1/45 旧友ー幼馴染と無茶振り
ひと月前
「こおいう者になります
以後、お見知りおきを」
神野のオフィスの応接室で、名刺を差し出していたのは幼馴染の倉田だった
「倉田、久しぶりだな
ちゃんとアポ取ってくるなんて珍しい」
「今日は仕事の話だから
やっと神野に渡せる名刺が出来たよ」
確かにそれらしくスーツ姿でネクタイまで締めているが、最初の挨拶のあとはすっかりタメグチに戻っている
「株式会社A-System…へぇ、サーバの事業を始めたのか」
「そう
だけど一番の売りはAIエンジンなんだ
『AIハナちゃんのリアルニュース』って知ってるだろ?」
「ああ、渋谷とかの大型スクリーンに出してるやつか」
「あれを開発したところに出資してるんだ
なかなか面白いベンチャーなんだよ」
「へぇ、そうか」
気紛れに連絡してくるものの、神野は具体的に倉田が何をしているのか知らなかった
実家が太いうえに調子が良くて世渡り上手、そんな印象だったのでとくに心配もしていない
神野にとってはふらりと現れる野良猫のような奴だった
「で、俺に仕事の話ってなんだ?」
「神野に頼みたいことっていうのはこれなんだけど」
倉田はタブレットを取り出し、その画面を神野に見せた
そこには4人の男の写真が並んでいた
「誰だ? 一人も知らないな」
「この人たちには共通点がある、次回の市長選の出馬候補なんだ
このうち誰でもいいから当選させたい」
「はぁ?」
「選挙の広報、PR戦略、総合プロデュース、やってみないか?」
(コイツはまたぶっ飛んだことを…)
「おいおい、俺は選挙なんてまるっきりの門外漢だぞ」
「いや、そうでもない」
神野は半笑いだが、倉田は冗談で言っているわけではなさそうだ
「選挙でのネット戦略はもう常識というか、必要不可欠なのはわかるよな
いま、ネットの選挙PRは無法地帯だ
法律が追い付いてないから、なんでもアリの状態だろ?」
「確かにスマブラ大乱闘って感じだな」
「神野のノウハウは使えると思うんだ
俺をインフルエンサーにしたのは神野だもんな」
かつて倉田は神野のプロデュースで動画配信をしており、累計200万のフォロワーを持つインフルエンサーだったことがある
「俺なんて無名の一般人で普通の男だよ、それがフォロワー200万ってありえないだろ
可愛い女の子っていうならともかく」
「おまえが可愛かったんじゃねーのw」
「んなわけねーだろ」
そうは言ったが、倉田は分類上はいわゆる『カワイイ系』だ
ひょろっとした長身で、淡い茶系のふわふわの天パーと優し気な鳶色の瞳、かなり色白で外国の血が入っていそうだ
笑うとトイプードルみたい、と女子にはなかなかの人気だった
「俺は神野のプロデュース力だと思う
とにかく提案書を見てもらえないか」
正直なところ実現性は低いと思ったが、神野はタブレットを受け取ってのファイルを開いた
話だけ聞くと唐突感は否めないが、内容はそれほど現実離れした企画でもない
神野の会社が持つスキルが使えそうだ
「この選挙で儲けは見込めないが、条件を飲んでくれたら俺の会社がスポンサードする
どうだ?」
倉田は自信満々の様子で言った
「条件ってなんだ?」
「AIエンジンの実証実験だよ」
【余計なお世話書き】
本編スタートいたしました。
ここでは二人が旧友同士だということと、倉田くんがインフルエンサーだったことを覚えていただければと思います。
二人の裏設定はいっぱいありますが、ここでは関係ないので割愛させていただきます。