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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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少女達の結論

 レントとマッシ・シロントとセラム・シンコクをあれこれ比べていた少女達が、一斉に視線をスーノ・シロントに向けた。


「スーノさんは?」

「え?」

「スーノ殿はどなたが良いと思います?」

「先程も申しましたが、わたくしのお相手は爵位を嗣がない方になりますので」

「それは聞いたわ」

「それはそれとして、スーノ殿はどなたが良いと思うの?」

「ですから」

「だから、例えばの話よ」

「そうよ。もし御自分でお相手を選べるとしたら」

「スーノ様がもし三人から同時にプロポーズをされたとしたら」

「「「きゃー!」」」

「どうする?」

「どうしましょう?」


 盛り上がりを見せる少女達の会話は、スーノには虚しく思える。

 貴族家に生まれたからには結婚は、自分の願望より家の都合だと教わる筈だ。跡取りなら多少の望みは叶えられるだろうけれど、傍流はそうはいかない。ましてスーノの伯父ワイス・シロントがスーノの要望を聞いてくれるとはスーノには思えない。却ってスーノの望みを知ったなら、例えスーノの祖父タイス・シロント子爵が認めた相手でも、ワイスは反対して取り消させる様にスーノには思えた。


「どうする?スーノさん?」

「どうなさいますか?」

「どうしましょう?」

「今も申しました通り、わたくしのお相手は」

「それはシロント子爵家が選ぶ話でしょう?」

「そうではなくて、三人からプロポーズされたら、スーノさんは誰を選ぶの?」

「ですから」

「ですからスーノ様?もしもです」

「もしもプロポーズされたらよ」

「状況に依っては、爵位を持つ方との結婚が許されるかも知れないではありませんか?」

「そうなったらマッシ・シロント様ですか?」

「コーカデス閣下よね?」

「セラム・シンコク殿は、スーノ殿的にあり得るのですか?」


 虚しい。


「もしそうなったとしたら」

「そうなったとしたら?」

「マッシがわたくしにプロポーズをすると言う事は、シロント子爵家の許可を取っていると言う事ですから、わたくしはマッシの手を取ります」

「「きゃー!」」

「ちょっと待って!」

「それは、マッシ・シロント様を好むからではなくてですか?」

「家の都合だからと言う事ですか?」

「もちろんです。わたくしはシロント子爵家の人間ですので」


 少女達の視線はスーノに集まったまま、場が静まった。

 そしてスーノは失敗を悟る。何を間違えたのかは分からないけれど、何かを間違えたのだ。

 だがこのままではいけない。少女達がレントやセラムに興味を持っている事が分かったのだ。スーノはこれを少しでもなんとかしたい。自分の事を思えばなんとかしなければならない。

 スーノが考えを巡らせていると、一人の少女が視線を下げて呟いた。


「それはわたくしもですけれど」


 その一言で少女達が皆、視線を下げる。


「家格が合う人の中からお相手が選ばれるのは、貴族家に生まれたからには仕方がないわよね」

「ええ」

「そうですね」

「でもどうしても、令息達を比べてしまうわよね?」

「そうですよね?」

「あの方ならこうで、この方はこうって」

「コーカデス閣下もマッシ・シロント様もそうですけれど、爵位を嗣ぐ事が決まっている御令息達は、ゆったりとおおらかですよね」


 そうだろうかとスーノは小首を傾げた。


「そうよね。皆様、当たりが柔らかいし」


 スーノはワイスを思い浮かべる。


「ゆとりを感じるわよね」


 スーノはワイスからゆとりを感じた事はない。ゆとりって何だったかしら?

 マッシが、課題をやっていなくても慌てない、あれがゆとり?

 レント様は口調と表情は柔らかいけれど、いつも忙しそうで、ゆとりはあるのでしょうか?ぼーっとして見える時も、深く考え事をしている様ですし。

 確かにセラム・シンコク殿は性格がおおらかに思えた。良くは知らないけれど。でもゆとり?どちらかと言えばおおらかと言うよりはルーズっぽかった様な気もするし、せっかちまではいかなくても気は長くない様に思える。


「皆様はやはり、爵位を嗣ぐ方が好ましいのでしょうか?」


 ゆったりもおおらかもゆとりもピンと来なかったスーノは結局は、爵位や地位ではないのかと思って訊いてみた。

 少女達は顔を上げてスーノを見て、それからお互いを見て、またスーノに顔を向ける。


「それは、ねえ?」

「同じ様な方から求婚があれば、爵位を嗣ぐ(かた)(ほう)に応えるのではありませんか?」

「そうよね」

「自分は貴族の生活が出来ても、子供が貴族のままでいられるかそうではなくなるかは、大きな問題ですし」

「叔母達を見ていると、貴族を外れると途端に生活の規模が小さくなるもの。自分の子をあれに耐えられる様にって、教育できるイメージが湧かないわ」

「そう言う事を色々と考えると、やはり親や親族の言う通り、爵位を嗣ぐ方の元に嫁がなければと思うわよね」

「そうですね」

「でも、そう言う方の事は、上級生の皆様も当然狙っていらっしゃいますし」

「コーカデス閣下やマッシ・シロント殿も狙われているわよね」


 それはスーノも感じていた。

 最近は廊下に上級生がいる事があるし、まだ挨拶だけだけれどマッシは声を掛けられている。レントは爵位を持っていて格が上がっているから向こうから声は掛けられていないけれど、声掛け待ちなのは視線で分かる。最近はぼ~っとしているレントは、気付いていない様だけれど。


「もし皆様の中にマッシに好意を寄せて下さる方がいらっしゃるのなら、わたくしがお手伝い出来るかも知れません」


 スーノの言葉に少女達は目を見開く。


「そうなの?」

「よろしいの?」

「はい」

「スーノ様?わたくしもよろしいのでしょうか?」

「ええ」

「わたくしも?」

「もちろんです」


 スーノは少女達を見回した。


「シロント子爵家がどの様な女性を求めているのか、それに付いてはお伝え出来ますし、マッシの好みも調べられるかも知れません」


 少女達の表情が明るくなる。


「ですが、お一人お一人の御要望には応えかねますので、皆様御一緒にとなりますが、それでもよろしければ、となります」


 少女達は僅かに目を細めて、お互いを見合った。そしてスーノに視線を戻す。


「私はそれで良いわ」

「わたくしも」

「わたくしも是非、それでお願いします」

「そうよね。私もそれで結構です」


 少女達は口々に同意を示し、肯き合った。


「それなら私は弟の情報を提供しましょうか」

「そうなの?」

「それは素敵ですね」

「あなたは?お兄様がいらしたわよね?」

「はい。まだ婚約の話は出ておりませんので、よろしければわたくしも兄の情報を提供させて頂きます」

「私の兄は結婚しておりますが、爵位を嗣がない従兄弟でもよろしければ、私も情報を提供出来ます」

「そうよね。どなたとどなたが結ばれるか分からないけれど、予め人柄とかを知る事が出来るのは嬉しいわよね」

「ええ。何より上級生の御令嬢達に負けない様にしないと」

「来年はセラム・シンコク様も入学なさいますし」

「そうよね」

「サニン殿下も」

「ええ~?サニン殿下はさすがに手が届かないのではない?」

「公爵家の方との結婚が決められているのではありませんか?」

「でもコウゾ公爵家にも他の二家にも、御令嬢はいらっしゃらないし」

「これから生まれるにしても、歳が離れ過ぎになるのではない?」

「そうですね」

「サニン殿下の情報は集まるのか分からないけれど、ここにいる皆では出来る限り情報を共有しましょうよ」

「そうですわね」

「それでお互いに協力し合いましょう」

「ええ」

「そうですわね」

「是非」


 話が思わぬ膨らみをみせたけれど、スーノは積極的にシロント子爵家とマッシの情報を提供する事で、レントを皆の注目から外せられそうになり、小さくほっと息を吐く。

 そして自分の配偶者候補になるかも知れない令息達の情報も楽しみに思え、自然に笑みを漏らした。

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