2話
北の国で吹雪に立ち向かう術を手に入れる方法を手に入れられなかった王子は次の方法に挑戦します。
王子さまはめずらしくいもうとの身を思ってしくしくと泣きながら、王さまからおそわったもう一つのやり方をためすことに決めました。
それは東のふかい森の中にいるせかいで一番かしこいフクロウにちえをかりることです。それはとてもとてもたいへんなことです。森はとてもふかくふかく、昔からかりゅうどが何人もまいごになっています。そして東の森のどこにフクロウがくらしているのか、だれも知らないのです。でも王子さまはいもうとのおひめさまをたすけ出すためにぜったいにあきらめません。
森のいりぐちに王さまからもらっただいじな剣と盾をかくした王子さまはおかあさんのかみの毛の入ったくびかざりだけをおともに、たいようも見えないふかいふかい森の中へと入って行きます。さいしょの内は小鳥のうたに合わせてはねるように歩いていたゆうかんな王子さまも、すすむにつれてそれがだんだん気味のわるいバケモノの笑いごえに聞こえるようになってきます。木の葉をかぜがなでる音さえあくまのささやきに聞こえて足が止まりそうになるころ、とつぜん聞きなれないシャーっという音がしました。
王子さまが音の方をあわてて見上げるとそこには見たことのない手も足もない長い体のふしぎな生き物が王子さまを見つめています。王子さまがあいさつをしてあなたはだれかとたずねると、ふしぎな長い生き物は大きな口をよこに大きくひらいて笑いました。その口の中にはするどい歯がいくつも生えていて、かまれたらとても痛そう。でも王子さまは勇気を呼びおこしてもう一度あいさつしました。するとそのようすを見てニヤリと笑ったあいてはおいらはへびだ、ゆうかんな王子さま。とこたえてくれました。
自分が名乗るのを忘れていたのに王子さまが気がついてあやまると、へびはもう一度楽しそうに笑ってゆるしてくれました。そしてこんなところに何をしにきたかをききたがるので、せかいで一番かしこいフクロウに会いに来たのだと王子さまはしょうじきにこたえました。
ふしぎなこともあるものだ、めずらしいものが見たいのかねとへびがもう一度きくので、王子さまはこまっているのでかしこいフクロウのちえを借りに来たのだとおひめさまの話を聞かせました。ふむふむとうなずいたへびは王子さまに待っているようにと伝えると木の上にするするとのぼっていきました。王子さまが言われたとおりにじっと待っていると、もどってきたへびはたしかにおいらのちえではたすけられない。森のおばばに会うしかないねと言って、フクロウが住んでいる、森で一番高い木のばしょをおしえてくれました。それではごきげんよう、ゆうかんな王子さま、そう言ってまた木の上にのぼっていくへびにお礼を言って、王子さまはフクロウの住む木をめざしてまたふかいふかい森の中をあるき出しました。
それからも小さなリスや大きなヤマネコに道をたずねて、王子さまはとうとう森で一番高い木にやってきました。ところが王子さまが木の上に大きな声で呼びかけてもへんじはありません。王子さまは時々上に向かってよびかけながらフクロウがあらわれるのをまちました。そしてどうやら森のそとではたいようがしずみ、もりがとっぷりとくれた頃に上がっておいで、とへんじがありました。
王子さまははじめての木のぼりでしたが剣も盾もおいてきた王子さまには自由な両手があります。ぐいぐいと上までのぼった王子さまははじめて見るフクロウの大きな大きなひとみにびっくりしましたが、森のおくさま、はじめましてとていねいにあいさつして、ふぶきをのりこえる方法をたずねました。
フクロウもみずうみの国の王子さま、いらっしゃいとていねいに答えてくれましたが、そのあとはじっとだまって王子さまをその大きなひとみで見つめるばかり、一言もありません。フクロウに見つめられていると王子さまはだんだんとあたまがクラクラしてきましたが、決して目をそらしませんでした。フクロウはまるで小さな星くずの光をすいこむようなあい色の空をまるくて黄色い月のふねがおよぎわたり、きえさった反対の空からあたらしいお日さまがかおを出すまでじっと王子さまを見つめていました。
そしてさいごまで王子さまが一言もしゃべらないでフクロウから目をそらさなかったのを見とどけると、やさしそうに笑って王子さまを朝ごはんにさそいました。王子さまがありがとうと答えていっしょにフクロウの小さなおうちに入り、出されたスープを食べていると、フクロウはもういちど森に来たりゆうをたずねました。
王子さまはおしろの周りの大きなみずうみと小さなみずうみに氷がはる前にきれいな女の人がやってきたときからの話をしました。王子さまの話はフクロウの小さなおうちのまどからお日さまの光が上へとかくれるまでつづきました。フクロウは王子さまの話をじっときいていました。さいごに王子さまが森のおくさま、南の国をつつみこんでいるふぶきを乗りこえる方法をおしえてください、と言って長くつづいた話をおえると、フクロウはまずはゆっくりねむりなさいとやさしくこたえました。
王子さまはヘトヘトだったので、フクロウの言うとおりベッドにもぐりこんでゆめも見ずにふかく長くねむりました。フクロウは王子さまがねむるのをそばで見守っていましたが、すやすやと王子さまがねいきをたてはじめるとかのじょも自分のへやに入ってゆっくりと休みました。
王子さまがへやにただよう良いかおりに目をさますとフクロウがスープをにこんでいました。フクロウはテーブルについてしばらく待っているようにとせなかで王子さまに伝えると、ふたたびなべに取り組んでいるようでした。
言われたとおりに王子さまがぎょうぎよく待っていると、フクロウはお皿にたっぷりともりつけたスープを一つ、王子さまのまえへとはこんできました。王子さまがおくさまの分はないのですかとたずねると、わたしはスープは食べないよ、それはおきゃくさまのためのりょうりだから安心しておなかいっぱいたべなさい、とフクロウはこたえました。王子さまはフクロウのきづかいにかんしゃして神さまに今日の生きるよろこびとフクロウへのかんしゃと明日もせいいっぱい生きるちかいといもうとを助けるちかいをささげ、スプーンを手に取りました。フクロウの作ったスープはとてもおいしくて、つい王子さまはおしろにいたらしかられてしまうようなぎょうぎの悪いたべかたをしてしまいました。
王子さまがあわててスプーンをうごかしているのを楽しげに見守っていたフクロウは、かまわないから食べながらお聞き、と言って南の国のふぶきの話をはじめました。王子さまは少しこまってしまいましたが、フクロウの言ったとおり食べながらフクロウの話に耳をかたむけます。
フクロウが言うことには、ふぶきは王さまの言うとおり魔女がおこした魔法の力で、どんなにあたたかな着物を身にまとってもけっしてふぶきをのりこえることはできないだろうと言いました。王子さまは今度こそよわりきってしまい、おくさま、何かほうほうをごぞんじではありませんかともう一度ていねいにフクロウのちえを借りようとおねがいしました。
フクロウはしばらく大きな目をとじてかんがえごとをしていましたが、やがて目をカッとみひらくと王子さまを見つめました。王子さまは食べるのをやめてせすじをピンとのばして、ぜったいにいもうとのおひめさまをたすけるのだという気持ちをこめてフクロウを見つめ返しました。
王子さまのきもちを見ぬいたフクロウは決しておうちの外にことばがもれないようにと、しずかに話しはじめました。王子さまのふる里のみずうみの国のさらに西のかなたに上からようがんが流れ落ちる火の山がある。その山のちょうじょうには勇気をしゅくふくする、羽ばたくごとに火の粉をまきちらす大きな大きな鳥がすんでいる。その鳥におねがいしてその羽を一まいもらいなさい、ふぶきに負けないあたたかさをくれるお守りになるから、とおしえてくれました。
王子さまがいすから立ち上がってフクロウにお礼を伝えると、フクロウはただし、と話をつづけました。決して鳥に出会うまでみずうみの国にもどってはいけない、そして決して後ろに下がってはいけない、鳥はゆうかんな人にしかしゅくふくをさずけないから、とちゅうこくしました。
王子さまはかんがえます。みずうみの国にかえらずに西の山に行くためにはもういちど北の国をとおるしかできない。そして決して後ろに下がってはいけない。それはとてもとてもむずかしいことでした。だけど王子さまはやりとげると決めると、もう一度フクロウにありがとうございますと言いました。そして王さまからもらったさいごのもち物、おかあさんのかみの毛が入ったくびかざりからかみの毛をとりだし、きれいなくびかざりをフクロウにおくりました。
フクロウは楽しそうに笑うと、こうかんだよと言ってあたらしいくびかざりを王子さまにくれました。王子さまはあたらしいくびかざりにかみの毛をだいじにしまうと、森のおくさま、このごしんせつは忘れませんとさいごのあいさつをして、フクロウの小さなおうちを出るとふたたび森の外へとあるき出しました。
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