映画少年と恋愛少女
私の大好きな男友達が無類の映画好きなので、映画を餌にデートに誘ってみたら、パクリと簡単に食いついた。
じゃあ日曜日ね、と約束を交わして学校を出た私は、その足で本屋にファッション誌を買いに行く。
決戦の日曜日まではあと二日。雑誌で得た知識をフル活用で、鏡の前で髪型研究。上げたり、下ろしたり、引っ詰めたり、巻いてみたり。「化粧はどうしよう?」「バッグはアレね」と、眉毛を抜きながらアレソレ考え、「姉ちゃんへんー」と、うろちょろうるさい弟をけたぐりながら、服を合わせに合わせて、それでも覚える心許なさに服を買い足し、美容院でセットしてもらって、ついに迎えた決戦の日曜日。
バッチリの私に普段着の彼は、挨拶もそこそこに映画館へレッツゴー!
貯金の尽きた私は、母から借りたお金で彼とチケットを買う。
彼のお隣り。
彼の横顔。
こちらに振り向く。
二人で分け合うポップコーン。
カップにすれ違う二人の手。
暗くなる館内。
映画が始まる。
彼の横顔。
スクリーンなんて見ちゃいない。
彼の横顔。
私の手はゆっくりと大胆に、
ひじ掛けの上にある彼の手に近付き、
その手に触れるか触れないかの、
わずかなためらいを往復する。
手はかすかに汗ばんで、
こんな手で触ったら嫌われるかも……
などというネガティブと、
もし彼の手に握り返されたらドキドキしちゃう!
などというポジティブに、
ついにその手を、
掴んだ!
……。
彼の横顔。
暗闇に前向く彼は、スクリーンしか見ていなかった。
彼の横顔。
私はそっと手を離した。
映画が終わって、二人きりのお茶タイム。
彼は目を輝かせながら、今見た映画の話をしている。私は必死に相槌を打ちながら、半分も見てない映画の話をしている。
そんな彼の目を綺麗に思える私は、やっぱりどうして彼が好き。
彼が笑顔で話している。
私の瞳に映る彼は、今は横顔まで。
なーに、すぐに振り向かせてやるさ。
彼の瞳に映る私が、キュッと唇を引き締めた。