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第十五話 静寂の断罪と、絶対の神域

エルシィ女王の寝所がある大樹の最上層から、リィナが負傷者を癒やす水上の医療天幕まで。

その「光」が届く範囲のすぐ外側、翡翠色の霧が濃く立ち込める境界線で、二人の「守護者」が動いていました。

湿り気を帯びたシダの葉が、音もなく揺れる。

 サバスは純白の手袋の指先で、空間に漂う「不純な魔力」の粒子をなぞりました。

「……不作法な輩ですな。閣下が女王陛下の執刀リライトに入られたこの機を狙うとは、美学の欠片も感じられない」

 その傍ら、ロイがソル・レイスの柄に手をかけ、目を細めます。彼のスキル『絶界の神域ゾーニング・ゴッド』には、霧の向こう側に潜む「三十六」の殺気が、泥のようにどろりとした情報の塊として映し出されていました。

「サバス、北西から十二。東の樹上から八。残りは……地下の水脈を通って医療天幕を狙っている。リィナさんとミーナのところだ」

「おや。レディの休息を邪魔する不届き者ですか。……それは『消去デリート』対象ですね」

 サバスが指先を鳴らした瞬間、彼の姿が陽炎のように掻き消えました。『虚無の編集』――存在確率を零にした彼は、物理的な足音すら残さず、頭上の枝へと転移します。

【森の処刑:静かなる虚無】

 樹上に潜んでいた『蛇の抜け殻』の暗殺者たちが、魔導弓を番えようとしたその時です。

 彼らの視界から、突如として「弓」という概念が消え去りました。

「なっ……!? 武器が、消えた……!?」

「いいえ。この空間から、貴方たちが武器を持つという『結果』を削除したのです」

 冷徹な声と共に、サバスが影から現れます。彼が掌をかざすと、暗殺者たちの存在そのものが、まるで書き間違えたインクを消すように、音もなく闇へと吸い込まれていきました。

【正面突破:神域の蹂躙】

 一方、地上ではロイが抜刀していました。

 正面から突き進んでくる瘴気の獣と魔導師の集団。それを追ってきたエルフの警備隊員たちが、「止まれ! 死ぬ気か!」と叫び声を上げます。

 だが、ロイは止まらない。

「ここから先は、閣下の聖域だ」

 ロイが踏み込んだ瞬間、空気が物理的に爆発したような錯覚を周囲に与えました。

 『絶界の神域・ゼロ』。

 半径五メートル以内に侵入した魔導師たちの術式が、ソル・レイスの高周波振動によって、発動の瞬間に分子レベルで分解されていく。

 斬るのではない。ただ通り過ぎるだけで、敵の鎧も、武器も、そして放たれた魔法さえもが、砂のように崩れて霧散する。

「……ば、馬鹿な……。あの一人の人間に、我ら一族の秘術が、一切……届かない……!?」

 エルフの警備兵たちが、戦慄と共に足を止めました。彼らが一生をかけて練り上げた翡翠の矢よりも、ロイの一振りの方が、遥かに「世界の理」に近い場所にある。

【二人の邂逅】

 わずか数分の後。

 境界線には、不自然なほどの静寂が戻っていました。

 サバスが木の葉を一枚も散らさずに降り立ち、ロイがソル・レイスを鞘に納めます。

「……地下の鼠も処理しました。リィナ殿の天幕には、埃一つ通しておりません」

「ああ。こっちも片付いた。……エルフの諸君、驚かせて済まない。掃除は終わったから、後はリィナさんの手伝いに戻ってくれ」

 ロイが平然と言い放ち、二人はアルスのいる大樹へと歩き出します。

 残されたエルフの戦士たちは、冷や汗を流しながら、自分たちが「守られる側」であったことを悟りました。

「……あの『情報の賢者』の傍にいるのは、ただの従者ではない……。あれは、歩く『天災』だ……」

 リィナの奏でる調律の光の下、サバスとロイという最強の矛と盾が、アルスの「修復」を絶対的な安寧で守り抜いていました。


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