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 うだるような暑さ。夏の日に、春の詩を見つけた。

セミの声がそこいらじゅうに響き渡り、汗という薄い膜が体にまとわりつく。

 何の気なしに見つけた春の言葉。なぜ見つけられなかったのか、今でも不思議に思う。あんなにそばにあったのに。

 こっそりと、なんか恥ずかしそうに、春の詩は日記の表紙の裏に落書きのように書かれていた。 

 それは春の望み。

 ささやかな希望。



『なんどものぼる坂

猫といっしょに歩く


猫の足は曲線をえがき

なめらかに回転する


猫はときどき私を見る

ふっとすこしだけそっけなく


それを見ると恋を思い出す


白い毛なみに桜色のはだ

青いアーモンドの目が私を通りぬける

目のうえのヒゲがまつ毛のようだ


猫はとてとて歩く

私をときどき見る

私は恋を思い出す


幸せなことと哀しかったこと

半分ずつ


猫は美しく歩く』





 日曜の昼下がり。がしゃがしゃと玄関のガラス戸を、誰かがしつこく騒ぎたてる。

「いるのはわかっているぞ。心やさしい同僚がビール片手にやってきたんだ、もれなく笑顔つきで出迎えるのが人として当然のことだぞ」

 数少ない親しい友人のなかで、ただ一人性別が違うあいつの声がする。

あまりにも元気すぎる声に苦笑いしつつも――そんなだからいつもフラれるんだ!――騒々しい客を出迎えるために私は立ち上がった。

濃い雲と濃い青空が、圧倒的に上から襲いかかる。大きな入道雲が空の半分にずうずうしくも居座り、冬の空を何枚もかさねたような原色の青が地上の色に勢いをつける。古い家や桜の木がはっきりと主張し、土が匂い立ち、人の気持ちが強く伝わってくる季節。



 夏が来る。





これで最終話です。読んでくださった方々には、とても感謝しております。この小説を一目でも見ていただけただけで、嬉しく思いました。

ありがとうございます

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