9話
王子様は妹を助けるために、魔女とお姫様の寂しさについて話し合います。
王子様の懸命さはしかし中々魔女を満足させず、意外な所から助け舟が出されます。
王子さまには魔女の言うやさしさがどういう風なのかわかりません。だって王子さまだってお母さんの王妃さまが死んでしまった時も、王さまが魔女にだまされてむちゅうになった時も、いもうとのおひめさまがいなくなった時だってとってもさびしかったのです。
でもそう伝えても魔女はしずかにいいえ、と言うだけです。王子さま、おひめさまのさびしさはだれかがいないさびしさではないのです、魔女はそう王子さまに言いました。さびしいというのはだれかがいないことではないのですか、王子さまは魔女にたずねます。
いいえ王子さま、となりにだれかがいてもさびしいことはあるのです、魔女は王子さまに少しだけおしえました。でも王子さまにはまだちっともわかりません。
じゃあぼくはいもうとがさびしくないように、いっぱいいっぱいがんばります、いもうとのためにきれいな花をとってきて、おいしいごはんをよういして、毎日ベッドでこもりうたを歌います、王子さまはいっしょうけんめいにおひめさまのことを考えて、魔女に次の答えを出しました。
魔女はさびしそうなかおで笑うだけです、王子さま、おひめさまはそれではちっともさびしいのは治りませんよ。王子さまは自分の力でいもうとをたすけられないかもしれない、そうガッカリしてしまいます。
魔女さん、いもうとに花をとどけてはいけませんか、王子さまはたずねます。いいえ王子さま、おひめさまはきっとよろこぶことでしょう、魔女はそう答えました。いもうとにごはんをよういするのはだめですか、王子さまはさらにたずねます。王子さま、花も、ごはんも、こもりうたも、おひめさまはきっとおよろこびになります、でもおひめさまのさびしい気持ちはそれではなくならないのです、魔女はまたちょっとおしえてくれました。
王子さまはこれ以上なにをおひめさまにおくったら良いか、ウンウンうなってかんがえます。みずうみにおふねをうかべたらどうかしら、それともおしろにせいかたいを呼んだらどうかしら、王子さまはあれこれ考えて魔女にきいたけど、魔女は首をよこにふるだけです。王子さまはとうとう何も思いつかなくてしょげかえってしまいました。
王子さまがいっしょうけんめい考えてもちっとも良い答えがうかばなくて困っているすがたを見て、ネズミもとてもかなしくなってしまいました。ネズミよりはとてもとても大きな、でも小さな王子さま。いもうとを助けるために森のフクロウの知恵をかりて、西の山のしれんをこえて、そして南の国のふぶきをぬけてきた、ゆうかんで、だけどまだまだ小さな王子さま。
ネズミは王子さまがしんぱいです。あんなに小さな体でがんばってきたのに、おひめさまをたすけられなかったらどんなにつらいでしょう、そう思いました。そしてネズミも王子さまのために何かできることがないかといっしょうけんめい考えました。そしてふと思ったのです。
王子さま、おひめさまは王子さまのために何ができるでしょう、ネズミは聞きました。
王子さまはびっくりしてネズミに、いもうとがぼくに、と聞きました。だってぼくはお兄ちゃんだからいもうとのためになんでもしないと、ネズミにそうつづけました。いいえ王子さま、かぞくは助けあうものです、おひめさまだってきっと王子さまのためにしたい事があると思います、ネズミは言いました。
魔女はさいしょネズミが話しはじめた時に止めようと思いました。でもけっきょくだまってネズミのことばを聞きとどけ、しずかに笑いました。ネズミが王子さまにおしえたのは、きっといつかは王子さまが自分でかんがえなければいけないことでした。でも今の王子さまにはきっとむずかしいことでした。
小さな小さなネズミが王子さまを助ける事で王子さまもわかる日がくるでしょう。お母さんの王妃さまがいなくなったみずうみの国のおしろで、王さまも王子さまもせいいっぱいがんばっていました。いなくなった人を思い出して泣きたい日も二人はがんばりつづけていました。
おひめさまもいっしょにがんばりたかったのです。でも王さまも王子さまも小さな小さなおひめさまを、だいじにだいじにしようとして、いっしょにがんばらせてはあげませんでした。二人がたいへんな時に一人だけのんびりしていなさいと王さまたちに言われてしまうこと、それがおひめさまの「さびしい」でした。
小さくてもよわくてもいっしょにがんばりたいおひめさまは、やわらかくてやさしい所にとじこめられて、冷たいさびしい氷の中に入ってしまったのでした。魔女は本当は王子さまに自分で気付いてほしかったけど、小さなネズミが王子さまを助けたことで、小さな、でもあたたかなひと押しの大切さをいつか知ってくれると思いました。
王子さま、ネズミさん、いっしょに氷の前にいらっしゃい、魔女は二人に呼びかけました。王子さまはいもうとを助けられると大よろこび。ネズミも王子さまの役に立てたほこらしさでいっぱい。二人はどうどうと氷の前に立ち、魔女の力が王子さまの心の力を大きくするのを待ちました。
王子さま、目を閉じてわたしの言葉を聞いていてください、魔女はそう言って小さくやさしく大きくつよく歌のようなじゅもんをつぶやきました。そしてさいごに"光あれ”そう言いました。
王子さまとネズミは心のおくからなにかあたたかいものがわき出してくるのをかんじました。それはまるで魔女のじゅもんのように聞こえました。それはまるで天使さまの歌のように聞こえました。それはまるでみずうみの国で待っている王さまの呼ぶ声のように聞こえました。
王子さまとネズミの心のおくにひびく言葉はべつべつでした。でもさいごのひと言を二人が聞いた時、なぜか二人はおたがいの言葉がいっしょに聞こえた気がしました。いもうとよ、めざめて、王子さまは言いました。おひめさま、目をさまして、ネズミは言いました。
そばで見守る魔女は二人のむねからやさしい光があふれていくるのを見つめていました。それはしだいに明るくなって、まるで広間いっぱいがかがやくようでした。かんどうしてあふれるなみだをかくすことなく、魔女は二人の光りかがやくすがたを見つめます。
二人の心のおくでひびいたおひめさまへ呼びかける言葉は、王子さまからネズミへ、ネズミから王子さまへと何度もとびはねて、そのたびに小さなすずの音からたいこの音へと大きくなっていくようです。さいごにまるでだいせいどうのかねの音のようにひびいた音。その音を聞いて王子さまもネズミもしぜんになみだをおとしました。
小さな小さな二人のなみだのつぶが床ではじけると、まるでみずうみにあまつぶがおちたように、床にわっかが広がっていくみたいでした。そのわっかがおひめさまをとじこめていた氷にたどりつくと、氷はけむりのようになって消えていきました。
後にのこったのはしずかにねむるおひめさま。王子さまはあわてておひめさまを抱きしめました。さっきまで氷の中にいたけれどおひめさまの体はあたたかくて、すぐに目をさますだろうと王子さまは安心しました。
王子さま、おめでとうございます、そしてありがとうございます、魔女は王子さまにお礼を言いました。こちらこそありがとう、大切ないもうとのためにがんばってくれて、王子さまも魔女にお礼を言いました。魔女さん、あなたはこれからどうするの、と王子さまはたずねました。王子さまはおしろで魔女もいっしょにいもうとがかえってきたおいわいをしたかったのです。
でも魔女は、王子さま、こまっている女の子は世界中にいるのですよ、そう言って笑いました。魔女は女の子の味方なの、とネズミがたずねると、魔女はそのとおり、と答えました。男の子はたすけないの、とネズミがちょっといじわるを言いました。こまっているのならば男の子も女の子もたすけたいです、でも、私の魔法はこの青い宝石の力、宝石は女の子のためにしかかがやかないのです、そう言って魔女はちょっとこまったように笑いました。
それでは王子さま、ネズミさん、ごきげんよう、おひめさまといつまでも仲良く、そう言って魔女はドロンっとすがたをけしてしまいました。
しばらく王子さまはさびしそうに魔女のいたばしょを見ていました。でもすぐにネズミに笑いかけて、さぁ、いもうとがめざめたらいっしょにおしろへかえろう。そうたのしそうに笑いました。
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次回がエピローグに当たる話の予定です。




