが、私たち以外に人が誰もいないのが気になるところではある。


「誰もいないねー。そういえばここまで来る間も誰ともすれ違わなかった気もするし」


「まだログインされているのが姫様だけなのではないでしょうか? まあ、その分クエストに集中できるのでいいのでは? と思いますよ」


「それもそっか。メンテ開け直後の誰もいない広場とか思い出すよ」


 話しながらも歩みは進め、カウンター前に到着。シアさんはなるべく黙っているという事なので、NPCに話しかけるだけでもかなりの勇気が必要になる。ここは慎重にいかないと!


「いらっしゃいませー! 冒険者ギルドへようこそー!」


 今度はそっちから話しかけてくるんかい!! おっと、これははしたないところをお見せしてしまいました。反省反省。

 受付のお姉さんは……、まあ、どうでもいいか、割愛。おっぱいは大きめでした。


「えと、チュートリアルクエストを受けに来ましたー」


「はーい、チュートリアルですねー。新規の方ですとまずは『ステータスの確認方法』のクエストですね。ここで注意時事項です! チュートリアルクエストは専用のマップに移動して行われ、それ以後続く一連のクエストが全て完了するまでここに戻って来る事はできません。よろしいですかー?」


 おお、普通に受け答えしてくれるNPCだっているんじゃないか! まさかこの人は中の人がいるのか……?


「お願いしまーす! あ、どれくらい時間が掛かるんだろ」


 もしかすると一時間とかそれくらい? 町に人が見当たらないのはみんな別マップにいるからなのかもね。面白くなってきたぞー。ふふふ。


「大体三年もあれば終わりますよ。それでは! いってらっしゃいませー!!」


 お姉さんの元気な声の後、私の周りにキラキラとした光の粒が舞い上がり出した。


 おお、ワープ演出っていうやつかなん……だと……?


「待ってーー!!! チュートリアルに三年も掛かるの!?」


 危なすぎる!! なんという罠だ! それは驚きで敬語だって忘れちゃうよ! 他のプレイヤーさん達が誰もいない本当の理由はまさか……!?


「おっと! 一旦転送を取り止めますね。ゲーム内時間で三年くらいですよー?」


 光が収まった。

 なんだ、ゲーム内時間の事だったのか。焦って取り乱しちゃったじゃないか恥ずかしい。


「あはは、ごめんなさい。現実時間に直すと?」


「一ヶ月くらいじゃないですか? エルフさんなんですから三十日くらい浪費したってどうだっていいじゃないですかー」


「充分長かった! エルフでも一ヶ月は充分に長いですー! う、ん? 何シアさん? あ、また後で来ますね」


 無言で私の服をクイクイと引っ張る可愛いシアさん。何か私に伝えたい事があるみたいだ。


「はいはーい、いつでもどうぞー。モンスターの素材の買取などもやってますから、何か気になる事があったらお気軽にお尋ねくださいねー」


 クエストを取り止めても特に気を悪くした様子は見られない。やっぱりこのお姉さんも本当にNPCなのかもしれない。


 さて、チュートリアルとは言えいきなりリアル一ヶ月もかかるクエストなんてやってはいられない。まずはシアさんのお話を聞いてみよう。




 冒険者ギルド内、カウンター近くのテーブルに着く。なんだかやけに落ち着いてしまういい位置に丁度よくテーブルがあったものだ。

 とりあえず、元の姿に戻ったシアさんが用意してくれた紅茶を飲んで一息入れ、今後の事について話し合おう。


「これからどうしよっか。チュートリアルに一ヶ月も掛けるのは嫌だよー」


「ご安心ください、チュートリアルに必要な情報は全てダウンロード致しましたので、私がお教えして差し上げる事が可能です」


「どこに何をどうやってダウンロードしたのかは聞かない方がいい? 後、普通に飲んじゃったけどこの紅茶についても」


「別にそれくらいでしたら構いませんが、聞くと後悔されてしまうかもしれませんよ?」


「うん! やめておくね! わーい、しあさんはたよりになるねー。そこにしびれるあこがれるぅー」


「ふふ、それほどでもありません」


 私は考えるのをやめた。







本格的にゲームが始まるまではまだまだ掛かりそうですね。

チュートリアル的なお話が暫く続きます。

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