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第十八話 翡翠の訣別と、古き神の「遺言」

アルス一行がエルフの王国シルヴァニアを去る日、里はかつてないほどの別れを惜しむ声に包まれました。

しかし、その別れは悲しいものではなく、新たな時代の幕開けを予感させる晴れやかなものでした。

世界樹の根元、かつて絶望の瘴気が渦巻いていた正門前には、女王エルシィとエルフの精鋭たちが整列していました。

「アルス様、改めて感謝を。貴方は我が同胞の命だけでなく、魂の尊厳をも守ってくださいました」

 女王はそう告げると、傍らに控えていた翡翠色の鎧の女性――あの時、最初にアルスたちを包囲した警備隊長を前に出しました。

「同盟の証として、我が国の誇りである警備隊長ファランを貴方の旅に同行させてください。彼女の弓は、貴方の進む道を阻むあらゆる不純を射抜くでしょう」

「……謹んでお引き受けします、女王陛下。ファラン殿、よろしく」

「……不作法な振る舞い、今一度お詫びを。これからは私の命、閣下の盾として捧げます」

 ファランは短く、しかし鉄のような決意を込めて跪きました。エルフという種族が人間に忠誠を誓う――それは歴史を修復したアルスにしか成し得ない、奇跡の光景でした。

【古き羊皮紙:女王からの託し物】

 旅立ちの直前、女王エルシィは周囲を払い、アルスにだけ一巻の羊皮紙を差し出しました。

 それは、悠久の時を生きるエルフの記憶ですら風化しかけている、異様なほどに古い気配を纏った代物でした。

「……アルス様。これを受け取ってください。我が国に伝わる最古の、そして解読不能の遺物です」

 アルスがそれを受け取った瞬間、『概念修復』のスキルが激しく共鳴しました。

 鑑定の文字が、見たこともない色で明滅します。

【対象:神代のプロトコル・断片(読解不可)】

【エラー:存在確率が不安定。現在の世界の理(OS)では処理できません】

「……これは、ただの羊皮紙じゃない。……世界の『根本的な設定』が書き込まれている……?」

「私たちエルフにも、もはやそれが何であるか分かりません。ただ、数千年前から『真の賢者が現れた時、その手に委ねよ』と伝えられてきました。……海の向こう、帝国の影を感じる貴方なら、この『意味』を解き明かせると信じております」

【凱旋:聖都へ向けて】

 アルスは、ルミナス国王とサンライト国王へ宛てた「三か国鉄の同盟」の親書を大切に鞄に納め、ハティを先頭に、ロイ、リィナ、サバス、ミーナ、そして新加入のファランと共に、エルフの森を後にしました。

「アルス様、その羊皮紙……なんだか、見てるだけで頭がポカポカします」

 ミーナが不思議そうに覗き込みます。

「……ああ。これは、僕たちがこれから立ち向かう『世界の歪み』を直すための、最後の一頁ピースかもしれない」

 アルスの目は、既にサンライト王国の国境を越え、その先にある我が家――『聖都マイ・ルミナス』を見据えていました。

 サンライトでの再興、エルフの里での浄化。

 二つの大きな功績を携え、守護賢者の帰還が始まります。

 しかし、その手に握られた古き羊皮紙は、この先訪れる「世界の理そのものを修復する」という、あまりにも壮絶な戦いの序曲を奏でていました。

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