表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

人と人との関わりのなか、ちょっとしたすれ違いやわずかな誤解が生まれる。世の中に嫌というほどおこっていること。


このところ私のなかには、そんな他人にとってどうでもいい、当人達にとってお腹が痛くなるような問題が、雪の降り積もるように増えていった。


些細なことから省吾とケンカをし、関係がこじれた。厚く積もった雪が足を取り、私の歩みを遅くしていく。どうにかすればいけないのに、その術をしらない私はただただ流れに身を任せるだけ。歯を犯す虫歯のように、早くしないと手遅れになる。疲れた身体、晴れない心。それが職場での人付き合いや、友達との関係にも悪い影響を及ぼした。


「なんか言ってくれよ」

省吾の言葉。この言葉から、いつも言いたくて言えなかったのだと感じた。


 またか。そう思う。私はあまりしゃべらない。どんなことを話して良いのかわからないし、自分の、嬉しさや悲しみを伝えるのが苦手なのだ。自然と自分の気持ちを表に出せる人が羨ましい。物足りなさや寂しさを、言葉少ない私は恋人に感じさせてしまう。心理学では、一日に男は2000語、女は4000語話すと満足する。そんなことを前に見た雑誌に書いてあったが、私には1000語でも多いぐらいだ。


コミュニケーションが極端に下手な私に、なにができるというのだろう。


夜、テレビをぼんやり見る。


いろいろなことを考えすぎて、身体の中から強い気持ちが染み出していく。カラカラの身体をめり込ませるように、古い壁に寄りかかった。動きたくない。なにもしたくない。


しばらく死体のようになっていたが、人の頭はいつも働くようにできているらしい。考えたくもないのに、嫌なことが浮かんでくる。こんなときぐらい休んでいてもよいのに。


他のことを考えようとする。とはいえなかなか代案がなかなか思いつかない。風がガラス窓の横をすり抜け、ガタガタという音が家の中で鳴った。テレビを消し音に耳をかたむける。この家で私はひとりだ。


ため息をひとつ。代案を探すのをあきらめ、いつもそばにある日記について考えることにした。



まず意味がわからない。

具体的に書かれていることはあの人のことだけだし、小難しい文章と幼い子供のような言葉の羅列のみだ。詩人のつもりだろうか。


神経質なんだ。そうに違いない。実際これを書いた人がいたら、いっしょにいたくないと思う。細かい人は嫌いだ。


とはいえ、そんな人の書いたものを、好き好んで読んでいる私はどううなのだろう。



ぼん、ぼん、ぼん。12回。柱にかかったゼンマイ式の時計がなった。その音は思考の海で溺れている私を助けてくれた。なんてアホなことを考えていたのだろう。現実に救出された私は、空腹感に襲われた。ため息をひとつ。そういえば帰ってきてから何も食べていない。





『マッチ一本 タバコがじゅわり


もくもくもくもく ドーナッツ


頭のうえで浮かんでる


もくもくもくもく 入道雲


  吸いすぎに注意しましょう


もくもくもくもく わたがっし


甘いあまい思い出


もくもくもくもく ふーとひといき


風になる


もくもくもくもく 好きな人


大切なあなたの思い


大嫌い


人にやさしく』





人にやさしく。そうだよなぁと思う。


すこしだけなんとなく元気が出た。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ