1話
ふかいふかい森をぬけた大きなみずうみと小さなみずうみに囲まれて、小さなおしろがありました。おしろには白いおひげのりっぱな王さまと金色のかがやくかみのゆうかんな王子さまとまるでみずうみを固めたような青いひとみの心きよらかなおひめさまがくらしていました。二人のこどものお母さんのおきさきさまはずっと昔にしんでしまったけれど、三人はとても仲よくはげましあってちっともさびしくありませんでした。
おしろから見える国はとてもとても小さいけれど、人々はとてもゆうかんでまわりの大きな国や小さな国からとてもそんけいされていました。人々はいつかゆうかんな王子さまが王さまのあとをついで、りっぱな国がこれからもつづいていくのだと信じていました。
ところがある年の冬のあさ、おしろにきれいな女の人がやってきました。くろくて長いかみとおひめさまのひとみよりもふかいふかいふしぎな青い石のくびかざりの人でした。王さまはとてもかしこかったので、その石がこの国にはどこにもないうみの色だとわかりました。そしてそのきれいな長いくろいかみと青いくびかざりの女の人をとっても好きになってしまったのでした。
王さまは女の人のためにくにじゅうからうたう人やおどる人をあつめて、いっしょにあそんでばかり。二人のこどもたちはすっかりさびしくなってしまいました。だけど王子さまはまたいつかかぞくで仲よくできると信じて、いもうとのおひめさまをはげましながら自分でも少しずつ少しずつもっとゆうかんでかしこい王子さまになろうとしました。
ところがその年のさいしょのわたり鳥がみずうみにやってきた日の夕ごはんをおひめさまが食べにこなかったのです。びっくりした王子さまはいもうとの名前をよびながらおしろじゅうをさがし回りました。お兄さんの王子さまがはしり回っていると、お父さんの王さまもおんなじようにはしり回っているところにぶつかりました。
なんと王さまとなかよしのきれいな女の人もゆくえふめいになってしまったのです。じぶんの子どもがいない時にほかの人をさがしているお父さんにお兄さんはかんかんでしたが、今だけは仲なおりしていっしょにふたりの女の人をさがしておしろじゅうを二人で走り回ります。
王さまがいつも国のみんなをおむかえする広いへやまで二人がたどりつくと、そこには国のだれもが見たことのない大きなかがみがおかれていました。きらきらとかがやく金色のふちどりの中のかがみは七色に光って、見つめているとすい込まれていきそうです。王子さまが光にさそわれて思わずさわるとかがみはほんのみじかい間もっとつよくかがやき、二人の目はちかちかとくらんでしまいます。目がなおるとかがみの中にきれいな女の人が黒くてこわいふくをきて立っています。
二人がまごまごしているとへんしんした女の人はこんばんはとあいさつしました。それでも二人がこたえずにいると、女の人はたのしそうに笑って今おひめさまを南の大きな国のおしろへつれて行ったと話しました。どうして?と聞いた王子さまにまたまたたのしそうに笑った女の人はおひめさまを返してほしいかとたずねます。
かえしてほしい、と王子さまよりも早く王さまがこたえました。王子さまが少しおどろいてよこを見ると、見たこともないこわいかおをしたお父さんの王さまはもういちど、おひめさまをかえしてほしい、そうしてくれたらおしろのどんなたからものもあなたにあげる、と言いました。女の人はお金もたからものもいらない、かえしてほしかったら王子さまが一人で南の国まで来なさい。ただしおしろのまわりにはたくさんのかいぶつがいるけれど、それがこわくなかったら。そう言うと女の人をうつしていた光るかがみはもう一度かがやいてからただのかがみにもどってしまいました。
王子さまがくやしくてくやしくて、かがみをたたきわろうとすると王さまはそれを止めて、女の人はこわいこわい魔女で、かがみはそのまほうのどうぐだからあぶない事をしてはいけないと教えました。王子さまが王さまにくわしい話を聞こうとすると、お父さんの王さまはふかくふかく頭を下げて、魔女にだまされて二人の子どもにさびしい思いをさせていたことをあやまり、南の国のまほうの話をしてくれました。魔法がどんなにこわい物かをおしえてもらった王子さまは、それでもいもうとをたすけ出すために南の大きな国へとたびにでることをきめました。
王さまがおふれを出して国じゅうでさがし出したいちばんかたい剣と盾と、そしてずっとたからものにしていた死んだおきさきさまのかみの毛のはいったくびかざりをうけとった王子さまは、魔女に言われたとおりたった一人で南の国へといさんでたびだちました。
ところが王子さまが国のさいごの一人がすんでいる小屋をとおりすぎておしろとみずうみをとりかこんでいるふかい森に足をふみ入れると、そらから白いかけらがさらさらとふってきました。さいしょは小さかった雪は王子さまが南の国へと近づくごとに大きくはげしくふっているようでした。もう春なのにとふしぎがる王子さまがそれでも足を止めずにふかい森をぬけると、王子さまの目のまえがまっ白になるほどの雪がまるで雨のようにふっていました。
王子さまはまだ子どもでしたが、これはとおい北の国にやってくるふぶきだとわかりました。魔女のまほうにちがいありません。王子さまはとてもとてもゆうかんでしたがふぶきには手も足も出ません。王子さまはざんねんに思いましたがいったん引きかえして王さまにそうだんすることにしました。
しろに一人でかえってきた王子さまを見て、びっくりした王さまが何があったのかをたずねます。王子さまの話をきいた王さまはいっしょうけんめい考えて、二つのやり方をおしえました。
さいしょの一つはふぶきのやってくる北の国まで行って、ふぶきの中をあるいて行くやりかたをおしえてもらうことです。もっともだと思った王子さまはまずおひめさまの待っている南の国とは反対の北の国へと向かいました。
北の国にたどり着いた王子さまはくらいなまり色の石でたてられた小さなとりでで、北のおしろまで連れて行ってほしいとたのみました。この国でも小さなみずうみの国のゆうかんな王子さまはとてもそんけいされていて、十人のへいしがおしろまであんないしてくれました。
ところがおしろの人たちはふしんせつで、王子さまがふぶきに負けない良いほうほうをおしえてくださいとたのむと、王子さまが北の国とたたかうつもりだと決めつけて、何もおしえないで王子さまをおしろからおい出してしまいました。王子さまはいつものとおりとてもゆうかんだったけれど、とても一人でおしろじゅうとけんかでかつことはできなくて、すごすごと自分の国のほうへとにげ出すしかありませんでした。
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