表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/82

第十二話 銀の導きと、翡翠の矢林

アルス一行の足元で、子狼のハティが「クゥン」と鼻を鳴らし、ふさふさの尻尾を振っています。その毛並みは、アルスの『概念修復』を受けてからというもの、陽光を反射して銀色に輝く星屑のようでした。

「ハティ、そこは危ないよ。根っこが浮いてるからね」

 アルスが声をかけると、ハティは得意げに喉を鳴らし、巨大な世界樹の根の隙間を軽快に跳ねてみせました。

 道中、ハティはすっかりアルスに懐いていました。ミーナが差し出す干し肉を美味しそうに頬張り、夜の見張りではロイの隣で静かに耳を立て、リィナがブラッシングを始めると、とろけそうな顔で喉を鳴らす。

「閣下、この子の案内は正確です。……人の目には見えぬ『マナの通り道』を選んで歩いていますな」

 サバスが感心したように呟きました。

 だが、ハティが不意に足を止め、低く唸り声を上げました。

 銀の毛が逆立ち、その小さな瞳が前方の深い霧を凝視します。

「……ハティ? どうしたの?」

 ミーナが身を乗り出した瞬間――。

 シュンッ! シュシュシュンッ!!

 空気を切り裂く鋭い音が連続し、アルスたちの足元、わずか数センチの場所に十数本の「緑に光る矢」が突き立ちました。

「動くな、不浄なる人間ども。……それ以上、我らが聖域を土足で汚すなら、次は眉間を貫く」

 霧の向こうから現れたのは、透き通るような肌と長い耳を持つ、翡翠色の鎧を纏ったエルフの警備隊でした。その数、およそ五十。樹上、茂み、さらには足元の草むらから、無数の弓がアルスたちに向けられています。

「……エルフの警備隊か。ロイ、手出しはしないで」

「ですが閣下、この数は……!」

 ロイが剣の柄に手をかけますが、アルスは静かに制しました。

 エルフの隊長らしき、冷徹な美貌を持つ女性が前に出ました。彼女の瞳には、人間に対する深い憎悪と、それ以上の「絶望」が滲んでいます。

「サンライトの王族か、あるいは貴族派の残党か。……世界樹の毒を撒き散らした挙句、今度は直接我らを絶滅させに来たか。……我らシルヴァニアの民、最後の一人になろうとも、貴様らだけは許さぬ!」

「待ってください! 私たちは世界樹を直しに来たんです! アルス様は、ルミナスの賢者様で……!」

 ミーナが叫びますが、エルフたちの弦を引き絞る音は止まりません。

「黙れ、小娘。……人間の言葉など、もはや信じぬ。……放て!!」

 一斉に放たれる翡翠の矢。

 逃げ場のない、死の雨が降り注ぐ――その瞬間。

 「ガアアアァァァッ!!」

 ハティがアルスの前に飛び出し、空を裂くような遠吠えを上げました。

 子狼とは思えぬその咆哮には、かつて大精霊アトラから授かった神聖な魔力が宿っていました。放たれた矢が、ハティの放つ銀色の衝撃波に弾かれ、空中で粉々に砕け散ります。

「……なっ!? その子狼……まさか、守護獣フェンリルの……!?」

 エルフたちが動揺し、弓を下ろしました。

 アルスは静かに一歩前に出、手のひらを広げて見せました。

「……僕はアルス・レトヴィス。このハティの親を救い、大精霊アトラから『裏側』を託された者です。……君たちの女王が、病に伏せっていることも知っている。……僕に、その病を『修復』させてくれないか?」

 張り詰めた沈黙。

 ハティがエルフの隊長に近づき、そのブーツを優しく鼻先で突きました。まるで「この人は信じられるよ」と教えるように。

 絶体絶命の危機から一転。

 アルスは、ハティという「信頼の証」と共に、閉ざされたエルフの王国の門を、静かに叩きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ