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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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08 交際に絡む、交わる、交わらない

 平民から貴族に交際練習を申し込む事は出来なくは無いが、身分の壁があるので中々難しかった。普段から貴族と交流のある平民は、己の()を弁えていると言うのもある。

 貴族から平民に申し込む事もなかった。普段の貴族の目には、平民が交際相手として映る事はないからだ。


 貴族の子息令嬢と平民の子女が共に通う学院でも、それは同じだ。

 貴族が平民に交際練習を申し込んで断られたら名誉が傷付く。たとえ練習でも、そう思われていた。

 平民が貴族に申し込んだら、()い様に振り回される。申し込み自体が弱味として利用されると思われていた。

 普段近くにいるから尚更の事、学院の学生達は身分を越えた交際練習に踏み出さなかった。


 そして貴族同士や平民同士の組み合わせなら、相手は異性でも、あくまで友人として付き合える。もし相性が悪い様なら交際の解消を相手に申し出れば良い。

 その気安さが申し込みのハードルを下げて、多くのカップルが生まれた。


 そして平民の場合には、そこから婚約にまで進む人達も直ぐに現れた。

 一方、貴族ではそこまで進む事はまず無かった。



 この国の王子も王女もまだ婚約者を決めていない。


 それなので王族の配偶者として家格の釣り合う上位貴族の年頃の子息令嬢は、やはり婚約を決められないでいた。そうなると上位貴族と婚姻を結ぶ可能性のある中位貴族でも、中位貴族と結ばれるかも知れない下位貴族でも、婚約は中々決められない事になる。


 そんな状況の中、他家の子供が練習で交際技術を磨くなら、自分の家の子にも交際下手(ベタ)の烙印を押させる訳にはいかない。

 しかし同じ相手と交際練習を続けて情が()いたりする事は、貴族の場合には望ましくない。深い仲にでもなってしまったら、将来の縁談に影響する。


 そこで貴族の場合は交際練習を(いえ)が干渉する事になり、定期的に相手を替えさせたり、複数の相手と並行して交際する様に勧めたりする事になった。



 ある貴族家では・・・


「お前宛に交際練習を申し込みまれたのだが、どうだ?これがお相手の釣書だ」

「もう無理よ」

「そう言わず、見るだけでも見てみたらどう?」

「今だって時間のやり繰りが難しいのよ?もう一人増やすなんて、絶対無理だわ」

「あちらは今回が初めてだと言うので、予定はこちらにすべて合わせると言っている」

「初めてなら他の(かた)を選んで頂いた(ほう)がよろしいわ。そうお伝えして下さい」

「いや、お前が交際練習に慣れているからと、指名されたんだ」

「断れない所なの?」

「どうしてもと言うなら、何とか断るが」

「お会いするだけでもしてみたら?」

「そうだな。会わない内にだと(いえ)からは断り(にく)いが、会ってからなら相性が良くないと断るのはおかしくない。婚約と違って、単なる交際練習だからな」

「それなら、最初から断って頂きたいです」

「それでも相性が分かっている(かた)となら、将来婚約に進め易いわよ?なるべく多くの(かた)と交際練習した(ほう)が、あなたの幸せに繋がると思うのだけれど」

「でも、他の(かた)との出来事と勘違いして話が通じなかったり、別の(かた)とお会いするつもりで出掛けて違う(かた)がいらして驚いてしまったり、自分の事が恥ずかしいやら情けないやら、もう(つら)いの」

「そうなのね」

「練習相手を減らすか?」

「良いの?」

「ああ。仕方ない」

「そうね。どなたを減らすか、自分で選べる?」

「最初の(かた)と二番目の(かた)はどう?」

「その(いえ)なら、どちらでも良いぞ」

「あなたが自分から申し込んだ(かた)も良いの?」

「もう、話す話題も余りなくて。彼も色々と話題を持って来てくれるのだけれど、他の(かた)の一周遅れだったりするし。出掛け先も別の(かた)と既に訪れて居たりして、何かと気拙いの。二番目の(かた)もだけれど」

「そうか」

「それならお二人とも、お断りしたらどうかしら?」

「いや、二人同時は避けてくれ。取り敢えず一人断って、今回の新しい相手と交際練習する事が決まってから、もう一人との練習終了にして欲しい」

「次がなければ二人目とは交際を続けさせるって事なの?」

「他にも断っている相手がいるんだ。交際相手を減らし過ぎると捻じ込まれる」

「分かりました。新しい(かた)とお付き合いをするかは分かりませんけれど、それで良いのよね?」

「ああ、そうしてくれ」

「では一人、お断りしますね」

「ああ。私から断って置く」

「いえ、先ずは私が自分で断ります」

「大丈夫なの?」

「はい。断る練習になりますので」

「そ、そうか」

「こんなに嬉しそうなら、もっと早く断る話をしてあげたら良かったわね」

「まあ、中々そうも行かなくてな。頼むから、他の相手を勝手に断るんじゃないぞ?断る時はまず相談してくれよ?」

「はい。でも何だか少し、楽しみです。どう断ろうかしら?」

「あなたの表情が明るくなって良かったわ」

「はあ・・・くれぐれも穏便に頼むぞ?」



 そんなこんなで年頃の貴族も平民も乗っかった交際ブームは、贈り物やパーティーの需要を発生させ、少なくない経済効果を産んだ。


 また新たなサービスを提供する者も現れた。

 送り迎えが間に合わない時に代行したり、ダブルブッキングの代理で社交に参加したり、刺繍を代わりに刺したり、手紙の文面まで考えて代筆したりする事で、そこそこの収入を手にする者もいた。

 また交際練習の初心者にチュートリアルを提供したり、相手の歓心を買いたい人に手段をレクチャーしたり、マンネリになって来たカップルにデートプランを提案したり、行き詰まり気味の交際下手(ベタ)の人のコンサルタントになったりする者も現れた。それと交際練習をしたい人同士を紹介するマッチング業者も出て来た。

 そしてそれらは羽振りの良い、憧れの仕事と見做(みな)された。



 周囲が非常に盛り上がる中、バルとラーラは自分達のペースで交際の練習を進めて行った。しかしそれは、もちろんハイペースだ。

 頻度や濃度では他の追随を許さないが、それは二人の立場が違うからだ。


 二人は身分が違うから婚約も結婚もあり得ない。養子縁組で身分を揃えてからなら可能だけれど、その為には二人の実家の了解と、養家(ようか)になってくれる(いえ)の協力が必要だ。

 (いえ)の都合でなら実現するかも知れないけれど、二人の気持ちだけでどうにか出来るものではない。


 また二人が愛人関係になったりする筈もない。

 バルは実は騎士志望で、将来は堅実な暮らしをする予定だ。

 ラーラは大商家の娘でお金にも縁談にも困らないし、将来は信用し合える結婚相手を選ぶだろう。

 それなのでバルもラーラも、愛人を持つ側になる事も愛人にされる側になる事も、考えにくい。

 二人ともそれらが分かったから、出会ったばかりでも躊躇(ためら)わずに、お互いの心を近付ける事が出来た。


 そしてどちらかに婚約者や恋人が出来たら交際を()える約束だ。

 その時にバルとラーラが交際していた事に付いて、婚約者や恋人に不要な嫉妬を抱かせる訳にはいかない。二人の間には友情はあってもそれだけで、他に何も無いのだから。出来たらそれぞれの結婚後も家族ぐるみで付き合えると嬉しいけれど、その為にはパートナーに疑われる様な事があってはならない。

 だから自分は踏み(とど)まれるし、相手も踏み(とど)まってくれると信じ合えていた。


 異性の友人と言う関係に固定された二人の絶妙な気持ちの距離が、特殊な緊張感を二人の間に産み出していて、それがハイペースを促す燃料になっていた。

 二人とも、お祭りの時の様な期間限定の非日常の楽しさを感じていて、テンションが高くなっているのだった。



 二人のペースに引き摺られる様に、交際ブームは勢いを増して行った。


 もちろんその交際ブームに乗らない人々もいる。

 侯爵令嬢リリ・コーカデスもそんな一人だった。

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