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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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陣痛、被害、解放

 コードナ侯爵邸に帰り着いてから、ラーラの様子は落ち着かなかった。

 皆がラーラはバルが心配なのだろうと考えていたし、学院襲撃事件の情報集めや対策検討に皆の意識が向いていたので、ラーラの異変に気付くのが遅れる。


 ラーラは陣痛が始まっていた。


 コードナ侯爵家の面々は慌てたが、ラーラの出産の為の用意は既に調えていたし、バルの祖母デドラが指示を出す事で、手筈通りに出産準備が進められて行った。

 ソウサ家とコーハナル侯爵家にも連絡が届き、両家の女性達が出産を手伝う為にコードナ侯爵邸に集まった。



 そんな中、ラーラは陣痛に苦しみながらも、間欠時にはバルの心配をしていた。


「お前は出産に集中しな」


 ラーラの祖母フェリがラーラにそう言う。


「でもバルがどうなってるか、連絡がないのよ?」

「お前が心配してもしなくても、バル様なら大丈夫だろう?バル様を信じらんないんかい?」

「信じてるけど、心配するわよ」


 バルの祖母デドラが肯いた。


「そうですね。陣痛の事はバルには伝わらない様にさせています。伝えれば直ぐに帰って来るでしょう。伝えますか?」

「いえ。バルには襲撃事件の後始末に集中して欲しいです」

「そうよね。早くあちらの件を片付けて貰った方が、色々と安心よね」


 パノの祖母でラーラの養母ピナがそう肯く。


「それに陣痛が始まったって生まれるまでには時間が掛かる。バル様が邸に戻って来てもラーラの傍にはいられないし、やる事もない」

「そうですね。男性は邪魔にしかなりません」

「学院襲撃の件に関わっていて貰った方が、静かで良いかも知れないわね」


 人生経験豊富な女性達三人がノンビリと構える中で、若手の女性達は細々(こまごま)と動く。そして誰も男性達の手を必要だとは思っていなかった。


 邪魔かどうかではなくて、バルがどうしているのか知りたいし、とにかく顔が見たい。

 ラーラはそう主張したかったが、陣痛が始まってしまって言葉に出来なかった。


 パノだけはラーラの気持ちが良く分かっていたけれど、陣痛で苦しむラーラに手を強く握られると悲鳴を(こら)えるのが精一杯で、やはり言葉にはならなかった。



 ラーラの出産準備と襲撃事件の情報収集の所為で、パノの弟スディオがラーラ達を送って来たまままだコードナ侯爵邸にいる事には、誰も意識を向けていなかった。

 スディオもスディオの護衛達も、帰ると言い出して良いのか迷っていた。

 ラーラの陣痛が始まった事をコーハナル侯爵家に報せに行った時に、その連絡役に名乗り出れば良かったのだとは、ピナ達がコードナ侯爵邸に着いてから思った。



 学院では、1年生の平民クラス2クラスが、護衛を装っていた襲撃犯の男達に占拠されていた。

 教室には教師と生徒達と護衛達が閉じ込められている。


 各教室に襲撃犯は4人ずつ。

 どちらも前後のドアに鍵を掛け、どちらも子供二人を人質にして、護衛達に武器を手放す事を要求していた。


 しかし護衛達は一人も剣を手放さない。

 自分の護衛対象を守るのが護衛達の職務であり、それを(まっと)う出来なくなる様な対応は取らない。


 なお襲撃犯は自分の護衛対象の生徒を人質としている。その生徒達を人質として捕まえている襲撃犯達が、元々はその生徒達の護衛だった。



 学院から連絡を受けた王宮は、軍の出動を命じていた。


 教室のドア越しに軍の兵士は、ドアの開放と人質の解放を襲撃犯に命じる。

 しかし襲撃犯達はそれには応じず、逆に要求を伝えた。

 一つはラーラ・ソウサを連れて来る事。

 もう一つは逮捕されている神官と信徒達を解放する事。


 襲撃犯の要求は王宮に伝えられ、どちらも却下される。

 そして神官は一人も逮捕していない事が伝えられた。



「そんな訳があるか!」


 襲撃犯が激高する。


「何人もの神官が不当逮捕されているんだ!」

「まさか、既に処刑したからいないなんて言ってるんじゃないだろうな?!」

「神官の名前を伝えるから、確認させろ!」



 王宮に名前を伝えても、該当者はいないとの回答だった。



「時間稼ぎじゃないのか?」

「それはあるかも知れない」

「どうする?」

「こっちには人質がいるって忘れているんだろう?思い出させてやる」


 襲撃犯の一人が人質生徒の喉元に剣を当てる。


「待て!何をする気だ?!」

「何をって見せしめに犠牲になってもらうのに決まっているだろう?!」


 生徒達から悲鳴が上がる。剣を当てられている人質生徒は「神様」と助けを神に祈った。


「ダメだ。殺したら人質にならない!」

「殺して見せなきゃ言う事聞かないだろう!」

「そうだ!あれだけ人質がいるんだ!何人か犠牲になれば私達が本気だと分かる筈だ!」

「そうだ!私達の本気を見せてやるんだ!」

「待て!それなら子供じゃなくて護衛を見せしめにするんだ!その方が後が楽じゃないか!」

「どうやって?!こいつら武器を捨てないじゃないか!」

「そうだ!二人だけで護衛を捕まえられるのか?!それとも一旦人質を放して、四人全員で掛かるのか?!」

「それはダメだ!また捕まえるのが大変だ!」

「それにそれなら人質二人を殺してから、四人で護衛を相手にすれば良いだろう!」

「しかし、子供を殺すなんて」

「何を言ってる?!」

「今更そんな事を言ってどうするんだ?!」

「その子には罪はない」

「そんな事は分かってる!」

「私達が許されない事をしてるのは分かってるんだ!」

「そうだ!ラーラ・ソウサの所為で、こんな事をしなければならないんだ!」

「そうだ!こんな事したくないのに!ラーラ・ソウサが悪い!」

「そうだ!この子供が犠牲になるのは、ラーラ・ソウサの所為だ!」

「その通りだ!恨むんならラーラ・ソウサを恨め!」


 襲撃犯が人質生徒に囁く。


「心配するな。君は神の教えの為に身を捧げるのだから、天国へ行けるからな」


 人質生徒の首に押し当てた剣を襲撃犯が動かそうとしたその時、ドアが突然開いた。

 子供を殺す事に耐えられなかった襲撃犯の一人が、ドアを開けたのだ。

 しかし軍の兵士は直ぐに動けなかった。ドアが開くなど想定しておらず、咄嗟の事で対応出来なかったのだ。

 そして人質生徒を殺そうとしていた襲撃犯は、ドアを開けた襲撃犯に剣を向けた。


「裏切ったな!」


 その剣をドアを開けた襲撃犯が(はじ)く。

 その金属音でやっと兵士が動いた。ドアから教室内に兵士がなだれ込む。



 その教室の襲撃犯は、4人とも捕らえられた。


 人質生徒を殺そうとしていた襲撃犯の剣が弾かれていた為、その襲撃犯に捕まっていた人質生徒は助かった。

 しかし人質になっていたもう一人の生徒は、兵士の突入に慌てた襲撃犯が剣を持つ腕に思わず力を入れてしまった為、助からなかった。


 閉じ込められていた生徒達の家族は、連絡を受けて学院に集まっていた。

 解放された生徒達は家族と無事再会し、後日事情聴取をする約束で、今はそのまま家族と共に帰宅する事が許される。

 ソウサ商会からは替わりの護衛女性達が派遣されて護衛業務を引き継ぎ、解放された護衛女性達も帰宅が許された。


 亡くなった生徒の両親は、自分達が雇った護衛が我が子を(あや)めたと知り、怒りを向ける先を見失った。



 もう一つの教室でも、要求が飲まれない事と神官を捕らえていないとの回答に、襲撃犯達は憤る。

 そしてこちらには、教室のドアを開ける者はいなかった。


 教室から悲鳴が溢れる。


 ドアの傍で斬られた人質生徒は生きていたが、かなりの量の血がドアの隙間から廊下に流れ出た。

 そして襲撃犯は、早くラーラ・ソウサを連れて来るか神官と信徒達を解放しないと、子供の治療が間に合わないと兵士達を脅した。


 しかし兵士達には王宮に報告する以外には何も出来ない。


 襲撃犯は斬った人質生徒に助けを求める声を上げさせるが、それが聞こえても誰も何も出来なかった。



 人質生徒が亡くなっても効果が無かった為、二人目の人質に手を掛ける事は襲撃犯達も躊躇(ためら)った。


 そして襲撃犯達の立て籠もりは長丁場を迎える事になる。



 バルは守衛からの状況報告を教師と共に教員室で聞いていた。


 そのバルの元にバルの父ガダが訪ねて来た。ガダはバルの着替えと教員達への差し入れを持って来ていた。

 ガダはそれまでの状況をバルに聞くと、連絡要員を残して邸に戻る。

 この時点でのバルもガダも、ラーラの陣痛が始まった事を知らない。

 それなのでバルは邸には帰らず、事態が収拾されるか長く膠着するまでは、学院に残って状況を見守る事にした。

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