21/45 降臨ー小さな町の2万人
8月の初めの土曜日
大塚の事務所前でどよめきが起こった
自撮り棒を持ったナツが現れ、スマホを構えた数十名がそれを囲む
「なっちゃーん」
「かわいー」
「脚長っ!」
「こっち見て~」
ナツのフォロワーたちから野太い声がかかった
(有権者以外は散れ!)
神野は苦々しく思っていたが笑顔のまま堪えていた
「子供向けだから露出は控えてくれ」
と言っておいたので、ナツはTシャツにデニムのパンツというシンプルなファッションだ
とはいえ素人離れしたバストの張りと脚の長さは隠せず、小さな商店街はちょっとした『女神降臨』の騒ぎとなった
「はーい、『ナッちゃんねる』の街ブラ実況始めます
申し訳ない、道、開けてもらえます?」
山口がマネージャーよろしく露払いを始めた
ナツのチャンネルは総じて客筋が良く、男たちは大人しく道を譲ってくれる
「はーい、ナツだよ~」
いつもの掛け声で実況が始まった
インフルエンサーがイベントに呼ばれることはよくあることで、神野の会社でも仲介をしている
だが、ナツは学生バイトだからというのを理由に、神野は外に出したがらない
もちろん社内では本当の理由をわかっているが、そこはスルーしてあげていた
今日のイベントは神野の個人的な案件から始まっており、商店街の予算が低いことからプロは雇えないので、やむを得ずのナツ投入となった
本来のプログラムは子供たちに『街ブラ実況の注意点を教える』という話だったが、商店街の関係者にナッちゃんねるのフォロワーがいて、イベントにナツが来ると拡散してしまったのでこの騒ぎだ
(まぁ、商店街のためにはなったから、大塚さんの株は上がっただろう)
神野はこのイベントで大塚が政治の話をすることは止めていた
事務所は解放して、保護猫「豆トラ」とのふれあいのために自由に出入りしてもらう
その壁には議会で使った説明用のパネルを張り付けてあり、何気なく目に入る状態にしておいた
チラシも配るのではなく無造作に入口に積んでおいて勝手に取らせるスタイルだ
「コンシューマーはがっつくと引きますよ」
神野が言う理論は大塚には『?』だったが、実際、チラシは配るよりも早く減っていた
(チラシのデザインもいい
作ったのは赤崎さんかな、大塚さんより猫が大きいってw)
そのおかげで皆、抵抗なくチラシを手に取っている
商店街の中央ブースでは、ネット定番ゲーム『箱の中身は?』を大塚が実演し、それを神野がスマホで撮って、その場で1分動画に仕上げてみせた
子供たちを中心に食いつきがよく、なかなか盛り上がっている
「小学生ってどうしてウンコネタ好きなんですかねw」
大塚が笑いながら言った
箱の中にソフトクリームの形のぬいぐるみを入れると、大塚がウンコと言うのを期待して大騒ぎになる
小学生向けの鉄板ネタだ
「不思議ですね、中学生になるとピタリと止まるんですから」
子供が多い現場は神野も自然と笑顔になる
(ガキ相手の現場に出たことないけどけっこう楽しいな
しかし、この小さな町で2万人を投票所に行かせるのは思ったよりキツい)
一方でナツのためならわざわざ電車に乗って遠方からやってくる
(すべては推しのためか…あのおじさんを推すのって誰だ?)
神野は商店街を見渡し、そのターゲットを探していた
【余計なお世話書き】
ナツはタレントをやりたいわけではなく、神野くんの浮気を見張るために事務所に出入りする口実でタレントやってます。
もちろん神野くんは浮気する度胸はありませんw
それにしても小学生ってなんであんなにウンコネタ好きなのでしょう?




