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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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帰宅への道

 ラーラのお父ちゃん(こと)ガロンは、ラーラの元に戻ると廊下での話を報告した。


「バル様はご無事です」

「ホント?今どこに?」

「事態の収拾にお忙しく、やはりラーラ様には先に邸に戻る様にとの伝言です」

「会えないの?」

「この場で会うにはもう少し時間が掛かります。それよりもラーラ様の帰宅を望んでいらっしゃるそうです」

「そう」


 目を伏せたラーラにパノが声を掛ける。


「ラーラ。ラーラがここにいるとバルも安心できないだろうから、先に帰りましょう。無事に帰り着いた事を連絡して貰えば、バルも安心するわ」

「そうね」

「ええ、そうよ。じゃあ帰りましょう」


 ラーラが椅子から立ち上がるのを助ける為に、パノが腕を差し出す。


「ごめんなさい、少し待って」

「え?どうしたの?」

「お腹がちょっと」

「え?陣痛?!」

「え?陣痛ってかなり痛いんでしょう?」

「そうらしいわよね」

「痛いって言うより苦しいって感じなの」

「陣痛とは違うの?」

「聞いている話とは違って思えるわ。もしこれが本当に陣痛だとしても、出産の何日も前から痛くなるって話だから、直ぐには生まれないわよ。だから落ち着いて」

「そう?そうよね。私が慌ててもダメよね。でもどう?馬車まで歩けそう?担架を用意させる?」

「ううん、歩く。大分楽になってきたから、そろそろ行けそう」


 ラーラが立つ素振(そぶ)りを見せたので、パノはもう一度腕を差し出した。

 立ち上がったラーラの腰にパノは手を当てて、周りの人達を見回す。


「ラーラが大丈夫なら馬車に移動しますが、皆さんは大丈夫?」


 二人の生徒と護衛達が肯く。


「あの、私はどうしたら良いでしょう?」


 そう教師がパノに訪ねた。


「教員室に私達が帰った事を伝えて頂けますか?」

「あ、そう、そうですよね」

「廊下にいた暴徒達は捕まりましたけれど、まだどこかに残党がいるかも知れません。先程、廊下に守衛がいましたので、守衛に送って貰う事をお勧めします」

「あ、そう、そうですよね。分かりました」


 そう言うと教師は小走りにドアに向かい、廊下に消えて行った。


「ラーラの速度に合わせて進みますが、よろしいですね?」


 二人の生徒と護衛達がまた肯く。


「廊下は見るに耐えない状況なので、ラーラは目を瞑っていた方が良いわ。お腹の赤ちゃんに(さわ)るといけないから」

「そんなに?」

「念の為よ。何かあってからでは遅いでしょう?」

「そうね。分かったわ」

「そちらのお二人も教室から出る時は、目を瞑って行く事をお勧めします。この教室の近くは危険が排除されているので、少しの間だけなら護衛の手を塞いでも大丈夫です。手を繋いで貰って目を瞑った方が良いでしょう」

「パノは?」

「私はもう見てしまったから大丈夫。ラーラの手を握っているわ」

「ありがとう。ごめんね」

「良いのよ。任せて」


 そう言ってパノはラーラに微笑みを向けた。



 教室から馬車までは、危険な事は起こらなかった。


 馬車に着いて、ラーラとパノはコーハナル侯爵家の馬車に誘導される。

 中からパノの弟のスディオが迎えに降りて来た。


「姉上!義叔母(おば)様も、無事で良かった」

「スディオもね。サグを寄越してくれてありがとう。助かったわ」 

「いえ。急いで出ましょう。この馬車で送ります」

「え?私達の馬車ではなくて?」

「コードナ侯爵家の馬車ですと、襲われるかも知れません」

「え?」

「大丈夫よラーラ。念の為よ。コーハナルの馬車で帰りましょう。でもちょっと先にガロンと乗ってて。私は少しスディオに話があるから」


 そう言ってパノはラーラとガロンを先に馬車に乗せると、一旦扉を閉めた。 


「姉上、何の話でしょうか?」

「コードナ侯爵家の馬車が襲われるかも知れないって、良く考え付いたわね?凄いわ」

「え?そうですか?それほどでもありませんよ」


 スディオは笑みが漏れそうになる所を懸命に我慢して、平静を装う。


「でもラーラを不安にさせたらダメよ?他の言い方があったでしょう?」

「え?言い方ですか?」

「そう。例えばコードナ侯爵家の馬車はバルが帰る時に使うだろうから、コーハナルの馬車で送るとか」

「あ・・・」


 スディオは「申し訳ありません」と頭を下げた。その頭をパノが撫でる。


「いいえ。でも次からは気を付けなさい。わざわざ拾い上げる程の失敗ではないし、私も難しい要求をしているわ。でも失敗だと気付けば、スディオならもっと色々と気を配れる人になるだろうからね」


 そう言われてスディオは顔が上げられなかった。

 自分の至らない点に気付きもしなかなかった事が恥ずかしかったし、誉められて期待されている事は嬉しかったし、頭を撫でられている事は嬉しくて恥ずかしかった。


「でもコードナ侯爵家の馬車の襲撃って、あり得るかしら?」


 スディオの頭から手を離してパノが小首を傾げる。顔を上げたスディオが質問した。


「護衛だった男達の狙いは、やはりラーラ義叔母様だったのですか?」

「ええ。ラーラの教室に押し寄せて、ラーラを出せと言っていたそうよ」

「どうやって護衛として紛れ込んだのか分かりませんが、かなり難しい事ですよね?」

「ええ、そうね。かなりの無理をしていると思うわ」

「それなら馬車の襲撃はあると思います。護衛として潜り込むより簡単ですし、学院外での襲撃の方が人数を集め易いでしょうから」

「なるほど。そうね。ただの通行人の振りをして、帰り道で待ち伏せるだけだものね」

「はい」

「それならコードナ侯爵家の馬車には、先に帰って貰いましょう」

「え?バルさんを待たずにですか?」

「一度帰ってからまたバルを迎えに来て貰えば良いじゃない。もし襲撃犯が待ち構えているなら、コードナ侯爵家の馬車に囮になって貰えば、ラーラは安全に送り届けられるしね」


 傍で待機していたコードナ侯爵家の護衛達も、パノの案に賛成する。

 スディオは慌てた。


「え?危険ではありませんか?」

「危険だからやって貰うんじゃない。間違ってコーハナルの馬車が襲われたら意味がないでしょう?」

「それはそうですが」

「馬車に人が乗らなければいつもよりスピードが出せるし、相手が馬でも逃げ切れるわよ。ね?」


 パノの言葉に護衛達が肯く。


「コードナ侯爵家の馬車が出てから少し時間を置いて、私達は出ましょう。一旦コーハナル邸を目指して、回り込んでコードナ侯爵邸に向かいます」


 そのパノの言葉にも護衛達が肯いた。


 スディオは、やはり姉上には敵わない、と思ったが、パノの事が誇らしくて嬉しくも感じていた。



 コーハナル侯爵家の馬車がラーラ達を乗せて、遠回りしてコードナ侯爵邸に着いた時にはまだ、先に学院を出発したコードナ侯爵家の馬車は到着していなかった。


 コードナ侯爵家の馬車は途中で、待ち構えていた襲撃犯に襲われていた。しかし馬に乗っている者はいなかったので、護衛達が道を切り開らくと、襲撃犯達は馬車に付いて来られなかった。

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