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(2) そして始まりは運命と共に


『……気がついたか?』


 女はくぐもった声でそう問いかける。しかし意識がはっきりしない彼女はその問いかけに何の言葉もリアクションも返さないまま、大地に敷かれた布の上に横たわっている。


『……自分の事が判るか?』


 二度目の問いかけ。恐らくその言葉の意味は一度目と大して差は無いだろう。少女はそれに反応し、漸くゆっくりと上半身を起こす。しかし途中で力尽きて倒れてしまった。それほどまでに衰弱し、彼女の身体は疲れきっていたのだから……。

 夜の闇の中、傾いたビルが並ぶざらついたアスファルトの上……。焚き火は女の影を大きくビルに投影していた。パチパチと音を立て、薪が燃える……。パチンとそれは爆ぜる音が聞こえ、少女はゆっくりと眼を開いた。

 少女――。そう、彼女は少女だった。だが同時に少年のようでもある。上半身を黒い拘束布の様な奇妙な服装……いや、或いは防具か……で覆っているが、それは殆ど面積が無く、傍目から見ると裸と大差ない。一方下半身には白い布を巻き、その下には銀色の鎧が見え隠れしている。この世界の人間のファッションセンスという奴がどんなものなのか俺は知らないが……少なくとも奇妙な格好であるには違いない。

 一方、横たわった少女の顔を覗き込み、瓦礫に背を預けて座り込んでいる女……。彼女もまた、奇妙奇天烈な格好をしていた。頭にはボロボロの金物のバケツを被り、服装は何故かウェディングドレスと来ている。奇妙だった。しかし同時に俺はそれを“別に普通”だとも考えている。


『助けてやったんだから感謝の言葉くらい述べたらどうだ? 地下迷宮の途中でくたばってたお前を地上まで引っ張り上げるのはそれなりに骨が折れた……。どういうつもりで入り込んだのか知らないが、子供が足を踏み入れていい場所じゃないんだよ、あそこは』


 “地下迷宮”という単語に俺は一人で頷いた。ああ、あそこは子供が一人で入れるような場所ではない。大人の屈強な冒険者が数人で入り込んで、余裕で全滅してくるような場所だ。そこに少女が一人で入り込んでいたのだとしたら……成る程、それは確かにおかしな話だ。


『…………? おい、大丈夫か? 頭でも強く打ったのか? 私の声が聞こえているか?』


 女は身を乗り出し、少女の顔色を窺う。白く抜けるような肌……純白の羽のような髪。長い睫の瞼に閉ざされていた瞳が開かれ、女を見やる。少女に表情はなかった。きょとんとした様子でただ女を見つめ返すだけで、何かを口にする気配もない。


『自分の名前が言えるか? おい、頼むからしっかりしてくれ……! 赤ん坊じゃないんだ、そんな何もかも面倒見られんぞ!』


 女の語気は強かった。しかし少女は何も言葉を返さない。暫く二人の睨み合いが続き……折れたのは女の方だった。盛大に溜息をつき、舌打ちして瓦礫に背を預ける。腕を組んだまま頷いた女は苛立った様子で言った。


『……ろくでもないガキに関わっちまった。大方、“ケムリ”にぶっ飛ばされて頭でもおかしくなっちまったんだろうな……』


 完全にそれは女の独り言だった。何せその場に存在しているのは女と少女だけなのだ。他に言葉を投げかけるような相手は居ない……。俺は周囲を見渡し、それを再認識してから二人を“見下ろした”。

 さて……二人の事も気になるが、俺は一体どうなってしまったのだろうか? ついさっき気がついたのだが……気づいたら何故かこの様だ。焚き火に照らされビルに浮かぶ影……そこに俺の影は存在していない。そも、肉体がないのだ。俺の意識はふわふわとここに浮かんでいるのだが……肉体が無い。この奇妙な感覚をどう言語化すればいいのか……。

 兎に角、俺は気づいたらここに浮かんでいた。そしてある程度自分の意思で動き回れるようだ。さっきからぐるぐると女の周囲を回っているのだが……女が気づく気配もない。身体がないのに動いてるっていうのはどういう事なんだか……。視線も動かせるので少女の寝顔を眺めてみる。整った顔つきだが……どこかで見たような気がする。いや、見覚えはあるのだが……それがなんだったか思い出せない。

 そこで漸く気づいた。俺は記憶喪失と言う奴になってしまったらしい。身体も記憶も失ってしまったとなると……よもや俺は死んでいて、幽霊のような存在になってしまったのだろうか? いやいや……まさかな。そんな事在り得ないとは断言しないが……いや、やっぱり断言しよう。在り得ない。

 一人でウロウロしていた俺はやはり肉体が存在しない、記憶が存在しないという結論に達した。それからは……色々と実験をしてみた。そうして判った事がいくつか在る。

 まず、俺の姿は誰にも見えない。自由に動く事が出来、思考も出来るが何かに干渉する事は出来ない……。つまり触れる、声をかけるなどは無意味らしい。そして俺は記憶は失っているが、何故かこの世界の情報をいくらか知っているようだ。覚えている……というよりは知っているという方がしっくり来る。その差は非常に微妙だが。

 そして最後に、俺の存在はどうやらこの眠っている少女に依存しているらしい。さっきから遠くに移動しようとしているのだが、ある程度この場から離れると良くわからない力に引っ張り戻されてしまうのだ。そうやって引っ張り戻されながらこの周囲をぐるりと回ってみたのだが、その中心はこの少女である事が判明した。

 ひとしきり思いつく実験を終えてしまうと、暇という名の沈黙が訪れた。俺は空中にふわふわと浮いたままなのでまるで疲れというものが無かったが……とりあえず女の傍に降りて休む事にする。一切眠気を感じないので……どうも眠る事は出来ないようだったが。

 空を見上げると、分厚い雲が月明かりを消してしまっていた。この世界はいつもどんよりと暗闇に沈んでいるイメージがあった。実際、晴天の日など年に数えるほどしかないだろう。今日も天気は曇り……。後に雨にでもなるかもしれない。女はそれがわかっているのか、荷物は既にまとめてあった。


『全く……。気が狂ったガキの面倒なんか見ている暇はないってのに……』


 そう呟きながらも女は立ち上がり、そして眠る少女の身体に自分の分の毛布をかけていた。思うに……このバケツ女は口が悪いだけで根はお人好しなのだろう。そうでなければわざわざ地下迷宮から死に掛けた少女なんて拾ってくるはずもない。

 しかし俺が見た限りでは少女には外傷と呼べるものが一つもないのだが……何が原因でこんなに衰弱しているのだろうか。迷宮で迷い、行き倒れたか……。まあ、人が死ぬ理由ならばこの世界には探せば腐るほど転がっている。探さなくても……きっと向こうから顔を出す事だろう。

 少女が動けない限り俺はここから離れる事が出来ない……。こうして少女を看病するバケツ女の生活を眺めるだけの俺の日常が始まった。日が出ている内に必要な事はなんでも済ませ、夜は焚き火の影に隠れるようにしてじっと縮こまる……。人の多い集落ならば兎も角、一人旅ならばそれは常識だ。でなければ“ケムリ”に食われる事になるだろう。

 人通りもまるでないこの崩落した都市の一画はとても静かだった。あえてこの場所をバケツ女が選んだのではないか? とも思う。少女を看病するにせよ、もう少しマシな場所というものが在るだろうしな……。

 献身的な看病は続き、何かやる度に愚痴を零すバケツ女だったが、それはもう本心ではない事が俺には判っていた。そんなに一生懸命に言い訳しなくても、あんたがいい奴なのはわかっているんだ。雨が降り出せば少女を抱きかかえ、ビルの片隅でまた火を起こす。貴重な食料も殆ど彼女に分け与え、バケツ女はいつも空腹だった。

 それでも彼女を看病し続けるのにはきっとバケツ女なりの理由があったのだろう。俺はバケツ女の考えている事はわからないので何とも言えないが……そうでなければここまで甲斐甲斐しく看病は出来ない。やがて時が経ち、少女が身体を起こせるようになり……。立ち上がれるようになり。そして歩けるようになる頃には、すっかり少女はバケツ女に懐いてしまっていた。

 にこにこと、たっぷりの愛情を示す笑顔を浮かべバケツ女のボロボロに古びた、ドロドロに汚れたドレスに顔を埋める少女。困ったような様子で……顔は見えないが……しかしバケツ女もまたそれを受け入れていた。二人の年の差がどれくらいあるのかは良くわからなかったが、こうして傍から見ている分には姉妹のように見えない事もない。


『結局、お前は口を利けないままか……』


 少女は顔を上げ、にっこりと微笑む。微笑んでいるだけで……意思疎通が出来ているようには見えない。言葉は意味を成さないのだろう。もしかしたら彼女はどこかが壊れてしまっているのかもしれない……。しかしバケツ女はそんな事は関係ないと言わんばかりにその頭をくしゃくしゃと撫で回した。


『お前がなんだろうと関係ないさ。さあ、メシにしよう。今日はご馳走があるんだ』


 バケツ女がごそごそと取り出したのは……蛇……のような奇妙な生き物だった。それを握り締めたままバケツ女がビルから出て行くと、それに続いて少女もとことこ歩き出した。

 二人は一緒に近くの水場に向かい、破裂した水道管から延々と水が噴出し続けている一帯で下ごしらえを済ませた。といっても殆ど全部バケツ女がした事で、少女は降り注ぐ水の中をくるくると楽しげに回っていただけなのだが……。少女が移動するようになってはっきりしたが、やはり俺はどうやら彼女の傍を離れられないらしい。彼女が動くと俺の身体も自動的に引っ張られるようだ。まあ、身体はないんだが……。

 串に刺した謎の肉を焚き火で焼くバケツ女と、それを横でじっと見ている少女。少女は膝を抱え、身体を揺らしながらじーっと燃える炎を眺めている。眼が痛くなったのか、ごしごしと片目を擦る少女……。その様子に思い出したようにバケツ女は立ち上がった。


『そういえば、お前の大事なものを預かっていたんだったな』


 それは、白い眼帯だった。バケツ女は屈んで少女の片目を見やる。少女の左目……そこからは青白い炎にも似た“霧”がもやもやと煙っていた。


『……お前も、呪われた存在か』


 そう呟くとバケツ女は少女の片目を覆うように眼帯を結んだ。すると靄は収まり、少女はきょとんとした様子でバケツ女を見やる。女の両腕には黒い布がぐるぐると巻きつけられており、その隙間から隠しきれない黒い煙が揺れていた。

 “呪われた存在”――女は彼女を、そして自分をそう呼んだ。女の両腕の肘から先、両足の膝から先は同じように黒い布で覆われている。それは両手両足に“呪い”が発病してしまっているからだ。少しでもその異形を隠そうと、布を巻いて過ごしているのだろう。

 この世界ではそう珍しくない事だ。“呪われた病”……それが人間の身体を異形へと変えてしまう。女がバケツを被っているのも、この両手両足に布を巻いているのも、自分の病を少しでも隠したいが為であろう。幸い少女の方は片目以外に病が発症している様子はない。どうやらバケツのほうとくらべ、かなり軽度の呪いのようだ。


『さあ、食おう。おい……熱いから気をつけろ……って、言わんこっちゃないな』


 串を渡された途端、涎を垂らして謎の肉にかぶりつく少女。しかし物凄く熱かったのか、驚いて串を炎の中に投げ入れてしまう。泣きながら口を抑える少女……。その様子に溜息を漏らし、女は自分の串焼きを吹いて冷ました。


『いいか? こうやって……ふー、ふーってするんだ。ほら、やってみろ』


「…………」


 少女は良くわかっていない様子だったが、真似をするようにふーふーし始める。それでもまだ熱いのは判っているので……女は呪われたその指先に生えた鋭い爪で肉を千切り、小さく食べやすくしてから少女の口の中にそれを放り投げた。


『ほら、美味いか?』


 もぐもぐとそれを咀嚼し、少女は表情をぱあっと輝かせた。どうやら……あんな良くわからない肉でも美味しかったらしい。女は黙って肉を小さく切り分け、それを少女に食べさせていた。餌を待つ小鳥のように口を開けている少女に肉が与えられていく……。成る程、姉妹というよりはむしろ母子と言ったところか……。

 自分の分を全部少女に食べさせると、バケツ女は確かに微笑んだ。表情は見えなかったが……これだけ一緒に居てずっとバケツ女を観察していたのだ、俺にはわかる。そうして寝床の準備を済ませ、少女を寝かしつけると……珍しく月の出た夜、女は荷物を纏めて立ち上がった。

 何も言わずに去っていく女……それを俺はじっと見詰めていた。後をつけてみると、女は何度も何度も振り返り足を止めていた。余程、あの子の事が気になるのだろう……。だが、女はゆっくりと、ゆっくりと立ち去っていく。それが……彼女の選択だったのだろう。

 傍に漂いながら俺はこれまでの日々の事を思い返してみた。バケツ女は決して裕福なわけではなく、そのみすぼらしい外見からも判るように常にギリギリの旅を続けていたはずだ。“呪われた身”で生きていくという事はそういう事なのだから……。だが彼女は少女を助け、そして何とか自分一人で動けるくらいに回復するまで面倒をみたのだ。もう、関わってやる筋合いもないのだろう。

 なら……どうして立ち止まっているのだろうか? 月明かりがバケツを照らし、雲の合間から差し込んだ青白い光が女の寂しげな影を浮かべていた。感情に呼応するように呪われた黒い手足が煙り……女は迷いを振り切るように振り返り、そして一気に走り出そうとした……その時だった。

 駆け寄ってくる小さな足音があった。あれだけ爆睡していたのに、バケツ女が居なくなった事に気づいて追いかけてきたのだろう……。少女は泥だらけの姿のまま、まだ回復しきらない体力のまま、一生懸命に走って来る。バケツ女はそれを見つめ、ぎゅっと拳を握り締めた。

 少女が石に躓き、盛大にすっ転ぶ……。バケツ女はそれでも駆け寄らなかった。少女は自分の力で立ち上がり、涙を拭って走ってくる。きっと……女はとてもつらかっただろう。それでも声を張り上げたのは、きっと単に彼女の為を思ったからだ。


『来るんじゃない!!』


 びくりと背筋を震わせ、少女の足が止まる。二人の間にある距離は僅か数メートル……。しかし、少女はそれ以上進む事が出来ずに居た。バケツ女の呪いは漏れ出し、赤黒い炎にも似た霧が女の身体を覆いつくそうとしていたからだ。


『私に近づくな……! 私と一緒に居てはいけないんだ……! 私は……お前の何倍も濃い呪いに犯されている。近いうちに……“ケムリ”に成り果てるだろう』


 何を言っているのか全く判らない少女はただ悲しげな眼差しを向けるだけだ。だが……女は辛くても少女を突き放す必要を感じていた。もう、誰も犠牲にしたくない……。紅い瞳がバケツの穴の奥で輝き、そう物語っていた。


『近づけば、お前を殺す……』


 しかし少女は言葉がわからないのか、ゆっくりと走り出した。それを見て女は歯軋りし――振り上げた巨大化した片腕で大地を抉った。衝撃と共に赤黒い炎が爆ぜ――アスファルトは一撃で吹き飛んでしまう。衝撃は少女にも確かに伝わった。コテンと転び、尻餅をつく少女……。バケツ女は文字通り、化け物の力を少女に見せ付けたのだ。


『近づくなと言っているんだ!! 私は本気だぞ!? お前をズタズタに引き裂くくらい、この呪われた腕ならば造作も無いッ!!』


 語気を荒らげる女。少女はゆっくりと立ち上がり……そうして眼帯でふさがれて居ない眼からいっぱいの涙を零した。ゆっくりと……また、歩き出す。異形そのものであるバケツ女へと、歩みを進める。もう一度女は大地を吹き飛ばした。少女は転ぶ。しかし……また立ち上がって歩き出すのだ。


『――――何故だッ!!』


 それは女の心からの叫びだった。少女は思い切ったように走り出す。そうして真っ直ぐにバケツ女へと突っ込んできた。それを吹き飛ばそうと片腕を上げるバケツ女……。しかし、腕は振り下ろせなかった。バケツを被っていなければ、どんな顔をしていただろうか……。月明かりの下、少女はバケツ女の身体をしっかりと抱きしめ、身体を震わせながら何度も何度もその頬を彼女の胸に擦り付けていた。

 振り上げられた腕が徐々に縮小し……そうしてだらりと降ろされる。バケツに空けられた二つの穴から覗く、彼女の紅く輝いた瞳の光が消えた。そうして頬を伝った涙はバケツから零れ落ち……見上げる少女の頬に落ちた。


『…………ついてきちゃ、だめだ……』


 掻き消えてしまいそうな声だった。普段の強気なバケツ女の口調からは想像もつかないような……悲しい、とても悲しい声だった。


『私と一緒に居ちゃ……だめなんだよ……』


 その言葉の意味……そして彼女の涙の意味を俺たちはまだ知らなかった。しかしやれやれ――。とりあえずは一件落着という事か。内心彼女が殺されるのではないかと少しばかり危惧していた俺はゆっくりと二人に歩み寄る。足はないんだが。

 降り注ぐ光の中、バケツ女は少女の身体を強く強く抱きしめていた。呪われた腕で、少女の白い肌を抱く……。それはきっと赦されない事なのだろう。誰よりも彼女自身がそれを赦してはいない。そう、全てはただの“気まぐれ”だったのかもしれない。

 この少女を助けた事も……。少女と共に暮らした事も……。彼女は彼女の理由があり、そしてその旅路の途中で起こしたちょっとした気まぐれ……。しかし今はどうしてもそれを手放せなくなってしまった。何も言わずに立ち去ろうとしたのは、その温もりを失う怖さと向き合う事が出来なかったからだ。

 弱い……そう思った。だが、弱いからこそ二人は手を取り合う事が出来るのだ。こうして共に二人は歩き出した。呪われた黒い指先で、獣のように長く伸びた爪で、傷つけてしまわないようにそっと少女の手を握り締める。しかし少女は“傷つけてもいいんだよ”と言うかのように、煙る手をぎゅっと、強く握り締めた。


『……どうなっても知らんぞ、クソガキ』


 バケツ女のその声はとても優しかった。少女は女の腕を取り……二人は共に歩き出した。俺は振り返り、二人が立ち去っていくかつて栄華を極めた街の成れの果てを眺めた。

 数百年前、ここには優れた文明があり、数え切れない程の人々が行きかう街があった。だが今は何もかもが廃れ、壊れ、朽ちている……。少女の移動に引き摺られるように俺の身体は移動を開始する。遠ざかる街……そして“迷宮”。一人でその事を考えながら。

 二人は仲良く手を繋いで歩いていた。あのトボけた少女も、きっとバケツ女が一緒ならば何とか生きていけるだろう。問題は……俺のこの状況だ。他人の心配をしている余裕は無いらしい。はてさて、どうしたものか……。

 まあ、別段今の所する事もないし、焦ったところで身体が手に入るわけでもないのだ。とりあえずは彼女たちの旅に同行し……その様子でも眺めて暮らすとしよう、そう心に決めた。そうして俺と……彼女たちの旅が始まったのだ。

 この出会いの出来事の直後と言えば、真っ先に思い出されるのがあの出来事……。里帰りをした、バケツ女の故郷でのお話だ。さて、次はその記憶でも語るとしようか――。


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