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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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コーカデス領から見た王都情勢

 コーカデス家の皆が久し振りに集まった。

 しかしその場にリリの兄スルトはいるが、スルトの妻フレンは体調が思わしくないとの事で同席していない。


 リリの父のコーカデス侯爵リートが口を開く。


「王都の様子を見に行かせた者が帰って来た」

「随分と掛かりましたね」


 リリの母セリが無表情でそう言った。


「途中に盗賊が出たりして、行きも帰りも時間が掛かったそうだ」

「イヤだわ、盗賊なんて」

「それで父上?王都の様子は?」


 スルトがセリの声に被せる様に、リートに尋ねる。


「邸は焼け落ちていたそうだ」

「邸?コーカデス家の王都邸ですか?」


 セリの言葉は早口になっていた。


「邸を守らせていた者達は何をしていたの?」

「死んでいたそうだ」

「え?」

「王都邸に残した使用人の何人かは死んだ事が確認出来たそうだ。残りは行方が分からない。身元不明で埋葬されたのかも知れないし、生き延びているかも知れない」

「行方が分からないなんて、探して来なかったのですか?」

「探し出すのに時間が掛かりそうだから、報告に帰る事を優先したそうだ」

「なんて事なの。焼け落ちたって、邸に残してきた物も駄目になったって事?」

「そうだな」

「宝石やアクセサリーも?」

「焼け跡には残っていなかったらしい」

「なんて事なの」


 セリはそう言うと、手で顔を覆った。

 スルトがリートに訊く。


「犯人は捕まえているのですか?王都の噂を聞くに、放火ですよね?」

「誰が放火したのか分からんそうだ」

「分からない?放火なのに捜査をしていないのでしょうか?」

「それも分からん。門や玄関を壊したやつは捕まっているそうだ。しかしそいつは食糧を盗んだだけで、殺しも放火もしていないと主張しているとの事だ」

「そんなの、そいつがやったに決まっているわ!」

「その犯人は貴族なのですか?」

「さあな。何故だ?」

「貴族なら家が庇えば、殺人や放火は罪に問えなくなるかも知れません」

「貴族なら食糧を盗んだりせんだろうし、それを認めるとは思えん」

「それもそうですね」

「そいつから宝石を取り返さなければならないわね」

「盗んでから火を着けるだろうから、焼けずにある筈だな」

「ええ」


 セリとリートは肯き合った。

 スルトがまたリートに訊く。


「王宮の様子は?」

「王宮は警護が堅く、中の様子は分からなかったらしい」

(はい)れなかったのですか?」

「ああ。伝手を頼る事も出来なかったそうだ」

「コーカデス家の名を遣っても?」

「ああ」

「そんな事、許して良いの?」

「許せんが、王宮内は手が足りてなくて、何をするにも待たされるそうだ」

「手が足りないって、どう言う事なの?」

「言葉通りだ。今回の騒動の後処理も大変らしいが、今も治安が回復していないから仕事は多い。その上、被害に遭った文官もいて、人手が減っているそうだ」

「被害って言っても生きているのでしょう?何で仕事をしないのかしら?」

「分からんな。しかしそれに付け込んで、コーハナル家などが文官を王宮に派遣しているらしい」

「なんだと?」


 リリの祖父の前コーカデス侯爵ガットが低い声を出した。


「そんな事を許したら、コーハナル家が国政を好き勝手に出来てしまうではないか?」

「ええ。それなので我が家も王都に戻り、文官を派遣しましょう」

「ああ。私が行こう」

「いえ、父上。私が行きます」

「王都もそこまでの道中も治安が悪いのだろう?お前に何か遭ったらどうするのだ?」

「それは父上もでしょう?」

「私は引退した身。まあ易々と悪人共にやられたりはせんがな」

「いいえ父上。今は止まっている社交が王都で再開されれば、私は王都に戻らねばなりません。それならば先に王都入りして置き、最初から顔を出して貴族界の流れをコントロールします。父上はここに残って、領地を見て下さい」

「確かに社交を考えると、謝意を示して爵位を譲った私より、現侯爵が王都にいた方が良いな」

「ええ。それに今なら、王都に一番に戻った貴族との名誉が手に入ります。王家への忠誠を示す手段に出来るでしょう」

「なるほど。分かった。リートに任せよう」

「ええ。お任せ下さい」


 ガットと肯き合ったリートは、視線をセリに向けた。


「セリも一緒だ。社交が始まった時に、いて貰わないと困る」

「そうでしょうね」


 リートは視線をチェチェに移す。


「チェチェも一緒に王都に戻るぞ」

「チェチェも?リート、チェチェも社交に出すの?」

「いや、チェチェにはソロン殿下との関係を強めて貰う。食糧を買い占めるなど王都の状況をコントロールして、他の貴族家は帰って()(づら)くする積もりだ。コウバ公爵家も領地に帰っている。ソロン殿下とニッキ・コウバが離れている隙に、王都でのコーカデス家の評判を上げ、ソロン殿下の婚約者をチェチェに差し替える」

「そんな事、出来るの?」

「可能性はあるだろう?ならやるべきだ」

「そうだな。私もその意見には賛成だ。領都に残る者の事は心配ない。任せろ」

「ええ、お任せします」


 リートとガットは強く肯き合った。

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