第三十三話:聖騎士の侵攻、賢者の迎撃
その頃、北方の地。
アッシュランドの境界線には、数百騎の聖騎士団を率いた長男カイルが、傲慢な笑みを浮かべて迫っていた。
「見ろ、あの霧だ! あの奥に、アルスが隠し持っている『富』が眠っている。略奪を許可する! レトヴィスの名を汚したゴミを、その家財ごと踏み潰せ!」
カイルの『聖騎士』の鎧が、朝日を浴びて白銀に輝く。
だが、霧の向こう側に広がるのは、彼が想像していたような「無能の隠れ家」ではなかった。
境界の丘の上に、一人の青年が静かに立っていた。
アルス・レトヴィス。その手には、サンライト王国の宝剣『ソル・レイス』が握られている。
「……来たね、カイル兄様。せっかく冬の支度を終えたところなのに、騒々しい客人は困るな」
「黙れ、アルス! 貴様がどこから盗んだか知らぬが、その豊かな土地も、その剣も、全てレトヴィス家が没収する! 全軍、突撃――!」
カイルの号令とともに、数百の騎馬がアルス一人を目掛けて駆け出した。
だが、アルスは動じない。彼は手袋を填めた指先を、地面に向けてそっと突き立てた。
「サバス、ロイ。……『分子防衛網』、起動。……兄様、この土地はね、もう『力』だけでは踏み込めない場所なんだ」
アルスの足元から、目に見えない銀色の光が地を這い、突き進む聖騎士団の足元に「絶対的な摩擦ゼロの領域」を作り出した。
「なっ……馬が滑る!? 何だこれは、立て直せ!」
混乱するカイルの軍勢。
アルスは静かにソル・レイスを抜き放った。その刀身から放たれる高周波の振動が、アッシュランドの空気をビリビリと震わせる。
「……一歩でもここから先へ進むなら。僕が、レトヴィスの『最強』を修復してあげるよ」
王都でのエドワードの守護、そしてアッシュランドでのアルスの迎撃。
二つの戦場が、今、完全に同期した。




