第三話:慈愛の叔母と、秘密の拝謁
「……アルス、まだそんなところに。可哀想に、こんなに痩せて……」
物置小屋の扉を開け、俺を抱きしめたのは、父の姉であるエレナ・フォン・ラインハルト辺境伯夫人だった。
彼女は唯一、俺を「レトヴィスの三男」ではなく「アルス」という一人の人間として見てくれる理解者だ。
「エレナ様。……汚れますから、離れてください」
「いいえ、離しません。……アルス、あなたはこの家で死ぬつもりなの? あなたが夜な夜な何を修復しているか、私は知っています。あなたのその手は、ゴミを拾うためではなく、世界を救うためにあるはずよ」
彼女は、俺が修復した「失伝魔法の写本」を偶然目にして以来、俺の真の価値に気づいていた。
エレナ様は、自身の夫である辺境伯の伝てを使い、極秘裏に王家との橋渡しを申し出てくれた。
「アルス、これを陛下へ。あなたのスキルは『ゴミ拾い』ではない……『真実の奪還』だと、証明してきなさい」
数日後。俺はエレナ様の手引きで、顔を隠し、王城の最深部で国王と対峙した。
差し出したのは、誰もが「文字の潰れた紙クズ」だと思っていた、『王国創世記の真実が記された勅状』。
現在の王家の正当性を証明する、歴史上最も重要な、そして失われたはずの文書だった。
「……信じられぬ。この二百年、如何なる高名な魔導師も復元できなかった『誓いの書』が、これほど完璧に……!」
国王は震える手でその書を撫で、俺を真っ直ぐに見据えた。
「アルス・レトヴィス。そなたの功績は、一国の騎士団を全滅させるよりもなお大きい。何を望む」
「……爵位と、領地を。ただし、実家には伏せてください」
俺は静かに答えた。
「私はレトヴィスの三男としてではなく、独立した一人の人間として、誰もいない場所で始めたいのです」




