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第二十六話:影の守護者と、深紅の海戦

アルスが王都でミーナの鑑定や国王への謁見を行っていた数週間、アッシュランドではサバスとリィナ、そしてロイが、領地の守護と隣国支援という「極秘任務」を完璧に遂行していました。

アルスが王都へと発った直後、アッシュランドの港(修復された古代の水路網の出口)では、かつてない緊張感が漂っていた。

「サバス様、積載完了いたしました。サンライト王国へ贈る『灰金麦』三千俵、および土壌中和剤……。しかし、海路には貴族派が雇った『紅のくれないのからす』を名乗る海賊団が待ち構えているとの情報が」

 辺境伯が密かに送ってくれた精鋭騎士団の隊長が、眉をひそめて報告する。

 サバスは、乱れ一つない手袋の指先で、アルスから託された**『新魔法:分子振動マイクロウェーブの術式図』**をなぞった。

「案ずることはありません。ゴミ掃除・・・・・は、執事の嗜みですから。……リィナ殿、例の『特製配給食』の準備は?」

「ええ、完璧よ。ロイが鍛えた冒険者たちにも、アルス坊ちゃま直伝の『高カロリー栄養錠ミリタリー・レーション』を持たせたわ。これで三日は不眠不休で戦えるはずよ」

 リィナは、自身のスキル**『万象の調律』**を使い、出陣する騎士や冒険者一人ひとりの脈動を整え、恐怖心を消し去り、集中力を極限まで高めていた。

【海上決戦:不可視の処刑】

 三日後。アッシュランドの船団がサンライト王国の領海に差し掛かった時、霧の向こうから十数隻の海賊船が姿を現した。

「野郎ども! 辺境のゴミ男爵が溜め込んだ宝だ! 船ごと奪え!」

 下卑た笑い声が響く。だが、サバスは静かに目を閉じた。

 アルスの現代科学知識――**「水の共振」**を利用した広域破壊魔法のトリガーを引く。

「……修復開始。海水の分子運動を、最大出力で同期させます」

 瞬間、海面が沸騰した。

 爆発ではない。ただ、海賊船の周囲数メートルの水が、目に見えない振動によって超高温の蒸気へと変貌したのだ。

「あ、熱い!? 何だ、海が煮えてやがる!」

 混乱する海賊たち。そこへ、リィナに調律され、ロイに鍛えられた冒険者たちが、アルス特製の**『複合強化弓コンポジット・ボウ』**を番えて突撃した。

「射て! 弾道計算・・・は閣下の教え通りだ!」

 矢は正確に海賊たちの急所を貫き、逃げ場を失った船は次々と沈んでいく。サバスは影のように海面を走り、逃げようとする賊の首領の背後に立った。

「……我が主の慈悲を無下にした罪、その命で購っていただきます」

 サバスが放ったのは、アルスが「情報の不可視化」を応用して作り出した**『暗黒物質の糸』**。触れるものすべてを分子レベルで切断する死の糸が、海賊船の帆柱ごと首領を真っ二つに切り裂いた。

【領地の春:留守を守る絆】

 戦いが終わる頃、アッシュランドの街では、リィナが中心となって冬に向けた「共同醸造所」の建設が進んでいた。

「アルス坊ちゃまがいなくても、私たちは歩みを止めない。……ミーナの両親、あなたたちにこの『温度管理の魔導具』を預けるわ。最高のエールを作って、坊ちゃまを驚かせましょう」

 リィナの献身的な指導により、領民たちの間には「自分たちでこの街を守り、豊かにする」という当事者意識が芽生えていた。王都でアルスが孤軍奮闘している間、彼らもまた、それぞれの場所で戦っていたのだ。

 一週間後。サンライト王国の港には、無傷の支援船団と、海賊から奪い返した莫大な財宝が届けられた。

 セリア第一王女へのメッセージには、ただ一言、アルスのサインとともにこう記されていた。

『――歴史は、分かち合うことで修復される』


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