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第八話:泥の家から「石の城」へ

次に着手したのは、崩れかけていた村人の家の改修と、自身の拠点となる領主邸の建造だ。

 実家のレトヴィス伯爵領では、平民は家畜のように扱われていた。だが、俺は違う。「情報の力」を最大化するには、まず人間が健康で文化的に暮らせる環境が必要だと知っているからだ。

「アルス様、この『石灰』と『火山灰』を混ぜたものは、本当に固まるのですか?」

 大工仕事を手伝う領民が不思議そうに問う。

「ああ。これは『ローマ風コンクリート(ポッツォラン・セメント)』に近い配合なんだ。耐久性は、今のレンガの比じゃないよ」

 俺は古文書から得た建築知識に、前世の化学知識をブレンドした。

 火山灰はこの土地の「呪い」ではなく、最高の「建築資材」だった。これに石灰を混ぜることで、驚異的な強度を持つ建材が生まれる。

 まず、村人たちの家の屋根を、灰が積もりにくい急勾配のものへと改修した。壁には断熱性の高い新素材を使い、隙間風をシャットアウトする。

 そして、村の丘の上に建設を始めた領主邸。

 それは豪華絢爛なだけの貴族の屋敷ではない。

 一階には広大な『修復図書館』。

 地下には『情報処理室』。

 外観は質実剛健だが、内装はリィナがこだわった「おもてなし」の空間が広がる、この領地のシンボルだ。

「アルス様、お疲れ様です! 休憩にしませんか?」

 ミーナが、リィナと一緒に作った温かいスープを持ってきてくれた。

 俺は泥だらけの手を拭き、彼女の隣に座る。

「ありがとう、ミーナ。随分と字が上手くなったね」

「はい! アルス様が修復してくれた本、とっても面白いです。私、いつかアルス様のお手伝いができるようになりたいんです」

 彼女の真っ直ぐな言葉に、少しだけ胸が熱くなる。

 かつて、実家で「ゴミ拾い」と蔑まれていた時、こんな未来が待っているとは想像もできなかった。

 水源が確保され、家が建ち、ライフラインが整った。

 アッシュランドは、もはや「死の地」ではない。

 俺と、俺を信じてくれる仲間たち、そして『修復された知識』が、新しい歴史を刻み始めていた。

「……さて。基盤は整った。次は、この土地を狙う連中への『対策』も考えておかないとな」

 俺は丘の上から、整備されつつある村の景色を眺めた。

 そこには、灰を被りながらも力強く笑う人々の姿があった。

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