広がる炎
火事と死者が出ます。
いいわけ回です。
後書きに粗筋を書きます。
コードナ侯爵邸に辿り着いた群衆は、直ぐに塀を乗り越えた。
塀の内側では騒ぎに気付いていた護衛達が、侵入者を次々に捕らえる。その為、コードナ侯爵邸の門扉が開く事はなかった。
王宮にこの騒動が伝わると、コードナ侯爵家に騒ぎを治める様にとの命令を伝える使者が送られた。
この使者はバルとラーラの邸ではなく、コードナ侯爵邸を直接目指す。
その使者の乗った馬車は、コードナ侯爵邸のかなり手前で群衆に阻まれた。しかし戻る事なく、群衆の中に馬車を進める。
王国の使者の行く手を妨げるのは不敬だと馭者が大声で叫んでも、喧騒の中にいる群衆の耳には届かない。馬の蹄や馬車の車輪が人々を踏んで進む。
直ぐに馭者は引き摺り下ろされ、使者は引き摺り出され、群衆に暴行を受けた。
使者達はその後、その場所を通る群衆に踏み続けられる。密集して進む群衆には足下は見えず、何を踏んでいるのか分からずに、ただ踏み越えるだけだった。
神官が先頭に立つ群衆が火を付けて回っている、との報告が神殿に届く。
神官と共に抗議に向かっているのは敬虔な信徒達だ。そんな筈はない。
そう神殿では判断したが、煙が上がっているのを見れば、確かに火事が起きている事は分かる。
確認に人を向かわせると、あちらこちらで破壊と略奪と放火が起こっていた。
抗議に向かった神官達を探すが、バルとラーラの邸付近には見当たらない。
周囲には暴徒しかおらず、住民達は門も玄関も硬く閉ざして表には出て来ない。その為、神官達の行方を尋ねる事も出来ずに、時間は過ぎていった。
その間に、各神殿にも続々と報せが届く。
その中には神官達がコードナ侯爵邸に向かったとの情報もあった。
神殿からは事情を確認する為の遣いがコードナ侯爵邸に向けられ、大神殿にもそれまでに届いた情報が伝えられた。
火を付け回っている信徒達がコードナ侯爵邸を取り囲んでいるかも知れないとの報告を受けた大神殿の神官達は驚いた。
それが大神殿長に報告されると、大神殿長は直ぐにコードナ侯爵邸を訪れる為に、自分で馬に乗って大神殿から飛び出した。
貴族が絡むなら大神殿の出番だ。
慌てた神官達が大神殿内で馬に乗れる者達を集め、大神殿長の後を遅れて追わせた。
コードナ侯爵邸が取り囲まれている事は、警備隊からも国に報告される。
王宮では城下で火の手が上がっている事も報告された。
コードナ侯爵邸に向けた王国の使者は、一向に戻ってこない。
その為国王はコードナ侯爵邸に向けて、軍隊を派遣させる事を許可した。
大神殿長が群衆の近くまで辿り着くと、直ぐに馬から引き摺り下ろされた。
しかしそれが神官だと気付いた信徒達が、大神殿長を守ろうと動く。群衆の中で揉み合いが起こり、殴り合いや暴行が始まった。
信徒達は大神殿長に辿り着くと、その周りを囲んで大神殿長を守った。
一人の信徒が大神殿長である事に気付き、信徒達は大神殿長を担ぎ上げた。群衆の中で大神殿長の姿に気付いた信徒達が大神殿長の下に集まり、大神殿長を守る集団は大きくなって行った。
大神殿長の馬を追って来た者達は、大神殿長を見つけたが少しも近寄れず、間もなく馬から引き摺り下ろされた。
そこに軍隊が到着する。
この国の兵士達は戦争の経験がない。この場に到着した兵士も実戦経験がなかった。
その為、普段の訓練通りに全力で群衆を倒して行った。兵士達は剣を抜刀せずに鞘で殴る他に、手加減は習っていなかった。
信徒以外の群衆は兵士の到着とその暴力に気付くと、近付かない様に距離を取り出し、その場を離れるタイミングを計るようになった。
しかし信徒達は大神殿長を置いて逃げられない。兵士は信徒達を次々に打ち倒して進んだ。
軍隊の後には警備隊が続き、その場から逃れようとする者達を捕らえて行く。ただし全員を捕まえる事は出来ないし、別の場所で掠奪を働いている暴徒達には手が届かない。
軍隊に気付いた暴徒達は、掠奪を中断してその場を逃げ出す。
そして、王都の外縁部で放火による火の手が上がる。
王都の中心近くの邸は石造りになっており、敷地も広く取られている為、火事で延焼する事はない。
しかし外縁部は木造の住宅や店舗が密集していた。
外縁部の延焼は堀で防げる筈だった。
堀に囲まれた区画内には火事が広がるが、堀で区切られた隣の地域には炎が届かない様に設計されている。
王都内に散らばる軍の各隊と各警備隊に、コードナ侯爵邸周辺の暴動鎮圧が命令が届いた。
一部の警備隊は命令違反の叱責覚悟で、住民の避難や消火の援護に向かう。しかし大多数は、火事に気付いてもその場を離れ、命令通りにコードナ侯爵邸を目指した。
外縁部の火事に気付いた王宮は、軍隊と警備隊のそれぞれに、住民の避難を助ける様にと新たな命令を下した。
その命令を持った遣い達がコードナ侯爵邸を目指すが、その手前で群衆に捕まり暴行を受けて倒れる。
堀で区切られた区画を越えない筈の炎は、隣の区画に燃え移る。
それは堀の両岸に立てられたテントの所為だった。
王都に流れて来た貧民達は、堀の脇にテントを立てて暮らしていた。
そのテントに火が着いて燃え上がり、風に煽られて反対岸のテントに燃え移り、そこからその区画の住居や店舗に燃え広がった。
最初の命令に従わずに火事現場に駆け付けた警備隊は、直ぐさまテントを堀に落とした。
テント暮らしの貧民達はそれに抵抗するが、警備隊員達は力押しする。
普段はテント民達の事を見て見ぬ振りをしているが、警備隊が守るべき王都民にテント民は含まれない。
そしてテント民の抵抗に遭い、堀に落ちる警備隊員が出た。落ちた仲間を助け様とする警備隊員達も次々と堀に落とされる。
警備隊員達は金属の兜と胸当てを着けている。それを外せば泳げるかも知れないが、水中で装備を外す訓練はしていなかった。
炎が迫る中、その様子を見ていた王都民達が、テント民達を追い込んで堀に落とし始める。テントも一緒にだ。
その様子は段々と伝わって広がり、火事の恐れのない区画でもテントとテント民が堀に落とされた。
そして火事の広がっている区画では、炎の熱さから逃れる為に自ら堀に飛び込む者も現れた。一人が飛び込むと釣られる様に、次々と人が飛び込んだ。
しかし自力では堀から上がれない。
堀に浮かぶ人影は、続々と増えていった。
実戦に慣れない兵士から、剣を奪う信徒が出る。
信徒が剣を抜くと、軍の隊長も部下達に抜剣を命じない訳には行かなかった。
信徒達は剣や盾を奪う事を優先し、次々と兵士を無力化して行く。剣を奪われた兵士に、隊長は槍を持たせて応戦させた。
その喧騒の中、争いを止めようと割り込んで来た神官が切り付けられる。
そして倒れたのが神官である事に気付いた兵士と信徒は動きを止めた。
その狭い範囲の僅かな静寂に、大神殿長と軍の全体を指揮する指揮官の声が届く。
声は何度も繰り返され、戦いを止める兵士と信徒が増えて行った。
兵士と信徒の戦闘が止んだ辺りには、目を眇め鼻を摘まむ必要がある状況が残されている。
そして少し離れた所では、破壊と略奪と放火が続いている。
王都外縁部では火災が広がり続け、その炎から離れた延焼をする筈のない区画でも、新たな放火による火の手が上がっていた。
大神殿長と軍の指揮官は説明を求めようとコードナ侯爵邸の門を敲くが、中から応えはなかった。
暴徒鎮圧の為に軍が出動し、神殿信徒と衝突する。
放火による火災が王都外縁部に広がって行く。




