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第十九話:虚飾の帰還と、深淵の叡智
アッシュランドの境界線。サバスの手によって「北の地は依然として死の灰に埋もれ、アルスは野垂れ死んでいた」という精緻な偽記憶を植え付けられた精鋭たちは、夢遊病者のような足取りで王都への帰路につきました。
その先頭を行くエドワードだけが、胸の内に「燃えるような真実」を秘め、実家という名の檻へと戻っていきます。
一方、アッシュランド領主邸の地下深域。
そこは、アルスの真骨頂である『知の実験場』と化していました。
「……リィナ、その『抽出液』を。分子構造を魔法陣で固定する」
「はい、アルス坊ちゃま。いえ、閣下」
アルスが取り組んでいたのは、前世の分子科学と、修復した古代魔法の融合による新体系の構築でした。
ただの火球ではない。空気中の窒素と酸素の比率を魔法で強引に変え、超高温のプラズマを発生させる『熱核崩壊』。
ただの障壁ではない。炭素分子をダイヤモンド構造で再結晶化させ、物理破壊を無効化する『金剛結界』。
「情報の最小単位……原子の並びさえ『修復(書き換え)』の対象に含めれば、この世界の理すら私の指先一つで再定義できる」
アルスの瞳には、賢者としての冷徹な光が宿っていました。彼はもはや「紙」を直す者ではなく、「世界の設計図」を書き換える者へと至ろうとしていたのです。




