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第十一話 銀嶺の咆哮と、受け継がれる牙

サンライト王国の国境を越え、世界樹の根が地表にのたうつ「忘却の密林」へと足を踏み入れた一行。そこは、大精霊アトラが警告した通り、世界樹の「裏側」から漏れ出した毒々しい瘴気に満ちていました。


「……空気が重いな。ロイ、サバス、警戒を。マナの濃度が異常だ」

 アルスがソル・レイスを微かに鳴らした瞬間、森の奥から、木々をなぎ倒す凄まじい衝撃波が放たれました。

「グガアアァァァッ!!」

 現れたのは、伝説の守護獣、銀狼フェンリル。本来なら神聖な銀の毛並みを誇るはずのその巨体は、今や黒い血管のような紋様に覆われ、瞳は理性を失ったどす黒い赤に染まっています。

「フェンリル……! エルフの国の門番が、これほどまでに瘴気に侵されているのか」

 ロイが『絶界の神域』を展開し、前に出ます。フェンリルの爪が、ロイの不可視の壁を力任せに引き裂こうと荒れ狂います。

 しかし、アルスの目は、狂乱する巨獣の足元に釘付けになりました。

「……待って、ロイ。殺しちゃダメだ。あそこに――子供がいる」

 巨体の陰で、一回り小さな、まだ汚れのない銀色の毛並みをした子狼が、震えながら親を呼び続けていました。親フェンリルは、自分の中に渦巻く毒から子を守ろうと、本能と狂気の間で苦しみ、暴走していたのです。

「サバス、リィナ! 抑えてくれ! 僕が『修復』する!」

「承知いたしました。……『虚無の編集・因果の固定』!」

 サバスが指を鳴らし、フェンリルの動きを一時的に空間ごと「停止」させます。

「いまだわ、アルス坊ちゃま! 『万象の調律・鎮魂レクイエム』!」

 リィナが放つ穏やかな魔力が、親フェンリルの荒れ狂う精神を一時的に凪がせました。

 その隙に、アルスはフェンリルの額に直接手を触れました。

「……苦しかったね。君が守りたかったのは、この子だろ。『概念修復・純化ピュリファイ』!!」

 アルスの手から溢れ出した黄金の光が、フェンリルの体内にある「瘴気のプログラム」を高速で書き換えていきます。毒を栄養へと再構成し、壊れかけた細胞を本来の「神獣の秩序」へと戻していく。

 やがて――。

 フェンリルの瞳から赤みが消え、透き通った青い双眸が戻りました。

「……クゥ、クゥン……」

 子狼が親に駆け寄り、その大きな鼻面に身を寄せます。親フェンリルは、アルスを静かに見つめると、深く頭を下げました。

『……人の賢者よ。我が狂気を鎮め、我が子を救ってくれたこと、感謝する。……我は傷深く、この地の浄化に専念せねばならぬ。だが、我が子――ハティを、貴殿の旅の供に連れて行ってはくれぬか』

 大精霊アトラの加護を受けたアルスになら、未来を託せると判断したのでしょう。

 子狼のハティは、アルスの足元に寄ってきて、クンクンと匂いを嗅いだ後、ペロリと手を舐めました。

「……ハティ、か。よろしくね。君の故郷、エルフの国を必ず元に戻してみせるよ」

「アルス様! 私、ハティちゃんの言葉、少しだけ分かります! 『この先の森の抜け道、知ってるよ』って言ってます!」

 ミーナが嬉しそうにハティを抱き上げました。

 最強の守護獣の加護、そして新たな相棒。

 アルス一行は、子狼ハティに導かれ、ついに幻想の王国【精霊王国シルヴァニア】の入り口へと到達しました。


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