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第五話 晩餐の毒と、深まる夜の策略

ドルトン侯爵ら貴族派との緊迫した対峙の後、王宮の私的な小食堂へと場所を移し、アルスたちは国王一家との密やかな晩餐に臨みました。

先ほどの広間とは打って変わり、小食堂は温かな蜜蝋の灯りに包まれていました。並んだ料理は、サンライト王国伝統の香草焼きと、アルスが支援した『灰金麦』で焼かれたパン。

「……アルス殿。先ほどの無礼、重ねて詫びる。ドルトンたちは、世界樹の枯死を『神の意志』と呼んで広めることで、民の不安を煽り、自らの宗教的権威を不動のものにしようとしているのだ」

 国王ゼノスが、疲れ切った手でワイングラスを揺らします。セリア王女もまた、アルスの隣で声を潜めました。

「彼らは『聖別』と称して、世界樹の周辺への立ち入りを厳しく制限しています。王族である私たちですら、満足に根元へ近づけないのです。……何かを隠しているとしか思えません」

「なるほど。……信仰という名の隔離ブロックですか。情報の修復を拒むには、最も厄介な手法ですね」

 アルスは一口、パンを千切って口に運びました。かつてアッシュランドで飢えていた頃には想像もできなかった、王族との食事。だが、その味は、背後に潜む巨大な陰謀の気配で、どこか砂が混じっているような感覚でした。

「陛下、エリック殿下、セリア殿下。……明日の朝から、本格的な調査を開始します。……今夜は、少し『耳』を働かせておきますよ」

深夜:賢者の私室、影の出撃

 国王たちとの食事を終え、アルス一行に用意された豪華な客室へと戻ると、アルスはすぐに窓際の影へ視線を向けました。

「……サバス、出番だ」

「はっ。既に準備は整っております」

 闇に溶けるように現れたサバス。アルスは彼に、一つの小さな魔導具を渡しました。それは、アルスが分子振動を応用して作り出した『超指向性集音・記録具ボイス・レコーダー』。

「ドルトン侯爵とその一派を探ってくれ。彼らが夜中に『聖別』の名の下で何を行っているのか。……必要なら、リィナの『調律』で感覚を研ぎ澄ませていけ」

「御意に。……ロイ殿、閣下の警護は任せましたぞ。……リィナ殿、行ってまいります」

「ええ、気をつけてね。……アルス坊ちゃま、ミーナちゃん、今日は移動で疲れました。明日に備えて、少しでも休んでくださいね」

 リィナが手際よくハーブの香香を焚き、ミーナは既にアルスの隣で、今日得た情報の整理を始めていました。

「……アルス様、ドルトン侯爵の魔力の波長、どこか『世界樹の枯死』と同期シンクロしているように見えました。……これ、私の勘ですけど」

「……ミーナ、君の勘は、時として真実そのものだ。……もし彼が意図的に世界樹を枯らしているとしたら、それは単なる野心じゃない。……もっと根源的な『禁忌』に触れている可能性がある」

 アルスは机に広げたサンライト王国の古地図を見つめました。

 世界樹の根元、かつて精霊たちが住まうと言われた「聖域の深淵」。

 そこには、ドルトンたちが命懸けで隠し、そしてサバスが今夜暴こうとしている、この世界の「バグ」の正体が眠っているはずでした。

「……さあ、明日は忙しくなるぞ」

 王都ヘリオポリスの夜は更けていきます。

 静寂の中で、サバスという名の「掃除屋」が、ドルトン侯爵の邸宅へと音もなく潜り込んでいきました。


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