第十九話 伯爵の叙勲と、王家の絆
サンライト王国の救世主として、そしてエルフの王国の恩人として帰還したアルス。王都の謁見の間は、一人の若き賢者の凱旋によって、かつてない熱狂と厳粛な空気に包まれていました。
サンライト王国の国境で、第一王子エリックとセリア王女、そして小さなソル王子に見送られたアルス一行。ソル王子から預かった「黄金の葉」は、今やサンライトとルミナスの永遠の友情の証として、アルスの胸元で誇らしげに輝いていました。
数日後、ルミナス王都。
王城の謁見の間には、ルミナス王国の全貴族が集結していました。かつてアルスを「ゴミ拾い」と蔑んだ者たちは、今やその眩いばかりの功績の前に、言葉を失い平伏しています。
「アルス・レトヴィスよ。そなたがサンライト王国、そして精霊王国シルヴァニアで成し遂げた『修復』は、もはや一領主の功績を超えた。そなたは三か国の未来を繋ぎ、この大陸に真の平和の礎を築いたのだ」
国王の声が、静まり返った広間に響き渡ります。
「その多大なる功績を称え、本日をもってアルス・レトヴィスを『伯爵』に叙する。また、以前の約束通り、第二王女フィリアとの婚姻を正式に許可し、そなたを王室の直系家族として迎え入れる。……異論のある者は、前へ出よ」
静寂。誰も動く者はいませんでした。アルスの実家であるレトヴィス伯爵家が没落した今、アルスは自らの手で「新たな伯爵家」を興したのです。
「……身に余る光栄にございます、陛下。この地位、人々の笑顔を『修復』するために捧げましょう」
アルスが深く頭を下げると、その傍らに、瞳をキラキラと輝かせた皇太子レオが駆け寄ってきました。
「アルス兄様! お帰りなさい! ……すごい、伯爵様だね! それに、フィリア姉様とお嫁さんになるなんて、僕、とっても嬉しいよ!」
「レオ王子。……お留守の間、勉強は進んだかな?」
「うん! 兄様が直してくれた古文書、全部読んだよ! 僕、もっと強くなって、兄様が守ったこの国を、今度は僕が守れるようになるから。……約束だよ、兄様!」
レオ王子の小さな、しかし力強い言葉。アルスはその頭を優しく撫で、未来の王の成長を確信しました。
聖都への帰還:愛しき「家」へ
王都での叙勲式を終え、アルス一行はついに自らの直轄地、『聖都マイ・ルミナス』の門をくぐりました。
代官ハンスが指揮を執る街は、領主の帰還と「伯爵昇進・結婚決定」の報に、まるでお祭りのような大騒ぎとなっていました。
「閣下! ……いえ、アルス伯爵閣下! お帰りなさいませ!」
ハンスが感極まった表情で出迎えます。
「ありがとう、ハンス。……フィリア、見てごらん。みんなが待っていてくれたよ」
アルスは隣に立つフィリアの手を、優しく握りしめました。
かつて物置小屋で震えていた少年は、今、自ら創り上げた楽園の主として、愛する女性と共に、最高の「家」へと戻ってきたのです。
ロイは誇らしげに周囲を警護し、リィナは安堵の溜息をつき、ミーナは領民たちとハイタッチを交わしています。新入りのエルフ・ファランは、その光景を眩しそうに見つめていました。
「……アルス様。これからは、二人でこの街を、そして世界を直していきましょうね」
「ああ、フィリア。……でもその前に、まずは結婚式の準備かな」
二人の笑い声が、聖都の空に溶けていきます。
しかし、アルスの手にある「神代の羊皮紙」は、微かな振動と共に、海の向こうの不穏な影――ゼノス帝国の胎動を告げていました。




