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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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コーカデス侯爵の帰還

 リリの父リートと母セリと姉のチェチェが王都を目指して進むにつれ、王都の新しい情報を得る事が出来た。


 まだ王都にもどった貴族家はない。

 しかし王都の情勢は日々安定して来ているので、いつ誰が戻るか分からない。


 そこでコーカデス侯爵であるリートが、馬で先行して王都に戻る事になった。セリとチェチェは途中の街に(とど)まり、リートに付いて行く護衛が戻ってから、改めて馬車で王都を目指す。



 王都に戻るとリートは王宮に直接向かった。国王との謁見を申し込んでも時間が掛かると考えたからだ。

 謁見の申し込みを終えると、セリとチェチェを迎えに行く護衛を送り出し、使用人に宿の手配をさせる。

 その間にリートは王都のコーカデス邸を見に行った。


 邸の外から門扉と玄関扉と窓が壊されているのが分かる。

 邸の中では階段が焼け落ちている以外は放火の被害は少なかった。何もかもが持ち出されてから火を着けられた様だ。


 リートは使用人達に、邸の修理の手配と食糧と薬品の買い占めを指示した。


 王都内のホテルは営業を再開していない所が多く、営業をしている所は王都に物品を運ぶ商人達で満室だった。

 そこに侯爵家の権力で、部屋を空けさせる。


 また、買い占めた物を保管する倉庫も空けさせた。

 買い占めにも権力を使う。開いている店舗から、食品と薬品を次々とを運び込ませた。


 ただしソウサ商会は対象から外している。リートはソウサ家を儲けさせる気は無い。

 しかし実際には他の店がソウサ商会から仕入れていたりもする為、ソウサ商会の売上に繋がっていた。



 ソウサ商会では、安定して来ていた王都の物価が上がり始めた事に直ぐに気付いた。


「買い占めだね」


 ラーラの父ダンが、他の商店からの注文が増えている事を見て指摘する。

 ラーラの祖母フェリが「ふん」と鼻を鳴らした。


「コーカデス侯爵が王都に戻った途端にだ」

「複数の店から一斉に注文だ。ウチに直接来ないのは、やはり意地があるのか」


 ラーラの祖父ドランの言葉にフェリは「はっ」と息を吐く。


「どうだって良いだろう?」

「そうでもないよ。それらの商会に金を流すのが目的かも知れない」

「だから、コーカデス侯爵家の目的なんて、どうでも良いって言ってんのさ」


 ダンの言葉にフェリが反発した。


「このままじゃ品不足が起こるじゃないか」

「コードナ侯爵やコーハナル侯爵に対応して貰うか」

「それも良いけど、ソウサ商会でも対応を取りたいな」

「対応?他の商店に売らないのかい?」

「それも含むけど、店舗では注文だけ受け付けて、必要な分だけ配送しよう」

「必要な分てなんだい?」

「各店舗では、お客さんの家族構成は知ってるだろう?だから人数に合わせた商品を家に届けるのさ」

「えらい手間じゃないか」

「今は倉庫と店舗の両方に護衛を置いているだろう?店舗に商品を置かないなら、倉庫だけを守れば良い」

「なるほどな。店員も少なくて済むし、倉庫から店舗への配送も要らなくなる。その従業員達を配達に回せるな」

「なるほどね。良いんじゃないかい」

「それに慣れて貰ったら、店舗も閉めてしまおう。配達しながら注文を取って来れば良いんだから」

「常連にしか売らないのかい?」

「配達しながら新規注文の受け付けもすれば良いさ。その時に家族構成を確認すれば、変な誤魔化しもされないだろう?」

「そうだな。良いアイデアだ」

「良し、早速実行だよ」


 そう言ってフェリが事務室から出て行く。そのまま従業員達を集めて説明する積もりだ。

 その様子を見てダンがこぼした。


「私のアイデアなのに」

「フェリのせっかちはダンが生まれる前からだから、いい加減諦めろ」


 ドランはそう言うとフェリの後を追う。

 ダンは肩を竦め、席を立って自分も後を追った。



 そしてコーカデス侯爵家の買い占めとソウサ商会の売り惜しみで王都の物品が不足すると、再び信徒会による強奪が始まった。


 しかしソウサ商会の新しい販売方式は、人々に余分な食糧などを貯め込ませない事で、王都民に対する強奪を抑える効果があった。

 狙われるのはソウサ商会の倉庫と、ソウサ商会とは別の独自流通ルートを持った商会になる。


 そして今は警備隊も軍隊も治安維持に人を割けている。犯人は次々と捕まり、強奪は直ぐに減って行った。

 ただしそれに反比例する様に、神殿で亡くなる人は少しずつ増える。



 コーカデス侯爵家配下の貴族家も王都に到着すると、ホテルに部屋を空けさせて滞在した。

 そしてコーカデス侯爵家の買い占めを手伝う。

 食品や薬品は不足する様になり、体力の低下した王都民の間に伝染病が広がり、神殿以外でも亡くなる人が増えて行く。



 王家にその情報が届くと国王は即座にリート達を召喚し、買い占めの禁止と買い占めた物を放出する事を命じた。

 それと共に各貴族領に、貴族達の王都への帰還を禁止する命令を出す。


 リートとしては、他貴族家の王都帰還を妨害する為に買い占めをしていたので、目的を達したと言える。

 その上、文官を王宮に派遣して、業務を手伝わせる事にも成功した。



 セリとチェチェが王都に到着すると、ホテルのレストランを貸し切って、コーカデス侯爵家主催の晩餐会を開いた。

 リートはソロン王子を始め王族も招待していたが、誰からも応否の回答は来ない。王族はそのまま誰も出席しなかった。

 その為、参加者はコーカデス侯爵家配下の貴族のみとなったが、王都に戻って最初の社交の場を取り仕切ると言う目的は果たせた事になる。

 それからセリとチェチェは茶会を中心に、王都での社交を進めて行った。



 リートは買い占めた商品を売った商人達に買い戻す事を命じたが、それは上手く進まなかった。


 売値で買い取らせる事は、リートにしてみれば譲歩だ。倉庫で保管して置いてやったのだから、保管料を取らない事を商人達が感謝するだろうと考えていた。


 しかし商人達にからすると、コーカデス侯爵家で借りている倉庫に商品を取りに行かせられるのも手間でしかない。売値には配達料も含んでいたけれど、売値で引き取るなら往復分の配達料を商人側で負担する事になる。

 そもそも商人達の倉庫には、新たに仕入れた商品が積まれている。買い戻した商品の置き場にも苦労する。


 商品の放出は国王からの命令だ。

 それなのに中々買い戻しが始まらない事に痺れを切らせたリートは、倉庫の契約を打ち切り、これ以降は各商人達に倉庫費を払う様に命じた。

 そして倉庫から護衛を引き上げた。


 その直後に倉庫の商品を引き取り始めたとの報告を受けて、リートは自分の取った策が狙い通りに進んだと思うと共に、商人に言う事をきかせる方法を手に入れたと思った。


 そして商人達から代金を回収しようとして初めて、商品を引き取ったのが商人達ではないと気付く。

 商品を運び出したのは、信徒会だった。

 コーカデス侯爵家では、平民が貴族である自分達を騙す事があるなどとは考えていなかった。


 信徒会が騙し取った商品は各神殿に届けられ、信徒達に配られた。

 盗難の届け出を受けた警備隊が犯人達を捕らえた時には、食糧は消費済みで、薬品もそれほど残っていなかった。


 コーカデス侯爵家は神殿に代金を請求するが、神殿側は寄付として受け取っていたので支払には応じられないと回答する。


 コーカデス侯爵家に取っては大した金額ではないが、金を回収出来なかったとなれば、貴族としての体面に関わる。

 平民に嵌められただけでも外聞は悪かったが。


 コーカデス侯爵家は犯人達の罪が確定したら、賠償金請求を行う事にした。

 しかし誰もが、犯人達が一生働いても返せない金額だと思った。

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