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第一話 修復賢者の休息と、世界を揺らす予兆

かつて、王都のゴミ捨て場で泥にまみれた古紙を拾い集め、「無能」と蔑まれた一人の少年がいた。

 レトヴィス伯爵家の三男、アルス。

 彼は現代日本での「資料修復師」としての記憶と、進化した鑑定スキルを武器に、誰にも読めなくなった失伝魔法や建国の真実を次々と蘇らせた。

 死の灰が降り積もる絶望の地『アッシュランド』を、黄金の小麦が実る楽園へと変え、腐敗した貴族派の野望を打ち砕いた第一章。

 しかし、彼が修復した「ルミナス王国の歴史」は、壮大な世界の物語の、ほんの一頁に過ぎなかった。

 第二章でアルスが対峙するのは、一国の争いを超えた「世界の劣化バグ」。

 隣国サンライト王国の象徴であり、魔力の源である伝説の『世界樹』が、原因不明の枯死を始めたという。

 古紙から魔導書へ。

 魔導書から、生命の設計図(DNA)へ。

 アルスの「修復」は、ついに神代の領域へと至る。

 再会する第一王女セリア、共に歩むロイやリィナ、そして成長したミーナ。

 新たな仲間と、未知の強敵。

 情報の賢者が綴る、第二の物語が今、幕を開ける。

かつて死の灰が降り積もっていたアッシュランドは、今や大陸全土から「奇跡の地」と呼ばれていた。

 ルミナス王家より認められた永世中立の自治区。その名は、アルスの母の名と、この地に宿る不滅の輝きを冠して――『聖都マイ・ルミナス』と改められていた。

「アルス様、お帰りなさいませ! 工房の新しい『濾過装置』、完成しましたよ!」

 出迎えたのは、かつての怯えた少女の面影を脱ぎ捨て、今やアルスの右腕として知的な鋭さを瞳に宿したミーナだった。彼女は鑑定したての自らのスキル『真理の編纂者』を駆使し、アルスが設計した複雑なインフラの管理を一手に引き受けていた。

「ありがとう、ミーナ。……街の活気が、城壁の外まで伝わってきたよ」

 アルスが微笑みながら街を歩けば、領民たちが次々と手を振ってくる。

 かつての泥壁の家々は、アルスが提唱した「魔力伝導コンクリート」によって白亜の石造りへと生まれ変わり、街路には火山灰を燃料に変える古代の街灯が優しく灯っている。

「閣下。……お疲れのところ恐縮ですが、サンライト王国からの交易船が、予定より早く入港しました」

 影から音もなく現れたのは、執事のサバスだ。彼のスキルは依然として底知れないが、その手腕は事務から防諜まで完璧を極めていた。

 背後には、宝剣ソル・レイスを背負い、一歩も通さぬ威圧感を放つ護衛のロイ。

 そして領主邸の玄関では、アルスの体調を瞬時に見抜いたリィナが、栄養価を極限まで高めたハーブティーをトレイに載せて待っていた。

「さあ、アルス坊ちゃま。休憩の時間ですよ。ロイ、あまり坊ちゃまに無理をさせないでちょうだいね」

「分かっている。……だが、閣下の『知』は止まることを知らないからな」

 ロイが苦笑する。

 実際、アルスのスキルは第一章の戦いを経て、異次元の領域へと進化を遂げていた。

【固有スキル:概念修復イデア・リライト

【効果:物質の物理的な欠損だけでなく、生命の設計図(DNA)や空間に刻まれた『理』の歪みさえも修復・再定義する。】

 ただの紙を直す段階は、とうに過ぎていた。

 アルスは今や、万物の「あるべき姿」を視認し、それを現実へと書き換える「世界の修復師」へと至っていたのだ。

 平和な午後。

 アルスがリィナの淹れた茶を口にし、領主邸のバルコニーから繁栄する『マイ・ルミナス』を眺めていた、その時だった。

 サバスが、かつてないほど険しい表情で、一通の漆黒の親書を差し出した。

「……閣下。隣国サンライト王国の第一王女、セリア殿下より、緊急の密使が到着いたしました。……内容は、『世界樹の枯死』。あちらの国の守護樹が、正体不明の『腐敗』に侵され、崩壊を始めているとのことです」

 バルコニーに、ひやりとした風が吹き抜ける。

 平和な自治区での生活は、その一通の知らせによって、再び激動の渦へと巻き込まれていく。

「……世界樹か。生命の根源であるあの場所が劣化しているのなら、それはこの世界そのものの『バグ』かもしれないね」

 アルスは静かに立ち上がった。

 傍らには、剣聖としての実力を隠し、間者として王都から情報を送ってくる兄エドワードからの「貴族派残党の不穏な動き」を知らせる手紙も置かれていた。

「ロイ、サバス。旅の準備を。……今度は、世界という名の大きな『本』を、綴じ直しに行こうか」

 賢者の瞳が、遠きサンライト王国の空を見据える。

 第二章:黄金の陽光と世界樹の修復者

 修復師アルスの、新たな挑戦が今、始まった。

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