表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/82

第七話 小さな約束と、深淵の呼び声

世界樹の調査へと発つ直前、王宮の私庭。

 アルスの前には、エリック王子とセリア王女、そして二人の間に生まれた一人息子、ソル王子が立っていました。まだ五歳。太陽のような金髪を揺らす少年は、枯れゆく世界樹を不安げに見上げています。

「アルス殿……。ソルがどうしても、貴殿に渡したいものがあるというのだ」

 エリック王子に促され、小さなソル王子がアルスの膝元まで駆け寄りました。その小さな手には、枯れて茶色くなったはずの世界樹の葉が、大切そうに握られていました。

「……賢者さま。これ、ぼくが拾ったの。……木の神さま、お腹が痛いのかな? これを返したら、元気にしてくれる?」

 無垢な瞳。アルスはその場に膝をつき、少年の目線に合わせて微笑みました。その手を取り、そっと魔法を指先に灯します。

「大丈夫だよ、ソル王子。……この葉っぱ、僕が預かるね。次に会う時は、この葉っぱみたいに綺麗な『黄金の森』を、君に見せてあげる。……約束だ」

 アルスが葉に触れると、**『概念修復』**の光が走り、枯れ葉が一瞬で瑞々しい緑を取り戻しました。

「わあ……! キラキラしてる!」

 少年の歓喜の声に、セリア王女は涙を浮かべてアルスに深く一礼しました。

「アルス様……。あの子の未来を、どうか……」

「ええ。……エリック殿下、行きましょう。この子の笑顔を曇らせる『バグ』は、僕がすべて消し去ります」

世界樹の深淵:大精霊との邂逅

 エリック王子の**『太陽の聖域』**によって、ドルトン侯爵派の封鎖線を強行突破し、一行はついに世界樹の根元――「精霊の回廊」へと足を踏み入れました。

 そこは、物理的な法則が通用しない情報の海。

 アルスはサバス、ロイ、リィナ、そしてミーナを外に待たせ、一人で意識を「世界樹の核」へとダイブさせました。

『……来たか。書き換えられた歴史を直す、異界の修復師よ』

 意識の深淵でアルスを待っていたのは、半透明の巨大な鹿の姿をした大精霊アトラでした。しかし、その体はサバスが報告した通り、黒いくさびによって侵食され、崩れかけています。

「アトラ。……ひどいな、これは。外部からの攻撃じゃない。……内部の『存在定義』そのものが、別の何かに置き換わろうとしている」

『……ドルトン共の仕業だ。彼らは、我を器として「偽の神」を降ろそうとしている。……修復師よ。我を消せ。これ以上汚される前に、我ごと世界樹を終わらせてくれ』

 大精霊の悲痛な願い。だが、アルスはソル王子から預かった「緑の葉」を、その意識の海に浮かべました。

「断るよ。……僕は修復師だ。消去デリートは、サバスの担当でね」

 アルスの瞳が、黄金の光を帯びて輝き始めます。

「アトラ。……君を苦しめているその黒い楔、その『文字列コード』……僕が今から、君への『賛歌』に書き換えてあげる。……少し熱いけど、我慢してくれ」

 アルスの**『概念修復』**が大精霊の核に触れた瞬間、世界樹全体が震動を始めました。

 王宮で、そして領地で、人々が空を見上げます。

 死にゆく巨樹の内側で、今、世界で最も贅沢な「大工事」が始まろうとしていました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ