6話
西の山の火の鳥との対峙
あたたかいお日さまの光をあびてひとねむりした王子さまはげんきいっぱいになりました。大きくせのびをしてネズミさん、おはようとほほえみかけると、ネズミも王子さまのえがおがうれしくてヒゲをひくひくさせて笑いました。
そしてだんだんけわしくなるやまみちにまけないように、二人でにぎやかにおしゃべりをしながら西の火の山をのぼっていきます。いっぽ足をすすめればお日さまに近づくはずなのに、ふたたびぶあつい黒いくもが空をおおって、二人のまわりはくらくかげっていきます。
そしてゴロゴロとかみなりの音がきこえてくるようになりました。ネズミがポケットの中でギュッとめをつぶってふるえているのに王子さまは気が付きました。そこで王子さまは元気の出るマーチをくちずさみます。明るくてたのしくて、ネズミもいっしょにうたいます。
やがてかみなりはゴロゴロとうなるだけじゃなくて、ときどきピシャっと光りますが、ネズミはもうちっともこわくありません。だってやさしくてゆうかんな王子さまといっしょだからです。
マーチがおわったらこんどはネズミは北のくにのなつかしいうたをうたいます。道はとおくけわしいけれど、少しだけでも王子さまがたのしく立ち向かえたら、そんなふうにおもって大きなこえでうたおうとネズミがいきをすいこんだら、なんだかトゲトゲしたにおいがただよってきました。
ネズミがふしぎにおもってはなをヒクヒクさせると、王子さまはネズミさんも気がついた、とたずねました。
そうです、これが大きな鳥のはなしていた毒のにおいにちがいありません。王子さまがあたらしい道をさがそうとキョロキョロすると、ネズミはふたたび自分のでばんとばかりにポケットからとびおりました。
そして王子さまがただしい道をえらべるようにと周りをかけまわって行きます。そんなやさしいネズミをしっかりと立ってみまもっていた王子さまは、なんだかあたまがクラクラすると思いました。
なんだか気持ちがフワフワすると思ってへんな気持ちになった王子さま。ころんではいけないといったんじめんにすわりました。それでもなんだかフワフワするのはなくなりません。きれいなきんのかみの生えたおでこからはヒヤリとしたあせもながれてきました。
でも王子さまはちっともあつくはないのです。それどころか風はヒンヤリとつめたく、王子さまはさいしょに南の国へ行こうとしたときのことを思い出してしまいました。西の火の山でこんなにさむいのだとしたらじぶんのふるさとのみずうみの国はあのふぶきのようにこごえてしまうかもしれない、とこわくなってしまったのです。
こわくなってこわくなってつめたい風のこともわすれそうになった王子さまは、フクロウにもらったくびかざりをぎゅっとにぎりしめました。フクロウのやさしい声はきこえてこなかったけど、とてもこわい時に前に進むことこそ勇気のあかしだよと、フクロウがささやきかけてくれた時のなつかしい声を思い出して王子さまは勇気をふりしぼり、ネズミがもどってくるのをまちました。
やがてネズミはあたらしい道を見つけて王子さまのところへとチョロチョロと走ってきました。ネズミがじまんげにこっちです、王子さま、という声にホッと一息ついた王子さまは、心のそこからネズミにお礼を言って、ネズミの言うとおりの新しい道で西の火の山をのぼっていきました。
毒のにおいがなくなって安心した王子さまはグイグイと山をのぼっていきます。そしてとうとう王子さまは山のてっぺんまでのぼることができました。でも王子さまが西の火の山にのぼったのはこの山にすんでいる大きな大きな鳥の羽をもらうためです。ところが山のてっぺんにいると思っていた大きな大きな鳥はかげもかたちもありません。
ネズミが王子さま、大きな大きな鳥はどこにいるのでしょう、と言いかけたそのときです。さきほどまでのつめたさがうそのような熱い風と、バサリバサリと音がきこえてきました。王子さまがびっくりして上を見あげると大きくてまっかな鳥が王子さまをにらみつけていました。
王子さまの勇気は鳥のするどい目でけずられてしまうみたい。まわりがあつくなっていくのに王子さまの心の中はだんだん冷たくなっていく気がしました。とてもとてもこわかったけれど、王子さまはさいごの勇気をふりしぼって、西の火の山の鳥の王さま、ぼくにあなたの羽をいちまいくださいなとおねがいしました。
けれども大きな鳥はじっと王子さまをにらみつけるだけ。何もしゃべってくれません。王子さまがもういちどおねがいしようとしたら、今までずっといっしょについてきたネズミが王子さまのポケットからとびだしました。
そして王子さま、自分はこわいのでさようならします、と言って山をおりていってしまいそうでした。
王子さまはびっくりしてしまいました。そしておともがいなくなると思って不安で心がいっぱいになりました。王子さまはフクロウのちゅうこくを忘れて思わずネズミを追いかけてうしろをふりかえってしまいそうになりました。
しかし王子さまが一歩下がろうとしたその時、そのむなもとでフクロウのくびかざりがまるで鈴のようにリィンと美しい音を立てました。ささやくような小さな音だったけど、王子さまはフクロウの大きなやさしい目と、フクロウが作ってくれたそぼくなスープの味をおもいだしました。
それは王子さまがまばたきするとたちまち忘れてしまうほんの少しの思い出。だけどおかげで王子さまは後ろに下がろうとした足をほんのちょっとだけ止めることができました。つづいて王子さまはむなもとにあたたかなおもみをかんじました。
ハッとわれに返った王子さまのポケットには、にげてしまったはずのネズミがチョコンとおさまっていました。ネズミさん、かえってしまったと思ったよ、と王子さまはネズミに話しかけました。ネズミはふしぎそうに、王子さま、自分はずっと王子さまといっしょです、とこたえました。それをきいた王子さまはいつものようにやさしくほほえんで、そうだね、ごめん、そしてありがとう、と言いました。
そして王子さまはネズミをポケットからそっととり出して、ネズミさん、少しだけはなれたところでまっていてね、鳥の王さまとおはなしをするから、言いました。ネズミは王子さまといっしょにいたかったけど、おねがい、とくりかえされたので大人しくチョロチョロと王子さまのそばをはなれてようすを見守りました。
ネズミが鳥の王さまにおこられない所まではなれると王子さまは大きくいきをしました。そして西の山の大きな大きな鳥にはなしかけます。鳥の王さま、あなたの羽をいちまいほしいのです、と。大きな大きな鳥は王子さまにはなしかけられてもなにもこたえず、ゆっくりとはばたきながら王子さまをにらみつけています。
鳥の王さま、ぼくはふぶきにとざされた南の国へ行きたいので、あなたの羽をお守りにしたいのです、王子さまはもう一度おねがいしました。しかし大きな大きな鳥はやっぱりなにもへんじをしないで、王子さまを見ています。
王子さまは大きな大きな鳥がおまもりをくれないのではないかと不安に思って、そっとフクロウのくびかざりをにぎりしめました。そしてあの時フクロウのことばをだまって待ったことを思い出しました。王子さまはおくびょうな気持ちをふりはらって、こんどはしっかりとまっすぐに大きな大きな鳥のするどい目を見つめ返しました。
すると大きな大きな鳥はとつぜん話し出しました。それは王子さまをしかる言葉でした。王子よ、そなたはおろかものである、そしておくびょうものである、だが、と大きな大きな鳥はしゃべるのをとちゅうで止めます。王子さまがつづきをしずかな心でまっていると、大きな大きな鳥は言葉をつづけました。王子よ、しかしそなたはわがしれんをのりこえるために一番大事な物をもっていた。そなたのねがいにこたえてやろう。
そういうと大きな大きな鳥は大きく高く鳴き声をあげて、西の火の山のてっぺんからさらに高い空の上へととんでいきました。ちょっとはなれた所でみまもっていたネズミがあわててかけよってきましたが、王子さまはちっともしんぱいせず、大きな大きな鳥がとんでいるすがたをじっと見つめました。
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