第四話 黄金の都と、沈黙の聖別
サンライト王国の王都に到着したアルスたち。そこで待ち受けていたのは、枯れゆく世界樹を前にしてもなお、歪んだ信仰に縋る人々と、それを利用する新たな敵対勢力でした
サンライト王国の王都『ヘリオポリス』。かつては世界樹から放たれる黄金の光が街中を照らしていたというその都は、今や薄暗い影に包まれていた。
アルスたちがエリック王子と共に城門をくぐると、街の至る所で人々が跪き、枯れゆく世界樹に向かって祈りを捧げている異様な光景が目に入った。
「……祈っているというよりは、何かに怯えているようですね」
ミーナが不安げにアルスの袖を引く。
「そうだ。……そしてその恐怖を利用している連中がいる」
アルスの視線の先、純白の法衣を纏った貴族たちが、民衆の間を練り歩きながら「これは神の浄化である」と説いて回っていた。
【謁見:王室の苦悩】
王宮の玉座の間。出迎えたのは、サンライト王国の国王ゼノス、そしてかつてアッシュランドを支援してくれた第一王女セリアだった。
「アルス男爵、よく来てくれた。……ルミナスの守護賢者をこのような状況で迎えること、心苦しく思う」
ゼノス国王の顔には深い疲労が刻まれていた。セリアもまた、かつての気高さはそのままに、悲痛な眼差しでアルスに歩み寄る。
「アルス様。世界樹の枯死が始まってから、国中の魔導具が機能を停止し、農作物の成長も止まりました。……ですが、それ以上に深刻なのは、国内の『声』なのです」
【貴族派の接触:狂信の壁】
その時、広間の入り口から、仰々しい足音が響いた。
現れたのは、サンライト王国貴族派の筆頭であり、宗教的な権威も兼ね備えるドルトン侯爵。彼の後ろには、同じく冷徹な瞳をした貴族たちが控えている。
「陛下。ルミナスから『ゴミ拾い』の賢者を招くなど、神への冒涜にございます。世界樹が枯れるのは、これまでの我らの慢心を神が罰し、新たな聖域へと作り替えるための『聖別』……。人間が手を触れるなど、言語道断!」
ドルトンがアルスを蔑むように見据える。彼ら貴族派は、世界樹の枯死を「神の定めし運命」と信じ込み、修復しようとするアルスたちの動きを「不敬」として徹底的に排除しようとしていた。
「侯爵閣下。……神が何を望んでいるかは知りませんが、僕のスキルは、この樹の中に『異物』が紛れ込んでいると告げています。……これは神の意志ではなく、ただの『病』ですよ」
アルスの言葉に、広間の空気が凍りついた。
「……貴様、聖なる樹を病などと……! 陛下、今すぐこの無礼者を地下牢へ!」
「控えよ、ドルトン!」
エリック王子が一歩前に出、『太陽の聖域』の圧力を放つ。
「アルス殿は我が国の恩人であり、陛下の正式な招待客だ。これ以上の不敬は、私への反逆と見なす」
ドルトンは忌々しげに舌打ちをし、翻るマントと共に去っていった。だが、その去り際に彼が見せた、どこか勝利を確信したような笑みを、アルスは見逃さなかった。
「……エリック殿下。あの侯爵、ただの盲信者じゃないね。……世界樹が枯れることで、何か『別のもの』を手に入れようとしている」
アルスは窓の外、黒い蔦に蝕まれた巨大な幹を見上げた。
王宮内に潜む狂信の壁。そして、世界樹の根元で蠢く「真の病」。
サンライト王国での修復作業は、想像以上に困難な「情報の迷宮」となりそうだった。




