3話
東の森でフクロウの助言を授かった王子さまは、その言葉に従って北の国を通って西の火の山に向かおうとします。
うっそうと広がった森を、来たときとはせいはんたいのルンルンとした足どりでお日さまのさしこむ入り口までもどった王子さまは、かくしておいた剣と盾をその手にとりもどしました。そしてこれから入ることになる北の国の方をにらむと、小さなからだに勇気をみたして歩き出しました。
王子さまは左にほんの二、三日はなれていただけでもうなつかしいみずうみの国のさかい目の山と森をかんじながら、ひたすら北にむかって歩いていきます。そして何日もだれとも話すことなく歩きつづけると、またねずみ色の北の国の石のとりでが見えてきました。
北の国のとりでのへいたいさんたちは、今回は王子さまをかんげいしませんでした。何十人ものへいたいが、王子さまにかえれかえれとどなりつけ、ゆうかんな王子さまも少しおじけづきそうになります。しかし王子さまは決して後ろに下がってはいけないとフクロウにおそわったとおりに、とりでに向かってすすみ出しました。
するととりでから王子さまの倍くらいの大きさのへいたいさんが出てきました。そのりょう手にはその大きなせたけくらいの大きな大きな剣。その剣をふり回して王子さまにひきかえさないとこの剣でバラバラにしてしまうぞ、とおどかしてきます。
しかし王子さまはゆうかんなので決して後ろに下がらず、ぼくはどうしても北の国をとおってとおい西の火の山まで行かなくてはいけないのだ、とこたえて大きなへいたいさんへとあるいて行きます。王子さまがかえらないのでおこったへいたいさんは大きな剣を力いっぱいふりおろしました。
あぶない!だけどだいじょうぶ。王子さまの手には王さまがくれた国でいちばんかたい盾があります。王子さまはへいたいさんの剣をうけとめて、もういっぽうの手ににぎっていた剣をへいたいさんの大きな剣にたたきつけました。
王子さまの剣はみずうみの国でいちばんの剣。みごとにへいたいさんの剣をこなごなにしてしまいました。自信まんまんだったへいたいさんは、びっくりしてとりでの中へとにげこみました。王子さまはへいたいさんが入っていったもんからとりでをとおりすぎます。大きなへいたいさんをたいじした王子さまにとりでのみんなはブルブルふるえて、王子さまがとりでをとおりすぎるのを見守るばかりでした。
とりでをぬけた王子さまはいよいよ勇気がからだじゅうにいきわたって、力づよくじめんをふみしめてまっすぐにこんどは西の方へとあるいて行きます。ズンズンとすすんでいく王子さまの目に、やがて北の国のつめたくてくらいなまり色のおしろが見えてきました。
王子さまはこんどはおしろには入らずにとおりすぎるつもりでした。ところが北の国の王さまは王子さまがとりででへいたいさんをイジメたと言ってカンカンにおこっていました。王子さまがおしろのよこをとおりすぎようとすると、たくさんのへいたいさんが王子さまをとりかこみます。
王子さまはぼくは北の国とけんかをしたくないと言いました。王さまはそれにこたえてわしのへいたいをやっつけた王子さまをゆるすことはできない、しばってろうやにとじこめてやる、と言いました。そしてへいたいさんたちにそれ、王子さまをつかまえろとめいれいしました。
王子さまはとてもとてもゆうかんでした。決して後ろに下がらずにへいたいさんたちを押しのけようとしました。一人、王子さまはへいたいさんの剣をたたき折って押しのけました。二人、今度は盾でへいたいさんを押しのけました。ところが三人目でとうとう王子さまはつかまってしまいました。
そして王子さまは剣と盾をとりあげられてろうやにガシャーンと入れられてしまいました。王子さまは手元にたった一つのこったフクロウのくびかざりをにぎりしめて、これからどうしたら良いのかかんがえました。するとホウとどこからともなくろうやにフクロウの声がひびきました。そしてフクロウの声におどろいたのか、ろうやのすみからネズミが走りこんできました。
こわがっているネズミに王子さまはやさしくあなたはだれ、と聞きました。ネズミはむかしからこのろうやにあいた穴にすんでいることと、今とてもおそろしい声が聞こえたのでとてもこわい思いをしているとはなしました。そこで王子さまは今ろうやにひびいたのはとおくの森で自分を見守っている人の声で、決しておそろしいことはないことを話しました。
ネズミが王子さまをしんじてよいのかかんがえているようだったので、王子さまはネズミをポケットの中にかくしてあげました。そうするとネズミはかばってくれてありがとう、何かお礼をさしあげますと言いました。そこで王子さまはこのろうやから出る方法をおしえてほしいとおねがいしました。
ネズミは王子さまのおねがいを聞くと、まかせてほしいと言ってろうやのてつごうしの間をすり抜けて、チョロチョロと走っていきました。王子さまがネズミの言葉をしんじてしずかにまっていると、やがてネズミが何かジャラジャラと音をさせながらもどってきました。王子さまがもどってきたネズミを見ると、ネズミはカギのたばを持っていました。
王子さまはネズミにお礼を言ってろうやのカギを開けて外へ出ました。そこで後ろに下がらないようにしながら少しふりかえり、ネズミさん、君も外のせかいに行かないかとさそいました。ネズミはさそわれることをよそうしていたし、ここはいごこちが良いからとことわるつもりでいました。ところが王子さまのキラキラとかがやくひとみを見たとたん、この人のきれいなひとみをもっと見たいと思ってしまい、とっさにいっしょに行きましょうとこたえてしまいました。
王子さまはうれしそうに笑うと、それじゃあまたぼくのポケットにおいで、と言ってネズミをポケットに入れると、くらい石のろうかを歩いて、とちゅうでお父さんの王さまからもらっただいじな剣と盾をとりもどしてろうやをぬけ出しました。
王子さまはふたたびお日さまの下に出ると、ネズミと出会うきっかけになったくびかざりをにぎりしめて、きっととおくで見守っているフクロウにありがとうの気持ちをつたえました。すると王子さまの心の中で、あんしんするのはまだはやい、あなたがにげ出したことに気づいたら北の国の王さまはきっとおいかけてくるのだから、ときこえた気がしました。
フクロウのことばにそのとおりだと思った王子さまはネズミがしっかりポケットの中におさまっているのをかくにんすると、急いでかけ出しました。その足どりはとてもはやく、まるでフクロウがせなかを押してくれているようでした。
王子さまがにげ出したことを知った北の国の王さまはカンカンにおこって、すぐにおいかけてみずうみの国の王子さまをつかまえろ、とへいたいさんたちにめいれいしましたが、王子さまがあんまりにも早く走っていったので、とうとうへいたいさんたちは王子さまを見うしなってしまいました。
北の国のへいたいさんたちをふり切った王子さまに、ネズミは王子さまはこれからどこへ行くのですかとたずねました。王子さまはいもうとが南の国につかまっていること、南の国はふぶきの魔法でとざされていることをせつめいしてから、魔法に負けないためのあたたかいお守りをもらうために、西の火の山にのぼるのだと言いました。
王子さまのへんじを聞いたネズミはかんがえかんがえて、真っすぐに西の山をのぼるつもりなのですかと聞きました。王子さまはそのとおりだとこたえます。ネズミはここから真っすぐに西の山をのぼるのは道がたいへんです、いったん北に回りこんでかんたんな道をさがしましょう、と言いました。
王子さまはネズミのじょげんにお礼を言って、でもダメだ、ぼくはとてもいそいでいるし、西の火の山の鳥はゆうかんな人をしゅくふくするから、たいへんでも真っすぐに行かなくてはいけないとこたえました。ネズミは王子さまのゆうかんな言葉にかんどうして、では王子さまがたいへんだからポケットからおりて自分でついて行きます、と言いました。王子さまは歩く早さがちがうからそれでは君がたいへんだ、だいじょうぶ、君はとてもかるいから、とそれをことわって、ネズミをポケットに入れたまま北の国をはなれてまだ見ぬ西の火の山を思いうかべながらいっぽいっぽたびを続けるのでした。
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