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旅人さんシリーズ

カゲカガミ

作者: 風紙文

ある日、旅人が街を訪れた時、既に日が暮れていた。

早く宿屋を探さないと、旅人は塀に囲まれた街の入り口の門を抜けると急ぎ足ながらも街を見回して歩いた。

煉瓦で舗装された道に、同じく煉瓦造りの家、旅人が歩く道には等間隔に街灯が立っている。ここは建築業の発達した街のようだ。

「お? ちょっと、そこの大荷物の人!」

旅人は足を止めた。自分は大きな鞄を背負っているのでそう呼ばれてもおかしくないと思ったからだ。

自分ですか? 旅人は訊ねながら声のした方向を見る。

「そうだよ、アンタ旅人だね」

そこに居たのは、恰幅の良い女性だった。腕に買い物籠をかけている、買い物の途中だったのだろう。

はい、こんばんは。旅人は挨拶をする。

「あいよ、こんばんは。その荷物、この街ではちょっと気を付けた方がいいよ」

? 物取りが出るのですか? 旅人は訊ねる。

「いや、ただね、影が大きくなるからだよ」

影が、大きく? 旅人は首を傾げる。

「この街はね、どういう訳か影が感覚を持つんだよ」

感覚、ですか? 旅人は自身の影を見た。

街灯に照らされた影が普通よりも黒くくっきりと道に映っている。背中に背負っている鞄も同化し、人の姿は成していない。

「ああ、ちょっとごめんよ」

女性は旅人の影を、鞄の端の方を足で踏んだ。

すると、コン、という音が、鞄の端で鳴った。

「分かったかい? 鞄の影を踏むと、鞄その物を踏んでるのとおんなじことになるんだよ」

なるほど、旅人は理解した。

「まぁアンタは旅人だから滞在してる時だけ注意すりゃいいだろうけどね、アタシ達は毎日気を付けて歩かなきゃいけないのさ」

毎日こうなのですか? 旅人は訊ねる。

「毎日、というか毎晩だね、昼間はこんな事無いんだ、後、建物の中なら夜でも大丈夫なんだけどね」

大変ですね、旅人は同情した。

「そうなんだよ、だから今も人が少ないだろ?」

旅人は辺りを見た。確かに道を行く人は少なく、歩いている人も互いに影を踏まないように離れて歩いているように見える。

「特に大変なのは馬車が通る時だね、誤って影が引かれでもしたら……うわ、想像しちまったよ」

旅人も想像し、身震いした。

「でもね、別に悪いことばかりでも無いんだよ」

そうなんですか? 旅人は訊ねる。

「影が自分の分身みたいだから常に影を意識するようになってね、お互い影にも気を使うようになったのさ。普通に考えりゃ影はただの黒いもんだけど、それに感覚があるだけでこうも違うもんなんだね、街のみんなはこれを、カゲカガミって呼んでるよ。影が自分を映した鏡みたいだからね」

なるほど、自分そっくりの影は鏡に自分を移したような存在。影の出来事は自分に、自分の出来事は影にも起こるんですね?

「そういうことさ」





影とは自分形の遮光空間、鏡に黒く塗ったような自分そっくりの影形。

この街では毎晩自分の出来事は影に、影の出来事は自分に起こる。

その現象を街の人は、カゲカガミと。



その出来事を街の外の人は、エイキョウと呼んだ。


いつか書こうと思っていたアイデアを、こうして旅人の物語として描いてみました。

カゲカガミ、つまりはエイキョウです。

お分かりでしょうが、エイキョウは「影響」と書きます。しかし、「影鏡」と当てても、そこまでおかしくないと自分は思います。読みもあっていますし、自分が動けば影も必ず動くのですから。


感想および評価、おまちしています。


それでは、

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