第二話:泥を啜り、光を編む
神殿での儀式から半年。レトヴィス伯爵家における俺の扱いは、人としての尊厳を奪われるほどにまで堕ちていた。
「おい、ゴミ拾い。いつまでそこにいる。中庭の落ち葉を一箇所に集めておけと言ったはずだぞ」
兄のカイルが、磨き上げられた乗馬ブーツで俺の脇腹を小突く。
この世界の貴族にとって、スキルはそのまま家格の象徴だ。名門レトヴィス家から『古紙回収』などという、平民ですら持て余す「外れ」が出たことは、父にとって消し去りたい汚点だった。
「申し訳ありません、カイル兄様。すぐに終わらせます」
「ふん、その薄汚れた手で私に触れるな。……父上、やはりこの無能は早々に平民へ落とすべきですよ。いるだけでレトヴィスの血が汚れる」
廊下の先で、父――レトヴィス伯爵が冷徹な視線をこちらに向けた。
「……カイル。そんな塵に構うな。修行の時間が遅れるぞ」
父は俺と目を合わせることすらしない。
食事は使用人の残り物、寝床は隙間風の吹く物置小屋。
だが、俺はこの屈辱に耐えながら、着々と「牙」を研いでいた。
深夜、小屋の隅で、俺は市場のゴミ捨て場から拾ってきた「情報の死体」を広げる。
カビに侵され、泥を吸い、ただの塊となった古紙。俺は指先から魔力を流し、スキルの真の力を発動させる。
(……解析。情報の再編を開始)
現代の修復師としての知識と、魔力を利用した高精度の復元。
バラバラだった羊皮紙の繊維が正しい位置へ戻り、掠れていた古代文字が鮮明に浮かび上がる。
『修復完了:【古代エルド王国の農業灌漑図】』
『修復完了:【失伝した精霊言語の初級文法】』
父や兄が剣の修行に明け暮れる中、俺の脳内にはこの世界で数百年前に失われた「叡智」が、一枚、また一枚と蓄積されていった。




