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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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学院が再開した王都の状況

 王宮は王都民が少しでも正常な日常を感じられる様にと、特に優先順位を付けずに再開出来る業務から再開していった。


 その為、学院も早くから再開された。

 しかし通学する者は僅かだった。



 コウバ公爵領には行かずに王宮に残っていたニッキ・コウバは、学院の再開とともに通学を始めた。

 ソロン王子は王都の被害対応で、王家や王宮の業務に手を取られて学院に登校出来ない。

 一方ニッキは王宮にいてもする事がない。王家とその周囲が忙し過ぎて、ニッキに政務を教えながら手伝わせる余裕が無かったからだ。ソロン王子とも朝食の時に話が出来るだけだった。

 それなので、王都民に日常を示す為だとして、ニッキは学院への通学を勧められたのだ。


 ニッキのクラスには、他に誰も出席していない。

 昼食は王族用の食事室を使う為、ニッキ一人で摂る。

 これで日常をアピールしている事になるのか、ニッキは疑問に思っていた。



 そして、ラーラとバルとパノと、コードナ侯爵派とコーハナル侯爵派の生徒達も、学院に戻っていた。

 バルとラーラは邸を焼かれていた為、コードナ侯爵邸からの通学だ。


 今の学院内で生徒の集団を見掛けたら、その中には必ずラーラが入っている。


 ニッキは国王から、ラーラには関わらない様に厳命をされていた。

 それなので生徒を見掛けたり声が聞こえたりしたら、直ぐに離れる様にしていた。

 ニッキはラーラ達から逃げて回っていたのだ。



 ニッキがラーラ達を避けても、相手が待ち伏せている場合がある。それは登下校の時だ。


 王都に残るいずれの貴族家も、王都内の移動時の護衛は強化をしていた。それは生徒達の通学でも同じだ。

 各貴族家の護衛がまず一軒の邸に集まって、その家の生徒が乗る馬車を全員で取り囲み、次の邸に向かう。次々に生徒の乗る馬車を迎え入れて、一団となって学院に向かった。


 そして登校時の最後には王宮の前で、ニッキの乗る馬車を待った。

 ニッキの馬車と護衛と共に、貴族家生徒の一団も登校する。


 下校時は、ニッキを王宮まで一団で送ってから、それぞれの家に順番に生徒を送り届けた。そして最後の邸に着いて、護衛達は各家に戻る。


 生徒達も護衛達もニッキ達には何も話し掛けて来ない。しかしこれは王家とコウバ公爵家に、無言で恩を売っている様なものだとニッキには思えた。

 その事はソロン王子には報告してあるけれど、王家にとっての優先順位が低く、対策が必要な事かどうかの検討もされていなかった。

 取り敢えず貴族家からは何も言って来ないし、ニッキの安全を考えれば望ましい事なので、ソロン王子はそのまま様子を見る様にとニッキに命じた。



 王宮の前でニッキの乗る馬車を見送りながら、ラーラは呟いた。


「避けられているわよね」


 隣に座るパノがその小さな声を拾う。


 パノは今、コードナ侯爵家の離れで、バルとラーラと一緒に暮らしていた。そのお陰もあってラーラとの距離は縮まり、最近のラーラはパノが体に触れても平気になった。ただしパノは今も、ラーラの体を掴んだりしない様には気を付けている。


 パノはラーラに向かって言った。


「王族にはラーラに近付かない様にと、国王陛下から厳命が下っているらしいわ。ニッキ様も言われているのかもね」

「え?私に近付くな?」

「何でだ?ラーラが怖がるからか?」


 向かいに座るバルが首を傾げる。


「理由は分からないらしいわ。王冠がまた壊されたら困ると思っているのかもね」

「あれは私が悪かったの?」

「悪いのは前コーカデス侯爵閣下だけれど、ラーラを敵視した人達は皆、ろくな事を仕出かしていないでしょう?巻き込まれない様に王族の皆様に、警戒させている可能性はあるわよ」

「そう言えば先日の謁見の時に、国王陛下は一言も喋らなかったわ」

「国側の代表としては宰相が、最初から最後まで進行させたのでしょう?陛下は意見も言わなかったの?」

「ええ。少しの声も出さなかったの」

「ラーラは徹底的に警戒されているのね」

「そうなのかしら?」

「少しでも敵意を見せれば、ラーラから反撃されるって思っているのかも」

「敵意?陛下がラーラに敵意を持っているのか?」

「落ち着きなさいよバル。ラーラが怖がるわ」

「大丈夫だけれど、バル。落ち着いて」

「悪かった。しかし陛下がなぜ、ラーラに敵意を持つのだ?」

「例えばよ、例えば。他の理由かも知れないし、ラーラの人気が凄かったから恨みを買ったかも知れないし」

「私の人気って、もう終わったのに?」

「今回の件で、コードナ侯爵家もソウサ家も、また評判を上げたからね。王様って権力を持っていても、国民に人気がないと治世が大変になるから、人気には敏感だと思うわ」

「そうなのね」

「人気に敏感なのは神殿もだな」

「そうね。バルとラーラは神殿で結婚式を挙げなかった事から目を付けられていたのもあるだろうけれど、神殿で挙げなかった事自体が劇のお陰で世間に有名になっていたものね」

「そうなのか?」

「ええ。それで真似をする人達がかなりいたらしいわ」

「真似って、結婚式を挙げない夫婦が?」

「ええ。神殿としては(ほう)って置けないでしょう?」

「売り上げにも響くものね」

「神殿も売り上げって言うのか?」

「違う?御利益?」

「なんて呼んでいるかは知らないけれど、きっと収入は減っていたわよね。けれどラーラの人気が落ちたので、神殿の人気を取り返すチャンスだとして、今回の騒ぎを起こしたのでしょうね」

「人気の為にこんな事を・・」


 そう言うラーラの目には、馬車の窓から火事の跡が映っている。

 パノがラーラを気遣いながら言った。


「火事は神殿とは関係ないらしいけれど」

「そうね。信徒会とも関係ないらしいし」


 肯きながら返したラーラの言葉に、パノが小首を傾げる。


「信徒会?それって何?」

「神殿信徒の集まりですって」

「神官達の手が回らなくなって、信徒達が自分達で出来る事を手伝い始めたのが最初らしい」

「それで信徒達の代表として神官に話を伝えたり、神官からの話を信徒達に伝えたりもしていたそうよ」

「なるほど。その代表者が権力を持っちゃって、色々やり始めたのね?」

「ああ。食糧や薬の強奪は信徒会が行っている」

「悪魔のラーラを産み出したソウサ商会は、不当に物価を吊り上げて人々を苦しめているから、物を奪っても良いのですって」

「それを言っているのが信徒会なのね」

「ソウサ商会に対する不買運動も起こしている」

「信徒会の人達はソウサ商会以外から買うけれど、そこは結局ソウサ商会から仕入れていたりもするから、商品の値段が上がるのは当然なのにね」

「それで高いからって強奪するのは非道い話だよな」

「その時に信徒会の人が門や玄関を壊すけれど、食糧や薬だけ奪って出て行くのですって」

「その時点では怪我人もそれほど出ていないらしい」

「その後から強盗が金品を強奪するみたい」

「門も玄関も壊されているから、短時間に何度も強奪を繰り返されて、守る方も怪我もする」

「それでめぼしい物がなくなると、火を着けるそうよ」

「非道いわね」

「火を着けるのは、盗り終わった合図だって話もあるな」

「なにそれ?ホント非道いわね!」

「ホントよね」

「そうだな」



 今も煙が上がっている所がある。


 死者の弔いや瓦礫の片付けを担当していた警備隊も軍隊も、王都の治安回復に当たる人数を増やし始めていたので、強奪は減ってはいた。

 しかし王都の治安の悪さを嫌って、王都を離れる人もいる。

 そして空き家になった家屋に、無意味に火が着けられる事もあった。



 王都の人口は減り続けている。


 王都の封鎖を解放した時に、王都の5パーセントの住人が出て行った。

 それは暴徒として捕まる事を恐れた者達だけではなく、生活を破壊されて知人や実家を頼る人や、王都の外に安全を求めた人達も含まれる。


 死者は1パーセントほどだった。

 身元が分からない事が多く、亡くなっていた場所に住んでいた人と連絡が付かなければ、本人が亡くなったと判断された。


 その後も日々多くの住民が王都を離れている。

 行き先の当てを持たない人達も多かったが、その人達はコードナ領等の王都に残って王都民を助けていた貴族領を目指す事が多かった。

 そしてその人達は、護衛を連れたソウサ商会の行商隊と同じ道を通った。

 ソウサ商会の行商隊の馬車は速度が早く、王都から移動する人々が付いて行くのは難しいが、ソウサ商会の馬車と護衛は次々と通るので、盗賊達も手を出さなかった。


 そして王都民が減った事で、食糧の消費と供給が釣り合い、強奪は行われなくなった。



 その状況の王都に、コーカデス侯爵家とそれに(くみ)する貴族家が、王宮の業務を手伝うべく戻って来た。

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