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第二十五話:二つの建国記と「汚された血脈」

 ルミナス王国王立図書館の最深部、禁書庫のさらに奥。そこには、王家派と貴族派が数百年にわたって奪い合ってきた「歴史」の断片が封印されていました。

【公の建国記:精霊と王の契約】

 現在、王家が正統性の根拠としている歴史です。

 「初代国王ルミナス一世は、精霊王と『守護の契約』を交わし、荒野に光をもたらした。その証として、王家直系には精霊の加護が宿る」

 しかし、長い年月の間にその「証」であるはずの魔法の威力は弱まり、近年ではフィリア王女のように「一見すると無能なスキル」を持つ者が現れるようになりました。貴族派はこれを**「王の血が薄まり、精霊に見放された証拠だ」**と攻撃の材料にしています。

【貴族派が信じる「裏」の建国記:英雄の簒奪】

 ガストン侯爵が家宝として密かに守り続けてきた、古ぼけた羊皮紙の写本(アルスが見れば、巧妙な改ざんの跡が見て取れるもの)には、全く別の物語が記されていました。

 「真の建国主は、武勇に優れた英雄ガストンであった。しかし、その影で卑怯な記録官(現在の王家の祖)が英雄の功績を盗み、精霊との契約を偽造して玉座を奪った。英雄の真の血脈は、北へと逃れ、牙を研ぎ続けている」

【ガストン侯爵の歪んだ正義】

 ガストン侯爵は、この「裏の建国記」こそが真実であり、自分こそが奪われた玉座を取り戻すべき「悲劇の主人公」だと信じ込んでいます。

「アルス・レトヴィスが修復したという『原典』など、どうせ王家が都合よく書き直した偽物だ。私の体には、建国の英雄の熱い血が流れている。対して、今の王家はどうだ? 翻訳だの鑑定だの、戦えもせぬ小賢しい知恵をスキルと呼ぶ軟弱な者共ではないか」

 彼にとって、王家の正統性を疑うことは、己の存在意義を肯定することそのものでした。

 彼ら貴族派が「武」を重んじ、剣豪や聖騎士を尊ぶのは、かつての英雄ガストンが武力で国を拓いたという神話を信じているからです。

アルスの「修復」がもたらす一撃

 アルスは、ミーナを連れて禁書庫の資料を密かに鑑定した際、この「二つの建国記」の矛盾点に気づきました。

「……なるほどね。侯爵が信じている『裏の建国記』自体、実は数百年前に当時の貴族が自分の地位を高めるために『修復』に失敗した……いや、意図的に『改ざん』された偽書だ」

 アルスの**『古紙回収』**の目は、侯爵が家宝とする写本に、現代でいうところの「インクの重ね書き」による情報の歪みを見抜いていました。

「ミーナ。君のスキル**『真理の編纂者』**なら、この偽書の奥に隠された、本当の英雄の最期を映し出せるはずだ。……侯爵が信じる誇り高き先祖が、実は王家を支えた忠義の臣下であり、自ら王位を譲ったという真実をね」

 武力で奪い返そうとする貴族派に対し、アルスは「歴史という名の鏡」を突きつけようとしていました。

 己のアイデンティティそのものが「情報の劣化」による勘違いだったと知った時、侯爵の野望は根底から崩れ去る。これこそが、アルスが仕掛ける**「知の包囲網」**でした。


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