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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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生死

 王宮は、襲撃犯達の雇用者である民間護衛会社にも、軍の兵士を向かわせた。

 会社の経営者も従業員も兵士に抵抗した為、捕らえられる。


 コーハナル侯爵家の馬車が襲われた件は王宮にも伝わっていた。

 しかし学院襲撃は認めた経営者も従業員達も、馬車襲撃については知らないと主張する。

 学院で既に捕まっていた襲撃犯達もやはり、馬車襲撃については知らないと言った。



 現在も襲撃犯に閉じ込められている護衛達は、皆ソウサ商会の護衛女性だった。


 教室内の護衛女性の3分の1は護衛任務を始めたばかりで、もう3分の1も実戦経験は無い。

 しかし残りの3分の1は、神殿信徒の騒動から今日までの混乱の中で、多かれ少なかれ実戦経験があった。


 その経験者達の仕切りで、護衛女性は半分ずつに分かれて交替で休憩を取った。

 休憩を取ると言っても目の前には襲撃犯がいる。神経は休まらなかったが座る事で体力は温存できた。

 そして交替で休む護衛女性の姿に生徒達は、僅かだけれど気持ちに余裕が持てた。



 襲撃犯達は廊下に向かって繰り返し要求を叫ぶ。

 そして水や食料を持って来る事も要求する様になった。襲撃犯達も長丁場となる事を認めたのだ。


 それに対して軍は作戦を変更し、兵士達には要求に対して返事も返さない事にさせた。何を言われても言葉を返さないし、物音も立てない。

 当然、要求された水も食料も用意しなかった。

 襲撃犯達を()らして、廊下の様子を見る為にドアを開けさせる事を兵士達は狙う。



 まだ解放されていない生徒の家族達は、学院に残っている。


 その家族達の間に、襲撃犯達が生徒達の身替わりにラーラ・コードナを連れて来る事を要求しているとの噂が広がった。

 家族達は学院に真偽を問い合わせるが、学院は回答できないとの回答をする。

 家族達はその回答で、噂が事実だと判断した。


 さすがにコードナ侯爵家にラーラを差し出す要求をする様な家族はない。

 その替わりに家族達はコネを使って王宮に対応を求める。しかし王宮は一切の回答も動きも見せなかった。


 生徒の家族達の襲撃犯に対する怒りの対象は、ラーラにまで広がった。

 そして顔も正体も分からない襲撃犯よりは、劇の主人公にもなったラーラの方が家族達にはイメージし易い。

 その為に時間が経つにつれ、家族達の怒りの向け先がラーラに集中して行った。



 閉じ込められている生徒達は空腹を抱えながらも、疲れから眠りに就いていく。人質にされている生徒も、立った状態でうつらうつらとしていた。


 襲撃犯達は人質の生徒を座らせると、自分達も交替で休む事にした。


 護衛女性達はそれを見て、3分の1で剣を構えて警戒の体制を取り、残りの3分の2は休憩を取る事にする。眠れる者は睡眠を取った。


 生徒を殺した襲撃犯が上着を脱ぎ、亡くなった生徒の体に掛けた。



 夜が明け。


 声を掛けても何の反応もない廊下から、美味しそうな匂いが教室内に流れて来る。

 襲撃犯達に空腹感を意識させて、冷静な判断を奪おうとする軍の作戦だった。


「クソ。どうするんだ?」

「落ち着け」

「落ち着いてて良いのか?どう考えてもラーラ・ソウサを襲撃に行ったやつらは失敗したんだろう?」

「向こうも立て籠もっているのかも知れない」

「隣のクラスのやつらはどうしたんだ?」

「壁を叩いても応えがない。やられたんじゃないか?」

「まだ分からん」

「分かってからじゃ遅いんじゃないか?」

「そうだ。私達も何とかした方が良いだろう?」

「何とかって?」

「それは、分からないが・・・」

「・・・でも!このままじゃダメだろう!」


 襲撃犯の一人がそう言って、壁を殴った。

 寝ていた人質生徒が目を覚まし、少しは体力や気力が回復したのか、シクシクと泣き出す。


「静かにしろ!」


 襲撃犯の一人が暴力で人質生徒を黙らせる。


「おい!手加減しろ!死んでしまう!」

「これぐらいで死ぬかよ」

「それに人質ならまだいるじゃないか」


 そう言うと襲撃犯の一人が護衛女性達に近付いた。

 剣を構えた護衛女性の一人が声を出す。


「隊列維持!集中!」


 剣を構えている護衛女性達が「はい!」と応えた。

 

「なんだ?私は剣を抜いてないぞ?」


 そう言いながら護衛女性達に近寄る襲撃犯に、他の襲撃犯から「()せ」「()めとけ」と声が掛かる。


「大丈夫だ。見ろよ。震えてるやつがいる。悪魔の味方をしてるなんて、(さぞ)かし怖いんだろうさ。なあ?」


 襲撃犯は列の端の一人の護衛女性の前に立った。


「剣を抜いてない私に剣を向けるなんて、良く出来るな。さすが悪魔の仲間だ」


 襲撃犯が手を伸ばすと、護衛女性の剣先が揺れる。

 それを見て襲撃犯は手を下ろした。


「やはり神の御言葉に沿って行動している私が恐ろしいのだろう?神罰が下されると言うのに私達に逆らって」


 襲撃犯は両手を左右に広げる。


「悪魔の手先を()めるなら、今が最後のチャンスだぞ?」


 そう言って微笑んだ襲撃犯は片手を差し出す。


「ほら。この手を取れ。今ならまだ間に合う」


 襲撃犯がサッと一歩踏み出して護衛女性の腕を掴もうとしたが、 その足を踏み下ろす前に別の剣に刺された。

 先程まで寝ていた筈の護衛女性達の剣が、襲撃犯の体に刺さる。


「前方集中!」


 その声に列を組んで剣を構えていた護衛女性達が「はい!」と応える。列を組む護衛女性達は刺された襲撃犯の方を見ずに、残りの三人の襲撃犯を見ていた。

 その後ろにも残りの護衛女性達が並ぶ。

 襲撃犯に刺した剣を抜きながら、護衛女性の一人が襲撃犯の胸を蹴って仰向けに倒す。

 襲撃犯を刺した護衛女性達も列に加わる。

 腕を取られそうになっていた護衛女性も、何とか視線を前に向けた。


 残された三人の襲撃犯達は、声が出なかった。



 護衛女性達は今度はまた二組に分かれて警護と休憩を(おこな)った。

 襲撃犯を刺した剣の手入れが、休憩時に行われる。


 三人の襲撃犯達は刺された襲撃犯を回収出来なかった。

 一人が運ぶとしたら、もう一人は人質生徒を捕まえているから、剣を構えて牽制出来るのは一人だけになる。

 その状況を護衛女性達が見逃すかどうか分からない。

 何しろ護衛女性達相手には、人質が役に立たない事が分かっているのだから。


 刺された襲撃犯の周りの血は、広がりを()めた。



 翌日。

 襲撃犯達が教室のドアを開放した。


 物音をさせずに廊下で待ち構えていた兵士達が、すかさず教室内に踏み込んで襲撃犯三人を制圧する。


 襲撃犯達はドアの開放に先立ち、人質生徒を護衛女性達に渡していた。

 亡くなった生徒の体も、護衛女性達の列の後ろに守られていた。



 亡くなった生徒の家族は理由を伝えられないまま、別室に案内されて行く。

 その後に、残った他の生徒の家族達に、生徒達の解放が伝えられた。



 生徒達への事情聴取は後日となり、生徒と家族達は帰宅する。

 ソウサ商会の護衛女性達も帰宅が許可された。ソウサ商会からは帰宅する彼女達の代わりの護衛女性達が送り込まれ、契約している生徒達を家まで送る。


 バルも自分の護衛達と共に、コードナ侯爵邸への帰り道に付いた。



 コードナ侯爵邸では、ラーラが女の子を産んでいた。出産が終わっていたのだ。


 男性達の中でラーラの子を初めて抱いたのは、パノの弟のスディオだった。

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