第二十話:守護の盾と、慈愛の目
研究の合間、領主邸の訓練場では、金属のぶつかり合う激しい音が響いていました。
「……くっ、相変わらず速いな、ロイ」
アルスが膝をつきます。その首筋には、ロイの練習用木剣が寸分違わず突きつけられていました。
ロイのスキルは、騎士伯家の血筋が目覚めた超感覚――『絶界の神域』。
半径五メートル以内のあらゆる動体、魔力のゆらぎ、果ては敵の殺気までを「情報の点」として捉え、無意識下で最適解の剣を繰り出す、対人特化の最強スキルです。
「閣下、魔法の構築は神の如きですが、接近戦ではまだ甘えがあります。私がいる限り、敵を閣下の指先一つ触れさせはしませんが……基礎体力はつけていただきますよ」
ロイは無表情ながらも、その瞳にはアルスへの深い忠誠と、弟を見守るような温かさが同居していました。
そして、その訓練をバルコニーから見守るリィナ。
彼女のスキルは、母から受け継いだ献身の極致――『万象の調律』。
対象の体調や精神状態を瞬時に把握し、最適な食事、魔法薬、あるいは一言の助言によって、その人物の能力を最大化させる補助スキルの最高峰です。彼女がいなければ、アルスの超高負荷な研究は一日も持ちません。
「……ミーナちゃん、アルス様がまた無理をなさらないよう、私たちがしっかり手綱を握りませんとね」
「はい、リィナさん! 私、もっとお勉強して、アルス様の頭の中の『お掃除』も手伝えるようになります!」
ミーナはまだ自分のスキルを知りません。しかし、アルスの傍で膨大な資料を整理する彼女の瞳には、時折、アルスのそれとは異なる「鋭い光」が宿り始めていました。
王都では、エドワードがレトヴィス伯爵の前に跪き、完璧な「嘘」を報告しています。
そして辺境では、現代科学を味方につけた賢者が、神の領域へと手を伸ばしている。
準備は、整いつつありました。




