第二十九話:陽炎の剣と、分子の呼吸
そして、修練場。
アルスは抜身の『ソル・レイス』を構え、その刀身の深淵を覗き込みました。
「……サバス、ロイ。この剣の凄まじさは、単なる『魔法の付与』じゃない。鉄の原子一つ一つが、サンライト独自の鍛造法で『極限の秩序』を持って並んでいるんだ」
アルスはスキルの鑑定眼を全開にし、前世の分子科学の知見を剣に上書きしました。
「ロイ、僕の魔力をこの剣の分子振動に同期させる。……これは『斬る』んじゃない。接触した瞬間に、敵の物質構造そのものを『バラバラに分解』するんだ」
アルスの魔力が黄金の刀身に流れ込むと、キィィィィン……という、耳を刺すような高周波の音が周囲の空気を震わせました。
「行きますよ、閣下!」
ロイが練習用の魔導木剣を、目にも留まらぬ速さで振り下ろします。しかし、アルスがソル・レイスを軽く一閃させた瞬間――
パキィィィィン!
接触した木剣が、まるで砂細工のように崩れ落ち、霧散しました。衝撃も、手応えもありません。ただ、そこに「存在していたこと」が否定されたかのような、完璧な分解。
「……私の『絶界』すら、一瞬で無効化されましたか。閣下、これはもはや剣術ではなく、『真理の執行』ですね」
ロイの驚愕の言葉に、アルスは剣を鞘に納めました。
「これで、実家の『武』という名の暴力に抗う準備ができた。……サバス、リィナ。冬の間に、この技術をさらに『防衛設備』にも応用しよう。アッシュランドを、一歩も立ち入れない聖域にするために」
使節団が去った後の静かな領地で、アルスの瞳には、王都の厚い雲を突き抜けるような鋭い光が宿っていました。




