表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

短編

透明な約束

作者: 月蜜慈雨




「突然のことですが、今日を持ちまして、須藤さんが引越しされました。みなさんには秘密にしてほしいとのことだったので、隠していました」


担任のその言葉に、クラスが騒然となった。

須藤美玲、目立つ方じゃないけど、可愛らしくて、はにかんだ笑顔が素敵だった。


私の、友達だった。


ホールルームが終わった後、クラスメイトが私に問いかけた。


「何か、知っている?」


私は首を横に振るしかなかった。

何も知らなかった。

1番の友達だと思っていたのは私だけだったんだろか。

そりゃあ友達にも言えないこと、いっぱいあるだろうけど。言えない事情があったんだと思う。……たぶん、私には言えないことが。 


別れの挨拶くらい、させてよ。美玲の馬鹿。


そういえば、先週美玲に貸したリップをまだ返してもらってない。

もう永遠に返ってこないんだろうな。

あーあー。

…なんで、私に黙っていってしまったんだろう。


授業中もずっとそのことが頭から離れなくて、何も学習できなかった。

お昼ご飯は一人で食べた。いつも美玲と食べていたから。

そういえば、この昼休みに、リップを貸したな。

美玲に似合いそうな、新作のリップ。しかも3本も。3本もいらないから試して使ってみて、どれかあげるって言ったっけ。


自分用のリップを買いにいったのに、なぜか美玲のリップばかり選んでいる自分に気づいたときは、思わず苦笑しちゃった。


こんなことばかり、思い出しちゃうな。


帰り道、野球部の掛け声がやけにうるさくて、廊下のお喋りを聞きながら、一人で靴を履いて校舎を出た。


積乱雲が遠い空の彼方に見える。

暑すぎて蜃気楼みたく、視界が揺れた。

それでも綺麗だ。

日光に反射してギラギラ輝くこの世界を、綺麗だと思う。


貸してたリップは3本。どれも美玲に合った(と私は思っている)薄ピンクの新作だ。

真っ先に美玲に試して、やっぱり似合うね。えー、そうかな。

照れた顔が可愛かった。


もう遠くに引っ越して、会うことは奇跡でも起きない限りないけど。

貸した3本のリップが、きっと御守りになっているって信じている。


肩にかけたスクールバッグがやけに重い。

アスファルトの道が今日に限ってとても遠く感じる。

でも、信じている。

同じ空の下で、美玲も同じように歩いていることを。


リップ、使ってくれたら嬉しいな。


使うたびに私を思い出してね、なんて傲慢なこと言えないけどさ。

私は覚えているよ。貸したまま返ってこなかった、3本のリップのことを。

美玲、もう何も言えないけどさ、今までありがとうね。


涙が頬を伝って、地面に落ちた。すぐに蒸発するだろう。私の気持ちと同じように。


遠くの積乱雲がゴロゴロ音を立てる。

スコールが来る前に帰ろう。

そうやって半ば無理やり歩調を早めた。

空の涙が私の涙を隠す前に。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
語り手の女の子の心の痛みが感じられて、悲しい気分になりました。 でも、何時か何処かで出会って語り合って欲しいなとも思いました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ