4話
王子さまたちは西の火の山へと一直線に進んでいきます。その途中山を登るコツをどうにか手に入れられないかとネズミが走り回って手掛かりを探します。
北の国であたらしい友だちができた王子さまは西の火の山をめざして歩き出しました。たった一人でみずうみの国からたび立ったときからずっと気づかないふりをしていたさびしい気持ちを、今は一歩ごとにポケットをゆらすネズミのかん高い声のおしゃべりがなぐさめてくれます。
北の国の西のさいごのとりでにはまだ王子さまがろうやから出てきた人だという話はとどいていなくて、へいたいさんたちはふしぎそうな顔でみずうみの国の王子さまがおしろの方からやってきてとりでをとおり抜けるのを見送りました。
国のさかいを過ぎるとそこからは時々みじかい草が生えているだけの何もない大地が広がっていました。だれもいないただ広いだけの土地を王子さまとおとものネズミは王子さまとおひめさの思い出の話をしながら西へ西へと歩いて行きました。
西のそうげんは本当にさびしいところだけど、そのおかげでとおくにかすかに見える火の山を王子さまたちが見うしなうことはありませんでした。てっぺんがくもの上まであるその大きな山にネズミはなにか王子さまに役に立つことはできないかとかんがえて、ある日のお昼休みに空をとぶ鳥なら何か高い所について知っているかもしれないと思い、王子さまに鳥に話を聞いてみようと言いました。
王子さまはそれはとても良いかんがえだと思ったけれど、あいにく近くに鳥は見当たりません。後ろに下がってはいけない王子さまはあまり道をウロウロしたくないので今はやめようと思いました。しかしネズミはせっかくだからと思って、ふだんはポケットに入っている自分は元気だから、近くをさがしてみますと言って、はしりだしました。
王子さまがとめるまもなくはしりだしたネズミがさいしょに見つけたのはきれいな赤と黄色のはねの小鳥のおやこでした。ネズミがこんにちはと話しかけると、子どもの鳥が小さな目をクリクリさせてあなたはだぁれとたずねます。
ネズミが自分は北の国のろうやでくらしていたネズミだよ、今はみずうみの国の王子さまのおともをしているんだとこたえました。するとおかあさんの鳥はあなたは小さなからだをしているのに、そんなにりっぱな人といっしょなの、とたずねます。ネズミは王子さまと出会ったのはぐうぜんだけど、王子さまはゆうかんでやさしい人だからいっしょにたびをさせてもらっているんだ、とほこらしげにこたえました。
そんなりっぱな人がこんなさびしい所にどうしてたびをしているのかとおかあさんがたずねるので、ネズミは王子さまは魔女の魔法から身を守る西の火の山の鳥のお守りをさがしにきたんだとこたえました。そして山に行くためにおぼえておかなくてはいけないことを知らないかとききました。おかあさんはため息をつくと、わたしたちのような小さな鳥ではあんな大きな山には行けないよ、もっと大きな鳥にきかなくちゃとへんじをしました。
ネズミはお話しをしてくれてありがとう、あなたたちにしあわせがありますようにとあいさつをして、大きな鳥に会えないかと辺りをもう少しはしって回りました。しばらくするとこんどはウサギのおうちを見つけました。
ネズミはウサギのおうちの戸をたたき、こんにちは、お話しをしませんかとこえをかけました。とびらののぞきまどからネズミを見たウサギは戸をひらいて、はじめましてネズミさんとへんじをするとネズミをきゃくまにあんないしてお茶をよういしてくれました。
ウサギがこんなさびしいところにどうしたの、とたずねるのでネズミはみずうみの国のゆうかんな王子さまのおともをしていること、王子さまは西の火の山にのぼらなければいけないことをせつめいしてから、山をのぼるための良いちえを鳥におそわりたいのだとつたえました。
ところがウサギは鳥と聞いてブルブルとふるえ出し、西の火の山のそばまで行けば大きな鳥がすんでいることだけをネズミに話すと、せっかくいれてくれたお茶をネズミがのむ前におうちをおい出しました。王子さまをあんまりまたせることはできません。ネズミはガッカリしてしてトボトボと王子さまが休んでいるさびしい原っぱにもどりました。
王子さまはネズミをあたたかくむかえると、おつかれさま、だれかに話はきけたの、とたずねました。ネズミは西の火の山のそばに大きな鳥がすんでいるというウサギの話をしました。せっかくネズミをまっていてくれた王子さまにたくさんの話ができなくて、ネズミは王子さまをガッカリさせてしまうのではないかとおそるおそるでしたが、王子さまはではこのまま歩いて行けば何か話が聞けそうだね、とよろこんでふたたびネズミをポケットに入れてあるき出しました。
さびしいそうげんで王子さまとネズミが三回お日さまとお月さまにこうごにまた明日とあいさつをすると、とうとう大きな西の火の山が見えてきました。。けしきは原っぱよりもっと草が少なくなって、ゴロゴロと大きないわがあちこちにころがっています。おまけに少しずつプン、とふしぎなにおいがするようになってきました。
ゆうかんな王子さまもふしぎなにおいに少しこまってしまい、ネズミとかおを見あわせてどうしようかとかんがえてしまいました。しかしポケットのネズミを見おろした時にフクロウのくびかざりが見え、決して後ろに下がってはいけない、というフクロウのことばが聞こえたような気がした王子さまはもう一度勇気をとりもどしました。
くもの上にかくれているてっぺんを一回にらんで歩き出した王子さまにバサッバサッとかぜを切るおとがどこからともなく聞こえてきました。王子さまが歩きながらあたりを見回すと、王子さまよりも大きな、するどいひとみとくちばしをもった、茶色の鳥が王子さまを目がけてとんできました。
王子さまがあわててもっていた盾をかざすと、大きな鳥はいきおいよく盾にぶつかり、とおりすぎた原っぱにもひびきわたるくらいのガーンという大きな音を立てました。大きな鳥はあんまりいたいので目をグルグル回してじめんにおちてしまいます。
王子さまがどうしたものかとかんがえているそのポケットで、ネズミは王子さまとけんかしようとした鳥をゆるしてはいけない、王子さまの国一番の剣でくちばしを切りおとしてはんせいさせましょう、と言いました。
しかし王子さまはかんがえかんがえして、大きな鳥をゆるしてこのままケガをなおしてやることにしました。ネズミはまだプンスカとおこっていましたが、王子さまがゆるすときめたので、王子さまのかわりに辺りをチョロチョロとはしりまわってキズに良くきく草をさがしてきて、盾にいきおいよくぶつかった鳥にぬってやりました。
大きな鳥はくすりの草のおかげで目をさまして、ゆるしてくれた王子さまのやさしい心にかんげきしました。そして何も言わずにけんかをしかけたことをあやまり、王子さまのためにオレはなんでもしますと言いました。
そこで王子さまは、これから西の火の山にのぼらなくてはいけないけれど、どうしたらあぶない事に出会わずにすむかとたずねました。
大きな鳥はとぶことができない王子さまがここからまっすぐにのぼるのはたいへんだ、とおまわりをしてもっと南からのぼった方が良いと言いました。しかし王子さまは西の火の山にのぼるのは勇気をしめすためだし、ぼくはとてもいそいでいるからそれはできない、とざんねんそうにこたえました。
王子さまのへんじをきいて、鳥はまっすぐにのぼらなくてはいけないのならば、せめてにおいがこい所はとおらないようにと言いました。においの元は火の山のどくで大きな鳥のなかまも上のそらをとおろうとして落ちてしまったことがある、とおしえてくれました。
そのほかに大きな鳥は山をはしるヤギはゴロゴロしたいわの上をとおらないように気をつけていることもせつめいしました。
王子さまは鳥がていねいにおしえてくれたことにありがとうと言うと、もう一度勇気をからだにこめてから西の火の山へとのぼっていきました。
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